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サリーとレイ

【前回までのあらすじ】


・きちゃった

「サリー・・・え、本物?」


俺は突如として出現した人物をとっさに理解できず、とてつもなくマヌケな言葉を吐き出した。そんな俺を見たサリーは何が楽しいのか、場違いな色気を出しながら妖しく笑っている。


「そんなことより・・・とりあえず逃げましょう?」


サリーはそう言って俺に手を差し出した。


うん、もっともな意見だ。敵はこうしている間にもどんどん天井から出現して倒した分があっという間に補充されているし、目の前に存在しているのがサリーなのは疑いようがない。通路を埋め尽くしたロボットの群れを巨大なブレードでなぎ倒しながら助けに来れる細身で生身の美女がいるとしたら地球上でサリー以外にあり得ないので、目の前にいるのは100%間違いなくサリーなのだ。とりあえず今はそれでいいじゃないか。


「うん、逃げよう。」


俺がサリーの手を取ると、彼女は強く手を引いて走り出す。あんなに巨大なブレードを振り回しているのが信じられないほど華奢で柔らかく、温かい手。ふわりとサリーの香りがして、空母での戦いと・・・サリーのまばゆい裸体を思い出してドキドキする。


そんな俺たちを見たレイのネコは、追いすがる敵の群れに攻撃をくわえながら、フシィィィィィ!と威嚇した。フシィィィィィの相手はエキィーンの群れではなくてサリーだ。


「ご主人さまをカッコよく助けるのはレイの仕事ですのに!泥棒ネコです!」


サリーはレイの方をちらりと見てからすぐに正面に視線を戻し、立ちふさがるエキィーンたちを片手で切り飛ばしながら言った。


「あら、ネコは貴女のほうじゃない。初めましてかしら、私はユニオン・サリーよ。」


「ご丁寧にどうもですぅ!前にチラッと会ってるですけどね!レイはご主人さまのレイですどうぞよろしくぅーーー!」


「レイ、仲良くしてよ・・・。」


通路を埋め尽くすエキィーンをなぎ倒しながら俺たちは進んでいく。背後から迫る敵はレイと俺のホワイティが迎撃し、進行方向の敵はサリーがこともなげに切り捨てた。相変わらずサリーはすごい。なぜかは分からないが片手はしっかりと俺の手を握ったままなので、反対の腕だけで敵の群れを割っていくのだ。俺が同じブレードを持っていても、きっと1メートルも前進できずにエキィーンの群れに飲み込まれるだろう。


っていうか両手で戦ったほうがよくない?どのみち迷子になりそうもないほど周囲は敵の群れに埋め尽くされている。


「ねぇ、サリー。別に俺の手なんか握ってなくても、はぐれたりしないと思うよ・・・?」


「ええ、そうね。」


サリーはいっそう強く手を握ってきた。なんでだ。


「サリー、両手で戦ったほうが楽じゃない?」


「ええ、そうね。」


ちらりと見えたサリーの横顔は実に楽しげにニコニコしているし、まったく手が離される気配はない。それを見たレイは明らかにイラつきを増していた。レイに攻撃されたエキィーンがさっきまでは美しく首を切断されていたのに、今はぶつけられたストレスで木っ端微塵になっている。ただの八つ当たりだ。


「サリー様ァァァァァ?ご主人さまは『手を離せ』っておっしゃってらっしゃっていらっしゃってるんですよぉぉぉぉぉ?」


「落ち着いてレイ、言葉がおかしいよ。」


サリーはふと俺の方を振り返ると、上目遣いで俺を見た。瞳はうるみ、(片手で軽々に見えるけど)激しい戦闘のためか頬がほんのりと赤い。おまけにとても近く、身体はほとんど密着せんばかりだ。俺の心臓がドクンと飛び跳ねたのは、サリーが戦闘中にも関わらず敵の群れに堂々と背を向けているから・・・ではない。あざとい、しかし凄まじい破壊力。サリーはその艷やかなくちびるから、甘い吐息とともに言葉を漏らした。


