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野生の電子レンジが襲ってくる世界にきました -天才ハッカーのハッキング無双ライフ-  作者: じいま
長距離通信網その3 第13機密兵器研究所編
130/202

幸せ

【前回までのあらすじ】


・マキちゃんさん、チューする

「いや・・・いやいやいやいやいやいやダメだよマキちゃもがっ」


マキちゃんを止めようとした俺は一瞬で、どこからか出現したダクトテープのようなものでミイラのようにぐるぐる巻きにされていた。まったく身動きがとれず、テープの隙間が目だけがかろうじて出ている。無論マキちゃんの仕業である。マキちゃんのボディに搭載された「絶対領域」を使えば、指一本動かすことなく俺をスマキにすることができるのだ。


「レイ、ご主人様をお願いしますわね。私の能力でもあなたのボディを修復することはできませんが、脱出するための応急処置程度ならできます。」


マキちゃんが言うと、崩れかけていたレイの身体に金属製のサポーターが出現した。壊れたヒザや外れた手が固定され、身体の大きなキズはふさがれる。レイはよろめきながらも、なんとか立ち上がれるようになった。


「マキ姉さま・・・ダメです。姉さまがいなくなったら、このダメご主人さまは・・・きっと取り返しがつかないほどのクソダメご主人さまになってしまうです。ドラちゃんのスピードならきっと、爆発に巻き込まれる前に脱出できるですよ。」


マキちゃんは困ったように笑って、それからレイをそっと抱きしめた。


「レイ、私の大事な妹・・・あなたにもわかるでしょう?もう時間がありません。この状況で全滅を回避できるとすれば、私とこのボディの力だけです。あとは任せましたわよ。」


マキちゃんはそっとレイの身体を離し、それから俺の目を見た。彼女は400年間見たことがないほど優しく、そして悲しい目をしていた。俺は声の限りに叫ぼうとするが、口までテープで覆われていて言葉にならない。


基本的にAIというものは主人の命令に逆らえない。高度に発達したAIであるマキちゃんは屁理屈で俺の命令を回避することがあるが、基本的には俺に絶対服従だ。俺の口から「やめろ」とか「そんなことは許さない」という言葉が出るのを防ぐために口を塞いだのだろう。どんな時でもマキちゃんは最高にデキる女だから。


「もががーーーー!もががががーーーー!」


「ご主人様・・・長い間、お世話になりました。私がいなくなっても・・・どうかお元気で。」


次の瞬間、マキちゃんの足元の地面がぽっかりと穴をあけて、マキちゃんは穴の中に姿を消した。壁や床を消滅させながら最短距離でジェネレーターに向かったのだろう。レイはそれを見送るとミイラになっている俺を抱え、マキちゃんが中央演算装置を破壊した時に開けた穴から外に飛び出した。


「もががーーーー!もががががーーーー!」




マキちゃんはいくつもの壁と床を破りながら、まっすぐにジェネレーターに向かう。あらゆる障害を無視し、わずか数秒で目的地にたどり着いた。そこは大型のプラズマ融合炉の内部。分厚い金属で作られた格納容器の内部である。その中心には暴走して爆発寸前のプラズマの塊・・・まるで太陽のような高熱の塊が、断末魔の叫びのごとく燃え盛っている。ほとんど純粋なエネルギーの塊であるそれは、マキちゃんの能力でも収束させることができない危険な爆弾である。


格納容器内の温度はすでに5000度を超え、人間なら数秒ともたず命を落とす地獄のような空間だ。マキちゃんはその中を涼しい顔で進み、焼け付くようなプラズマに悠然と接近した。


プラズマの塊にギリギリまで接近すると、マキちゃんのスカートの裾がチリチリと焦げる。彼女はそれにかまうことなく「絶対領域」の力でプラズマに干渉し、爆発を1秒でも遅らせる試みを開始した。同時にネットワークからビルの飛行をコントロールし、なるべく町から離れたエリアに最高速で移動させる。


(このままプラズマを維持すれば、爆発まで少なくとも10分は稼げますわ。これだけあれば間違いなく安全な場所までビルを移動できます。)


プラズマは今にも爆発しそうに、ときおり超高温のフレアを噴き出している。マキちゃんはその様子をポーカーフェイスで見つめながら、そっと自分のくちびるに触れた・・・まだ、感触が残っている。


ずっと長い間、求めてやまなかったこと。せっかく手に入れたボディ、本当はもっとやりたいことがあった。だが十分だ。いちアンドロイドに過ぎない自分が叶えられた夢としては十分すぎるだろう。マキちゃんはそう思った。


マキちゃんは幸せだった。


今やプラズマはとっくに限界を超え、制御をやめれば一瞬で爆発するだろう。この距離ではもう、どうやっても脱出は不可能。自分の生還確率は何度シミュレーションしても0%から変化しなかった。


それでもマキちゃんは幸せだった。


わずか10分間、灼熱地獄の中で彼女は、400年間でいちばん幸せな気持ちを味わった。


ただ、本人も気づかなかったことだが、最高の技術で作られ、人間に限りなく近い機能を持った彼女のボディは涙を流していた。流した涙は地獄さながらの高温の前にすぐ蒸発してしまい、彼女自身さえもそれに気づくことはなかったが。


そして10分後。


全てを消し去る爆発が起き、すべてを光が包み込む。


それでもマキちゃんは幸せだった。

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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