ステータス
【前回までのあらすじ】
・主人公、1人でマキちゃんの残骸を探し始める
・モガモガ
【用語】
・アンドロイドの中枢ユニット
アンドロイドの脳みそにあたる部品。
・ホワイティ・ラバー
主人公が作った自衛システム。正体は不定形の白い触手で、普段は主人公の服の下で身体に巻き付いている。最初のバージョンでは、敵を指定すると二丁の銃で攻撃してくれる。順次バージョンアップする予定。スベスベな肌触り。
・ハンター
ナマモノを狩って生活している人の総称。狩人。
・ナマモノ
野生の機械。
-- 探索記録 --
// 探索1日目
研究所の爆発から32時間。マキちゃんが自身の中枢ユニットを保護した可能性に思い至る。
尋常ではない爆発の中心にいたマキちゃんの中枢ユニットが無事なことなどあり得るのか?それにこの世界のナマモノはなぜか人間の肉を好んで食べるが、普通に金属や機械も食べる。もしマキちゃんの中枢ユニットが無事に荒野に落下したとして、それは当然ナマモノにとってご馳走であり、時間が経つほどに無事でなくなる可能性が高くなる。回収できる可能性は決して高くない・・・高くないが、このアイディアは沈んでいた俺の心に火をつけた。すぐに出発だ。
みんなに手伝ってもらったほうが絶対に早く発見できると思う。
しかし最近ではリア充のごとく仲間に囲まれていた俺の精神は、マキちゃんを失ったことで再び元の引きこもり野郎に戻ってしまったようだ。誰にも会いたくないし、話したい気分でもない。
ネッコワークをちょろまかし、誰にも追跡されないように注意して町を出た。久しぶりにハッキングらしい真似をした気がするが、よく考えたら自分が作ったシステムだから超簡単だったし、そもそもハッキングって言わない気がする。
最低限、身を守るためのシステムとして「ホワイティ・ラバー」を作った。身体に直接巻き付いているので、マキちゃんが操る触手を思い出して変な気分になる。
// 探索2日目
ひたすら歩く。無理やりにでも車を持ってくるべきだったと後悔。どうせ運転できないか。
研究所の爆心地は町から300キロの地点だが、町から100キロほど行ったあたりから、研究所の残骸を多く目にした。かなり広範囲にわたって残骸が撒き散らされた可能性が高く、闇雲に探しても中枢ユニットを発見するのはまず不可能だ。見つけた残骸のデータを記録しながら先に進む。
// 探索3日目
ひたすら歩き、ようやく爆心地にたどり着いた。
残骸があちこちに散らばり、それを食べるために多くのナマモノが集まっている。何度か食われそうになりながらも残骸のデータ収集を続ける。特に電子レンジのナマモノである「レンジムシ」と、掃除機のナマモノ「アリクイサイクロン」が多い。アリクイの方は細かい金属片を砂ぼこりと一緒にガンガン吸い込んでいるのだが、吸引力は永久に落ちないのだろうか。
// 探索5日目
時々銃撃の音が聞こえる。残骸かレンジムシか、何か金になるものを探してハンターが集まってきているようだ。面倒くさいことになるのも人に会うのも嫌なので、なるべく鉢合わせないように気をつける。
// 探索6日目
今日もクレーターの周辺でデータ収集。
研究所から脱出した直後のことを思い出す。
俺はレイをののしった。それはもう酷い罵詈雑言を浴びせた。
役立たずとか、
ポンコツとか、
マキちゃんの代わりにお前が研究所に残ればよかったとか、
貧乳とか、
俺も冷静じゃなかったので正確には覚えていないけど、それはもう酷いことを言ったと思う。レイは命がけで戦い、俺を守ってくれたというのに。貧乳なのはマキちゃんが改造したせいなのに。もしレイに再会することがあればとにかく謝ろう。そう、全裸で土下座しよう。そしてハルかエドに主人を代わってもらうのだ。こんなクソダメ人間が、あんなに素晴らしいアンドロイドの主人でいいはずがない。貧乳はステータスだって昔の人が言ってたし、小さいのは小さいので俺も好きだ。
// 探索6日目
昨日と同じ。
// 探索7日目
ホワイティは細かいバージョンアップを繰り返し、ある程度の攻撃に対しては自動的に防御してくれるようになった。攻撃の時もわざわざ端末のキーを叩かずとも、対象を指差すだけで攻撃してくれる。時間があればある程度自立して攻撃・防御してくれるレベルにしたいのだが、改修している時間が惜しい。
