確定
【前回までのあらすじ】
・主人公、マキちゃんの残骸を探す旅に出る
・レイと合流する
-- 探索記録 --
// 探索21日目
レイとふたりで探索することになった。
レイは野盗に捕まった俺を助けてくれた上に、俺の居場所をみんなに黙っていてくれるらしい。俺はまだ、みんなと再会する気持ちになれない。情けない主人で本当に申し訳ないと思う。それにしても野盗には大事なものを色々と奪われるところだった。本当にギリギリだった。車や武器が手に入ったので結果オーライと考えることにしよう。
// 探索22日目
レイとふたりでデータ収集を続ける。1人でやるよりはるかに効率がいい。というかレイの効率がすごい。目で見たものを自動的にデータ登録するプログラムを作ったとかで、俺のようにキーをカタカタ叩いてデータ入力しなくてもいいそうだ。
「ご主人さま・・・手作業で入力とか、やる気あるですか?」
と冷たい目で見られながら言われた。お前はマキちゃんか。ちょっとだけ興奮したが、マキちゃんに比べればレイはまだまだヌルい。ゴミを見るような目で俺を見ている。マキちゃんは地面に落ちているちぢれ毛をを見るような目で俺を見る。まだまだだぞ、うん。
// 探索22日目
データが集まり、シミュレーション結果がぐんぐん正確に、ブレなくなっていく。だが慌てない。俺たちが探すのは、砂漠に落ちた一粒の塩だ。もっと正確なシミュレーションが必要だ。
// 探索23日目
野盗に襲われた。
「ご主人さま、ちょっとそこで囮になっててくださいです。」
言われるがまま車を停め、地平の向こうから走ってくる数台のバギーを見ながらボケっとしていた。バギーが俺のところに到達する頃には首なしライダー状態になっていた。いつの間にか血まみれで助手席に戻ってきたレイのネコが、
「カッコよかったですか?」
とドヤ顔で聞いてきたのでコクコクとうなづく。血まみれの戦闘兵器にNOと言える人間などいるのだろうか。そんな俺を尻目にレイはとても満足そうだった。
// 探索24日目
最近は数十メートルあるような、巨大なナマモノもチラホラと見かけるようになってきた。電車が巨大なイモムシになったヤツとか、アリジゴクのように地面に隠れて、通りかかる獲物を引きずり込むプレス機とか。前にナナたちと一緒だった時はなんとも思わなかったけど、今は怖い。この世界の厳しさを再認識する。
// 探索25日目
レイのネコに弱点を発見した。
といっても戦闘能力的な意味ではない。首の周りを撫でると気持ちいいらしく、ゴロゴロとネコらしい声を出して寝転がるのだ。調子に乗って首からお腹の方まで撫ででいく・・・ほほう、なかなかさわり心地が良くてこれはなかなか
「キャッ!」
尻の方に触れた瞬間、俺の手首が綺麗に切断されて宙を舞った。車内が血まみれになった。
「ごめんなさいです・・・。」
「ええ・・・いや、なんか俺こそごめん・・・嫌だったよな・・・。」
「いえ、ちょっとびっくりしただけで嫌ってわけじゃ・・・いきなりお尻を触られたのでビックリしただけで・・・ゴニョゴニョ」
微妙な空気が車内を支配する。そうか、ネコとはいっても女子の尻だもんな・・・気をつけよう。
手首はすぐにくっついた。
// 探索26日目
今日でクレーターの中心から半径5キロのデータ収集が完了した。さらに探索エリアを拡大してデータ収集を続ける。
// 探索27日目
今日も盗んだ車を走らせてデータ収集。車内は血なまぐさいが仕方がない。
レイに教えてもらったので、車の運転ができるようになった。500歳を過ぎて初めての運転。はやくも何匹か小型のナマモノを轢いてしまったが、野盗の車は頑丈なバンパーガードが装備されているので車が壊れることはなく、ただナマモノがバラバラになっていた。
「ご主人さま、あんな小さなナマモノを次々と轢くなんて・・・運転上手すぎですぅ!」
「え・・・う、うん。まぁね・・・。」
この世界に免許制度がなくてよかったと思う。
// 探索27日目
シミュレーション結果がかなりブレなくなってきた。
もし爆発の中心にいたマキちゃんの中枢ユニットが何らかの方法で爆発に耐えて、
もし耐えられたマキちゃんのユニットが高高度からの落下にも耐えて、
もし落下したマキちゃんがナマモノに食べられたり、砂嵐や落雷などに遭遇することなく今も無事に存在できているのであれば、
高確率で落下したであろう位置を特定することができた。
マキちゃんが今も無事である確率を真面目に計算することもできるし、たぶんレイはその具体的な確率を計算しただろう。それはたぶん絶望的とかいう次元の数字ですらないと思う。考えるとついつい暗い気分になってくるが、レイはなにも言わず、いつも明るく俺に付き合ってくれる。
「やったですね、ご主人さま!マキ姉さまを迎えにいくです!」
弱い主人で本当に申し訳ない。
-- 探索記録ここまで--
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「ここだ、ここがその遺跡だよ。」
「ようやく到着したですね、ご主人さま。」
マキちゃんの落下位置を特定してからさらに1ヶ月。俺とレイは、とある遺跡の入り口にいた。岩壁にぽっかりと開いた洞窟。一見すると自然にできたものに見えるが、舗装された平らな地面が中へと続いている。
その名は「トキオステーション遺跡」。
ハンターたちはそこを、踏み入れれば帰ることのかなわない最凶最悪の遺跡だという。膨大な量の宝が眠っていることは間違いないと噂されながら、熟練のレイダーでさえ名前を聞いただけで震え上がる危険な遺跡である。挑戦者は数知れず、しかし生還者がほとんど存在しない。
この遺跡には独特のナマモノが生息していると言われる。それは「エキィーン」と呼ばれるアリのような組織構造を持ったナマモノの群れで、しかもお宝を溜め込む性質があるという。実際に遺跡の周辺では、貴重な物資をせっせと遺跡に運び込む「働きアリ」の姿が目撃されている。
もし噂が本当で、マキちゃんの中枢ユニットがこの遺跡の近くに落ちたのだとしたら。俺たちが探しているものは、間違いなく遺跡の中にあるだろう。
しかしこの遺跡、本当に危険な場所として有名らしい。
万全を期すため、近くの町で護衛を雇おうと募集をかけてみたのだが、全く成果はなかった。使い道がなかったカネを山ほど積んでみたが、カネのためならなんでもやるぜ!と意気込む荒くれ者たちはトキオステーションの名前を聞くと尻尾を巻いて逃げ出した。それほど危険な遺跡らしい。
正直、ビビる。
ビビるが、行かないわけにもいくまい。
「・・・行こうか、レイ。」
「大丈夫ですよ。ご主人さまはレイが守ってあげるです。」
俺たちは意を決して歩きだした。不死身の人間と戦闘用ネコロボットのコンビだ、そうそう遅れを取ることはあるまい。
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俺たちが遺跡に侵入してから数時間後、同じ遺跡の入り口にひとりの影が立っていた。
長い黒髪を後ろでまとめ、無骨な戦闘服の上からでも分かる見事な女性らしいスタイル。腰から下げているのは、その細い身体で振り回せるとはとても思えない巨大な電子ブレードだ。
その女性は暗闇へと伸びる遺跡の入り口を見ると、何の躊躇もなく内部へと足を踏み入れた。乾いた風が吹き、美しい黒髪を揺らす。
「ふふ・・・楽しそうなところにいるじゃない。」




