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【前回までのあらすじ】


・サリーとレイさん、仲良くなる

「サリーはなんであんなところにいたの?」


俺はハンドルを握りながら、助手席で楽しげな笑みを浮かべる美女に声をかけた。ヒザの上にはのんびりとくつろぐネコ。


「そんなの、あなたに会いに来たに決まってるじゃない。」


なにを当たり前のことを、といわんばかりに答えるサリーに思わず顔が熱くなる。サリーは助手席の窓を全開にしているので、吹き込む風が笑う彼女の艶やかな黒髪を揺らしていた。


なにこれすごい照れる。


レイはサリーを認めたせいか、特にリアクションすることもなく俺のヒザで丸まっている。


俺たちは今、車に乗って荒野をぶっ飛ばしていた。どこまで行っても代わり映えしない茶色い大地と青い空。ちなみにサリーはオフロードタイプのバイク(この世界でバイクなんて初めて見た)に乗ってきたというので、バイクを車の屋根に無理やり縛り付けて運搬している。


雑な扱いだが文句のひとつもなく、特に思い入れのあるバイクというわけでもないのだろうか?使い込んである風だし、サリーの愛車かと思ったのだが・・・サリーは「あなたが運転するの?じゃあ助手席に座るわ。バイク?どうでもいいわよ。」と言っていた。


「お・・・おおぅ・・・。」


「ふふっ・・・もっと喜んでくれてもいいのよ?真っ赤になってるってことは、まんざらでもないのかしら?」


「お・・・おおぅ・・・。」


完全に遊ばれている。遊ばれているが・・・なにこれ悪くない。新しいいじられ感。げへへ。


「あなた、ネッコワークを首都に展開するって言ったのに、全然音沙汰がなかったじゃない?だからネコの町に言って事情を聞いて、それから私の情報網を使ってあなたの居場所を探って・・・なかなか大変だったのよ?」


「わかるですよ、サリー!レイもめちゃ大変だったです。ご主人さまの存在感の薄さは天下一品ですからね!」


「ほんとよね、何十人も使って探したのに箸にも棒にもかからないのよ。さすがにちょっと参ったわ。」


サリーは笑いながら言うが、本当に全力で俺のことを探してくれたようだ。嬉しいと同時に申し訳なく思う。それに自分でも不思議なのだけど、あんなに人から逃げ回っていたのにサリーが追いかけてくれたことを疎ましく感じていない自分がいる。


「ええ・・・なんかすみません・・・それに、ありがとう。サリーが来てくれなかったら今ごろ、ナマモノたちの駅弁かなにかにされて美味しく頂かれてたところだよ。」


「いいのよ、私が勝手に探したんだから。ふふふ・・・でもそうね、借りだと思っててくれるならそれもいいわね。・・・あとでたっぷりと返してもらうわ。」


妖しく笑うサリーは、ただ座っているだけで絵になる。うっかり視線が釘付けになって小さなナマモノを何匹か轢いてしまったので、話題を変えることにした。


「えっと、なんだっけ、そうそう、この近くの町に戻るのはいいんだけど・・・これからどうするの?俺としては少しでも早くマキちゃんを助けに行きたいんだけど。」


「ええ、もちろん分かっているし、私もそのつもりよ。まぁここはひとつ、この伝説の女に任せておきなさいな。」


すぐ見た目に騙されそうになるが、サリーは今の文明を築き上げたリーダーであり、無数の遺跡を攻略して人類が住める町に変えていった伝説の戦士でもある。不敵に笑う彼女の言葉には、不思議なほどに安心感があった。


レイがよく言う「大船に乗った気でいるですぅ」とはえらい違いだ。


「ん、ご主人さま、なにか失礼なことを考えてないですか?」


「え、あ、いや、ぜんぜん?」


心を読んでくるとは・・・いよいよお前はマキちゃんか。



「はい、これがトキオステーション遺跡のマップよ。」


そういってサリーが木製のテーブルに広げた紙には、階層ごとの詳細な地図が描かれている。ここはトキオステーション遺跡から1時間ほどの位置にある町の酒場。近くで良質なスピーカーが自生しているためにオーディオの町などと呼ばれているところで、俺とレイが護衛を募集したのにひとりも引っかからなかったのもこの酒場である。


時刻は夕方で、広い店内にはいくつもテーブルが並び、地元のハンターやレイダーたちが楽しげに酒を飲んでいた。


「おお・・・!こんなの、どこで手に入れたの?」


俺の質問に、サリーは得意気に微笑み、腕を組む。押し上げられた胸元につい目がいくが・・・気をつけろ、サリーのことだから、わざとやっているに違いない。違いないが目がいく。違うんですよレイさん、噛まないでください。


