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エキィーン

【前回までのあらすじ】


・マキちゃんの残骸は遺跡の中にありそう

・遺跡へのアタック開始

「これは・・・駅だな。」


暗い遺跡の中に俺の声が響く。かなり小さくささやいたつもりだったが、周りが静かすぎるのか恐ろしく物音が響くようだ。俺の少し先を歩くレイのネコが、あたりを油断なく見回しながら進んでいく。


「エキってなんですか、ご主人さま?」


「ああ、駅を知らないのか・・・そりゃそうか。」


トキオステーション遺跡という名前を聞いた時から薄々そうなんじゃないかと思っていたが、ここは旧文明の駅だ。それも当時から「ダンジョンみたい」と揶揄されていた、複雑怪奇な作りの乗り換え駅。複数の路線が乗り入れているため、とても人間の手に負えないほど複雑で立体的な構造になってしまった施設である。まさか本当にダンジョンと化しているとは。


「駅っていうのは、電車っていう乗り物に乗るための施設で・・・ええーっと・・・」


「ん、ナマモノがいるです!」


俺の説明を遮るように、壁に埋め込まれていた機械・・・券売機が飛び出してきた。短い手足が生え、俺に向かって何かを発射してくる。


「アンナイニシタガッテガメンヲタッチシテクダサイタッチタッチタッチタッチタッチ」


「おっと」


俺の服の裾から凄まじいスピードで飛び出してきたのは白い触手・・・ホワイティ・ラバーだ。バージョンアップしたホワイティは、俺に向かってくる攻撃を自動的に防御してくれる。ホワイティに叩き落されて地面に落ちたそれは、超高速で射出された紙の切符だった。かなりの速度だったので、もし普通の人間に命中すればケガでは済まないだろう。


「レイちゃんアターーーック!」


「オツリガデマスマスマスマスマスマス」


レイの一撃で、券売機は真っ二つに両断されて倒れた。動かなくなったのを確認し、近づいてよく見てみる。


「これは、壁で獲物を待ち構えるナマモノってところかな。どう見ても券売機だけど。」


「そうですね・・・町で聞いた話では、この遺跡で出る一番厄介なナマモノは『エキィーン』と呼ばれているそうです。これがそうですか?」


「いや、弱すぎるからたぶん違うと思うけど・・・。エキィーン、エキィーンねぇ・・・なんか弱そうな名前だね。」


侵入を開始して1時間、慎重に進んでいるとはいえ今のところ際立って危険な出来事は起きていない。普通の遺跡程度にナマモノが出るが特別に強いわけでもなく、ものすごいトラップがあるというわけでもない。


「とりあえず、地下の方に行ってみよう。『宝物庫』がありそうなところといったら、多分地下だろうし。」


「はいです!レイちゃんに任せるのですよ!」


トキオステーション遺跡のナマモノはアリのような生態を持っていると聞いたが、今のところそのように組織だった様子は見られないし、お宝を集めている『宝物庫』らしき場所も見当たらない。まだ入ってそれほど進んでいないから、探した場所は地上に近い。大事なものは地下深くに隠すのがセオリーだろう。ひょっとしてあくまで噂は噂、そんなものは最初からないのかもしれないが・・・。


とにかく俺たちは階段を見つけることに成功し、地下を目指して降りていった。


「シッ!」


階段を降りきった直後、レイのネコが振り返って警戒を促す。息を殺して物陰に潜んでいると、ノシノシと歩く足音が近づいてくるのがわかった。人間ではない、ズシズシと重量感のある重い足音だ。・・・なんで隠れているとこんなに怖いのだろうか。さっきの券売機みたいに堂々と襲われてもそんなに怖くないのに。


(あれは・・・人型ロボット?)


歩いてきたのは、極めて人間に近いシルエットを持ったロボットだった。見た目は成人男性そのものだが、顔はアイカメラが一つ付いているだけのシンプルな作り。変わっているのは服装で、きっちりした軍服か学生服のような服を着て、特徴的な帽子もかぶっている。


(・・・これは、駅員さんか?)


そう、これは駅員ロボットだ。あまり電車に乗る方ではないが、何度か見たことがある。旧文明の駅ではかならず複数の駅員ロボットが配備されていたのだ。


目の前の駅員ロボットは、肩に人間のようなものを担いでいる。一瞬死体かと思ったがすぐに違うとわかった。あれはアンドロイドの残骸だ。レイと同じような。マキちゃんではないが、おそらく同じ研究所の残骸だろう。


(きたきたきた・・・間違いない、ああやって貴重なものを運んでるんだ!)


(ご主人さま、いきましょう!あれの行く先に、きっとマキ姉さまがいるです!)