// 探索8日目
何度か爆発をシミュレーションしてみたのだが、新しいデータを追加する度に結果が大きく変わってしまう。残骸のデータが少なすぎるせいだ。収集を続ける。
// 探索9日目
昨日と同じくデータ収取。
// 探索10日目
アンドロイドの中枢ユニットを発見した。
ものは試しとAIのデータをサルベージしてみたが、もちろんマキちゃんではなかった。これはレイがガンマだかシグマと呼んでいたアンドロイドだ。こいつが存在しているなら、マキちゃんが生きている可能性もある・・・希望が見えてきた。とはいえ必要ないのでそのへんに放ったところ、すぐに近くにいたレンジムシがバクリと食べた。チーンという間抜けな音が響く。合掌。
// 探索11日目
今日もクレーターの周辺でデータ収集。
// 探索12日目
クレーターの周辺で野盗をよく見かけるようになった。
たぶん、残骸や小さなナマモノを狩りに来ているハンターを狙っているんだろう。ホワイティはまだそこまで戦闘能力が高くないので、見つかって戦闘になると厄介である。今のところは発見されずにやり過ごせている。
// 探索13日目
データ収集は順調だが、少々不穏な気配が漂ってきた。
レンジムシやアリクイサイクロンのような比較的小型のナマモノが集まってきたため、そのナマモノを求めて大型のナマモノがやってくるようになったようだ。
特に移動が早いナマモノが厄介で、「ガベージバイソン」あたりは注意が必要である。要するに角が生えたゴミ収集車なのだが、正確に急所を撃ち抜いても突進が止まらず派手に跳ね飛ばされた。俺の脳が飛び出すのはかまわないとして、端末が壊れなくてよかった。
// 探索14日目
上空にトラン・ホークらしい影を見つけて思わず隠れる。
ネッコワークは簡単にちょろまかせるので視界に入っても問題ないはずだが・・・。それともあれは野生のナマモノだろうか?飛行する野生のナマモノはドラゴンぐらいしか見かけたことはないが、いてもおかしくはない。つつかれてもイヤなので、とりあえず隠れておく。
// 探索14日目
データ収集。
// 探索15日目
野盗に襲撃されたとおぼしきハンターの死体を発見。身ぐるみ剥がされて死んでいたが、それだけで済んだのは幸運と言えるのかもしれない。イリスさんのような目にあって、生きて正気を取り戻せるのはほとんど奇跡だ。ウォーリーは元気にやってるだろうか。
// 探索16日目
野盗から隠れ、トラン・ホークから隠れ、大型のナマモノから隠れながら淡々とデータ収集を続ける。データが増え、徐々にシミュレーション結果のバラツキが少なくなってきた。もう少しだ。
// 探索17日目
クレーターのフチから転げ落ちた。斜面を50メートルほど転げただけだが、落とした端末を探すのに手間取ってしまった。見つかってよかった。
// 探索18日目
// 探索19日目
もうすっかりデータ収集にも慣れた。今の俺はデータ収集職人・・・いや、データ収集マシンだ。俺はただひとつのマシンになるのだ!ひたすら荒野を歩き回ってデータを集める作業はとてもいい。無心になれる。
// 探索20日目
無心になりすぎたせいか、野盗に発見されてしまったようだ。地平の彼方から数台のジープが走ってくるのが見える。ホワイティで応戦するが、このままでは大変まずい事態に
-- 探索記録 ここまで--
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というわけで俺は今、首にロープを巻かれてジープに引きずられている。なんとか逃げようとしたのだが、カウボーイのように投げられたロープを避けることができず、そのまま小一時間ほどジープの荷物として荒野を引きずられることになった。地面の凹凸にあわせて身体が跳ね、ジープが曲がるたびに岩にぶつかる。荒野には目印のように俺の血の跡が残っている。ジープは入り組んだ岩山に入り込んでしばらく走ってから停車した。
「ああ!?なんだ、まだ生きてるぞコイツ!?」
「・・・どうもこんにち」
地面に転がる俺を覗き込んだ野盗のひとりは驚いた後、返事を待つことなく俺の頭を撃ち抜いた。人を殺すのに1秒のためらいもない、野盗の鏡のようなヤツだ。