「あなた達を探してこの町にも寄ったから、その時に部下に探すよう命じておいたのよ。首都にモリサワの鉄道事業をやっていた子会社のビルがあったから、そこから発掘したようね。たった数日でよく見つかったものだわ。」


どの町にもサリーの部下が必ずいるらしい。さすが世界の支配者。すごいのは胸元だけじゃない。レイさん、噛まないでください。


「モリサワのビルってたくさん残ってるんだね。」


俺の言葉に、サリーは首をかしげる。


「っというか、モリサワに関連する建物しか残ってないわね。」


「え?」


「・・・現存する遺跡は全部モリサワ関連のものなのよ。」


「・・・そうなの?」


「そうよ。ちなみに今の首都は、かつてモリサワの子会社が集まっていた地域ね。」


知らんかった。


この世界に残ってる遺跡が全部モリサワ関連のもの?じゃあ、世界がこんなになったのって絶対アレじゃん、モリサワのせいじゃん。なにがあったのかは知らないけど・・・。


「・・・まぁ、今その話はいいか。」


「そうね。それじゃあ具体的な作戦の話に移りましょう。まずはここ。」


そう言って、サリーは地図の一点を指差した。


「ここがあなた達が侵入した入り口。かつての呼び方をするなら『ヤエス方面口』ね。」


「ふむふむ。」


なんか一気に駅っぽい感じになるな。サリーはそのまま指をツツツと滑らしていく。


「ここから侵入して東側自由通路を通って地下の商業エリアに入ったのが前回の侵入ルートよ。ここからは私のカンだけど、エキィーンの動きと構造から考えて、おそらく『宝物庫』はここにあるわ。」


指差すその場所は・・・


「お忘れ物預かり所?」


「そう。」


「すごいなサリーは。なんでわかるの?」


「長年の経験と女のカンよ。」


「カンなのか・・・。」


カンといっても伝説の戦士のカンであって信ぴょう性は高い。他にアテがあるわけでもないし。


しかしお忘れ物預かり所と呼ぶと調子が狂うな。


まるで俺たちがお忘れ物預かり所にたどり着けない田舎者みたいだ。おまけに都会の駅員さんは道を教えてくれないばかりか追い出しにかかってくるという。トキオは恐ろしいところだべ。


「さて、ところでトキオステーション遺跡には入り口が複数あるわ。」


「え?そうなの?」


「それはそうでしょ。大きな乗り換え駅なんだから当たり前よ。といってもなぜか遺跡の大部分は地面の下に埋まっているから、使える入り口は多くないわ。」


うん、冷凍前は引きこもっててほとんど外出なんてしなかったから、駅の常識なんて頭から抜けてたぜ。うんうんと気づいてたフリをする俺をスルーして、サリーが地図の端の方を指差した。


「私の部下の報告によれば、この『マルノーチ口』は侵入が可能だそうよ。こちらからでも『お忘れ物預かり所』にアプローチすることは可能だし、むしろ距離してはかなり近い。宝物庫までの距離が短ければ、それだけエキィーンに発見される確率も下がるわね。ただし、問題がふたつ。」


「問題?」


「通路の途中が落盤で埋まっているそうよ。これは爆弾か何かで道を開く必要があるわ。」


「ふむふむ。もうひとつは?」


「エキィーンとは別の、正体不明のナマモノが多数生息しているそうよ。これを撃退しながら爆弾を設置する必要があるわね。」


「・・・無理じゃん?」


「腕のいい助っ人が必要ね。・・・まぁ心配いらないわ。こういうのは不思議と集まるものよ。募集はかけておいたから、お茶でもしながら待ちましょう。」


サリーの言葉に俺は首をかしげる。


俺とレイも助っ人は募集したのだ。それも超高額報酬というエサをブラ下げて。それでも人はひとりも捕まらず、レイと俺だけで遺跡にアタックするハメになってしまった。


サリーさん、適当に言ってるんじゃないの?俺とのんびりお茶できるチャンスね!うふふ!とか思ってない?


などと勘ぐっていると、背後から野太い声がかかった。


「おい、アンタ達がトキオステーション遺跡にアタックしようって連中だな?まだメンバーの募集は有効か?」


お茶を始めて5分も経っていない。


嘘だろ。俺は驚いて、声をかけてきた男よりも先にサリーの方を見た。疑ってごめんなさい、さすがです、サリーさん。あなたの言うことはいつも正しい。


しかしサリーはというと、不機嫌そうに俺の方を見てつぶやいた。


「・・・嘘でしょ・・・のんびりお茶できるチャンスだと思ったのに・・・。」

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