俺とレイは可能な限り静かに、駅員ロボットを尾行する。駅員ロボットはいくつも角を曲がり、明らかに従業員用のエリアへと入っていき、真っ暗な通路を迷いなく進んでいった。そして縦横20メートルはありそうな、巨大な鋼鉄の扉の前で立ち止まる。


(明らかに重要っぽい扉だね、レイ。)


(きっと、きっとあの先にマキ姉さまがいるですよ!)


その時だった。


興奮した俺は、無意識に物陰から身を乗り出してしまった。そしてその足元に、小さな石が落ちていた。足と石がぶつかり、コツンとほんの小さな音を立てた。


(・・・!)


思わず息を止め、駅員ロボットの方を見る。・・・大丈夫だ、駅員はこちらに背を向けたまま、扉が開くのを待っている。こちらには気づいていない。


(・・・ああ、焦った。あやうく見つか)


「シマルドアニゴチュウイクダサイ」


目の前に駅員が迫っていた。無機質な声でまるでどうでもいい言葉を発しながら俺に飛びかかろうとしている。


俺の脳内で時間が引き伸ばされ、まるで止まったように感じる。そんな中をスルリと一つの影が動き、駅員ロボットに痛烈な一撃を食らわせてから俺の目の前に着地した。時間の早さが戻り、影・・・レイのネコとホログラムが俺を睨む。


「ご主人さまのアホ!オマヌケ!ドジっ子!見つかっちゃったです!」


「ご、ごめん・・・。いやドジっ子って・・・。」


しかし後方に弾き飛ばされた駅員ロボットは、首が切断されてそのまま起き上がることはなかった。あれ?もう終わり?


「なんだ、弱かったのか・・・。これが要注意な『エキィーン』じゃなかったのかな?」


「ご主人さま、逃げる準備です!」


「え、なんで?」


俺がマヌケな声を上げると同時に、目の前に3体の駅員ロボットが出現していた。その後方にはさらに3体、その後方にまた3体・・・次々と天井から降りては整列していき、見る間に空間が駅員ロボットで埋まっていく。


数の暴力。


それがこのロボットの強さ、この遺跡の恐ろしさらしい。そして俺は理解した。これが注意すべきロボットだったのだと。


「エキィーンじゃなくて、エキイン・・・駅員、か。なぁーるほど。」


「納得してる場合じゃないです、退路を確保するですよ!ご主人さまの天然なところも嫌いじゃないですけど!」


レイの爪と牙が何度も振るわれ、俺のホワイティ・ラバーもプラズマハンドガンを乱射して駅員の数を凄まじい勢いで減らしていく・・・が、それ以上の速度で駅員は増殖していった。とにかく着た道を戻ろうとするが、すでに通路は駅員で埋まっている。


「嘘だろ、いつの間にこんなに・・・?」


「ご主人さま、レイがなんとかして脱出路をこじ開けるです!はぐれちゃだめですよ!」


レイは果敢に駅員の群れに特攻するが、あまりの数に退路を確保するどころではない。物量の壁に弾かれるばかりで、俺たちはほとんどその場から動くことができなかった。手を伸ばしてくる駅員をホワイティが撃ち抜き、レイが切り飛ばす。


まるでゾンビ映画のクライマックスだ。とてもじゃないがしのぎきれない。


「こんな時、マキ姉さまならきっとこいつらをまとめてハッキングしてしまうのです・・・レイにはできません・・・!」


「俺も無理だよ・・・俺がサリーみたいに強かったら、こんな連中あっという間に蹴散らしてやるのに。」


電子ブレードでぶった切り、殴り倒し、蹴散らしてあっという間に退路を確保するんだ・・・そう、こんな風に。


ん、幻覚かと思ったら、どういうわけか本当に駅員たちが目の前で吹き飛び、切り飛ばされ、通路に折り重なって倒れていく。それはまるで小さな竜巻にでも巻きこまれたようだ。美しい黒髪をなびかせ、完璧に均整のとれた肢体を存分に振り回して戦う様は相変わらず激しくも美しい。それはおそらく生身の人間が発揮できる最高レベルの戦闘能力であり、こんなことができる人間は世界でひとりしかしない。


気がつけば通路には駅員の残骸が積み上がり、俺の目の前には伝説の戦士が立っていた。薄く頬を染め、満面の笑みで。


「・・・え、サ、サリー?なんで?」


サリーがふっと笑ってから一回転すると、まわりの駅員が綺麗になぎ倒されて、一瞬だが安全な空間が広がった。まるでミステリーサークルを作るUFOだ。


ミステリーサークルの中心で、ミステリーに満ちた美女はペロリとくちびるを舐めた・・・ただそれだけにも関わらず、恐ろしく妖艶な仕草だった。


あっけにとられる俺に向けて、その濡れたくちびるから、男性なら一度は言われたいセリフ・・・ただし、こんな戦場では聞くものではないセリフが紡がれた。


「・・・きちゃった。」

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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