「私と手をつなぐの・・・イヤかしら?」


「イヤじゃないです。」


「ご主人さまァァァァァァァ!?」


数多の敵を打ち倒し、残骸の山を踏み越え、俺たちはどうにか上り階段を発見して、侵入してきたフロアまで戻った。エキィーンたちは地下のフロア外までは積極的に追ってくることもないようだ。ほとんど入り口の近くまで戻って敵が追ってこないことを確認すると、ようやく俺たちは一息つけた。サリーがブレードの刃をチェックしている・・・もちろん、片手は俺と繋いだままで。


「さすがにちょっと刃こぼれしたわね・・・手入れが必要だわ。」


「・・・サリーさまぁぁぁぁ?いい加減、ご主人さまから手を離していただきたいんですけどぉ!」


いつの間にかレイのホログラムが出現してサリーを睨みつけている。サリーはそんなレイを見て、しかし余裕の笑みを崩さない。


「ふふふ・・・いいじゃない、ここは恐ろしい迷宮の中よ。女の子の手を握って安心させてくれるのは男性の役目だと思うわ。」


「あれだけ敵のロボットを片手でぶった切っておいて恐ろしいですか!?嘘つけですぅ!」


「こう見えても怖がりなのよ。そんな剣幕で迫られたら・・・ふふ、ネコちゃんも怖いわ。」


そう言ってサリーは俺にしなだれかかるように身体を密着させる。いやん!この人、どうしてこんなにいい匂いがするんだろう!ギリギリだったレイの怒りは簡単に我慢の限界を超え、ホログラムを消すと同時に凄まじい勢いでサリーに飛びかかった。レイは冷酷な戦闘用アンドロイド、ナナのように人間に対する攻撃を抑止する機能なんて付いていない。


「なかなか・・・早いわね!」


「チッ!これならどうです!」


ネコの爪と電子ブレードがぶつかる度に、暗闇を激しいスパークが照らし出す。俺の目ではほとんど捉えることができないレイの攻撃を、しかしサリーは片手でブレードを振るって全て防ぎきり、さらに反撃を繰り出す余裕すらみせていた。最初のうちは手加減していたのだろうか、俺の目には早すぎるレイの攻撃が、一撃ごとに加速していく。


「ちょ、ちょちょちょっと・・・ふたりとも!やめて!」


俺が2人のケンカ(?)を止めようと一歩踏み出した瞬間、サリーに弾き飛ばされたレイが俺に向かって突っ込んできた。ネコの歯と爪に装備されたマイクロウェーブカッターは軽々と俺の腕を肘のあたりで切断し、俺は尻もちをついて倒れる。レイのネコはもちろん、空中で体勢を整えて静かに着地している。サリーはそんなレイを見下ろし、ふふんと鼻で笑ってみせた。


「ご主人様の腕を切断するなんて、悪いネコさんね?」


しかしレイも負けてはいない。ネコはピョンとひとつ飛ぶと、俺の胸の中に飛び込んできた。


「ふふん、でも繋いでた手は離してやったですよ?」


暗闇の中、静かに睨み合う2人。なにこれどうすんの。


しかし、しばしの沈黙の後、2人は同時に笑い始めた。最初は小さく、段々と笑い声は大きくなり、遺跡の中に女子2人の大笑いが響いた。俺?俺は完全に取り残されていますよ。サリーはネコの前に膝をつくと、そっと手を差し出した。


「やるわね、レイさん。」


ネコはその手に前足をポンと乗せる。


「呼び捨てでいいですよ、サリーさま。」


「そう?じゃあ私のこともサリーと呼んでちょうだい、レイ。」


「わかったです、サリー。ふふふ。」


「ふふふふふ・・・。」


サリーが出口に向かって歩きだすと、レイも俺の胸から飛び出してその横に並んだ。2人はなんだか知らないうちに認めあったらしく、楽しげにお話しながら歩いていく。ケンカして親友になるとか・・・お前たちは昔の不良少年か。なんか学生帽かぶって草とか咥えてるのか。イメージが古いわ。っていうか俺は完全に取り残されていますよ。


「ちょ、ちょっと待って・・・俺の腕、どこいった?待ってよ・・・。」

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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