次に意識を取り戻した時、俺は全裸で岩壁に囲まれた広いスペースに寝ていた。時計も高性能端末もホワイティもなにもない、産まれたままの姿。頭を上げると、十数人の野盗たちが横に並んで俺を見ている。手には酒の瓶、それと銃。
「おっ目が覚めたぜ!」
「待て待て、ちょい待て。立ち上がるまで待てよ!」
フラフラと立ち上がると、まず股間を撃ち抜かれた。撃ったやつは「大当たりだ」とはしゃぎ、それから腕、脚、身体を一通り撃たれた後に頭を撃たれた。次に意識を取り戻した時も同じ。起きて、撃たれる。それからまた起きて、撃たれる。
「股間は100点、手足は20点な?だから俺は・・・何点だぁ?」
「ほらほら逃げろよ、ゲームにならねーだろ?」
「せっかく不死身なら、女ならよかったのになぁ・・・?」
「俺は男でもいい・・・男がいい。」
起きては意識を失うことを何度繰り返しただろうか。
俺が不死身だと知った野盗たちは、飽きることなく俺を動き回る的にして遊び続けた。なんとか逃れようと試みるが、目覚めるたびに遮蔽物のない空間のど真ん中にいるのでどうにもならない。痛みを感じなくて本当に良かったと思う。それに一言しゃべるヒマもなく延々と撃たれ、得意のトークを披露することもできない。野生のドラゴンとか戦闘用アンドロイドの方が人間より話を聞いてくれるなんて、ここは本当にとんでもない世界だ。
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気がつくと俺はダクトテープでグルグル巻きにされ、地面に転がされていた。
またダクトテープか。目の前にはいくつかのテント、周囲は岩山に囲まれている。空を見れば、満点の星空。あたりは薄暗く、テントの方からやかましいイビキが聞こえてくる。いつの間にか夜になっていた。
ここは野盗のキャンプのようだ。なんとか脱出しないと・・・いや、その前に端末は無事だろうか?あそこには探索で集めたデータが入っているので、壊されたり売り飛ばされるわけにはいかない。俺はいたぶられたところで痛みも苦しみもないけど、時間を無駄にしたことだけは悔やまれる。
「モガ・・・モガガ・・・」
脱出しようと身体を動かそうとするが、つま先から頭までグルグル巻きにされて身動きがとれず、できるのはせいぜいモガモガ言うくらいだ。サリーだったら軽々と脱出して、野盗なんて素手で皆殺しにするんだろうな。そもそも捕まらないか。でも俺にそんな力はない。逃げるように飛び出してきたから、もちろん助けに来てくれる仲間もいない。
「お・・・起きた、か・・・。」
声の方を見ると、スキンヘッドの太った男がニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべながら歩いてくるところだった。
男はニヤニヤしたまま、カチャカチャとズボンのベルトに手をかける。俺は相変わらずの全裸で、テープの隙間から目と尻が少し出ているだけだ。
・・・ん、尻?
尻が出ている。
俺のイヤホンジャック(未使用)が無防備な状態で月の光に照らされていた。
いやいや、ちょっと待ってくれ。いくら痛みを感じないとしてもこれはとても嫌だ。精神的に死ぬ。お嫁にいけなくなる。やめて、私にはメイド服がよく似合う毒舌の旦那様がいるのよ!
「モガー!モガーーーー!」
「ふへへへ・・・いい声で鳴けよ・・?」
俺はイモムシのようにのたうち回って逃げようとするが、男は太い腕で俺の腰をがっしりと掴み・・・そして・・・
「もがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ふふふふへへへへへへ・・・いい声出すじゃねえか・・・ふへへへ・・・へ?」
俺が登りたくない方の大人の階段を登りかけたまさにその瞬間、デブの頭が身体とお別れして地面に落ちた。
血しぶきを上げて倒れる巨体の横で、月明かりに照らされたネコがこちらを見ている。その姿は幻想的で、俺はあまりの絶望に幻覚を見ているのかと思った。地面に転がる俺の前に、少女のホログラムが現れた。きっちりとしたメイド姿に大きな瞳、なんとなくマキちゃんに似ているけれど、どこか幼さを感じさせる顔。そして貧にゅ・・・スラッとしたスレンダーな身体。
彼女は起伏の乏しい胸を張って、目一杯のドヤ顔で俺を見た。
「ご主人さま、レイが守ってあげるです。」
 




