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13/202

朝食

21時ぐらいに投稿することにしました。

「朝ごはんできたよ〜。」


いつものタンクトップにエプロンをつけたハルが言った。テーブルにはなんの変哲もない朝食、ハムエッグにトースト、サラダにコーヒーが並んでいる。ほかほかと湯気を立てていてとても美味しそうだし、天使が作ったんだと思うと300倍ぐらい美味そうに見える。


『ご主人様、念のためお伝えしておきますが、完全無欠のメイド型アンドロイドたるマキには27,093パターンの料理レシピが内蔵されておりますし、また作る気マンマンでいつもスタンバイしております。』


いやだって身体ないから作れないじゃん…。対抗しなくていいよ別に…。


電卓のカエルやドリルモグラが普通に生息している世界なので、正直言って食事には期待していなかった。いっそ飲まず食わずだってナノマシンのおかげで死ぬことがないので、まともな食事が発見できなければ、もう一生なにも食べずに生きていこう、意外と悟りとかひらけていいかもしれないと覚悟していたぐらいだ。ハルとランスさんの家に住み始めて、すでに数日が経った。驚いたことに、その間にハルが作ってくれた食事はどれも美味しく、暖かく、むしろ冷凍睡眠する前より良い物を食べられている。それにしてもこの食べ物、どこから来ているのだろう。町の周りは機械がうろつき回る荒野ばかりだと思っていたけど、大きな小麦畑とか牧場があるのだろうか。


「あのさ…食べ物って、どこから来るの?」


我ながら漠然とした質問である。


「え?普通にお店で買ってるけど…?」


当然、ハルも困惑する。そこにちょうどランスさんが、肩に大きな、作りかけのロケットランチャーを担いで入ってきた。早朝から武器製作の作業をしていたのだろう。


「食べ物ってのはな、デュプリケーターっつうありがたい設備からなんでも出てくるんだぜ。まぁ、自然の恵みってやつだな。」


ランスさんの説明によれば、デュプリケーターという大きな機械設備があり、それが適当なゴミや水分から肉、魚、卵、野菜、穀物などのあらゆる食料を生み出してくれるらしい。おそらくはナノマシンの技術を使った機械なのだろう。デュプリケーターは非常に珍しいもので、また全長が数十メートルはある大きな機械設備である。発見される場所は太古の遺跡の奥であることがほとんどで、外に運び出すのは困難を極める。そのため、デュプリケーターが発見されるとその周りに人が住むようになり、自然と町ができるのだそうだ。俺たちが住んでいるこの町も、100年以上前にデュプリケーターが発見されて人が集まり、次第に大きくなっていったのだという。それにしてもハルとランスさんが使う「自然の恵み」という言葉がぜんぜんしっくりこない。


3人でテーブルにつく。ハルの合図で、食事が始まる。


「今日の糧をお与えくださる聖霊様に感謝を捧げます。」


こんがり焼けたトーストにたっぷりとバターが染み込んでいて、かじりつくと口の中いっぱいに旨さと香ばしいさが広がる。ベーコンはカリカリで、目玉焼きは俺好みの半熟だ。ここ数日で、ハルはすっかり俺の好みを覚えてくれたようだ。いい嫁さんになるぞ。


「それで悪いけどよ、今日も部品探しを手伝ってくれねぇか?もちろん報酬は出すぜ。」


ランスさんがトーストを豪快に頬張りながら言う。ランスさんが食べてると、同じトーストでもミニチュアみたいに見える。ここ数日、俺はランスさんの仕事の手伝いで、銃作りに必要な部品探しをしていた。特に強要されたわけではなく、この世界の常識を学ぶのにちょうど良さそうだったので、自主的に申し出たのである。とても人のいいランスさんは「命の恩人だ、好きなだけウチでのんびりしていっていいぜ…ただし…ハルには…手を出すなよ…(重低音)」と言ってくれたが、居候としてこれくらいの手伝いは当たり前だと思うし。ちなみに、野盗の賞金と戦利品はなかなかいい稼ぎになった。全部で500万ボル。ボルはこの世界の通貨、例の電子マネーである。この村の平均的な月収が15万〜30万ボルぐらいらしいので、がっぽり儲かったと言っていい。いらないというランスさんに無理やり押し付ける形で綺麗に山分けし、手元には250万ボルが手付かずで残っている。


「もちろんいいですよ。報酬はハルの手料理がいいです。」


「にーさん、欲がないねー。そんなの報酬にしなくたって、ちゃんと作ってあげるってば。」


「いやいや、ハルの料理がいいんだよ。いつも最高にうまい。」


「ほめたってなにも出ないんだからね。ふふふ。」


ハルが嬉しそうに笑う。ランスさんから今まで体験してことがないようなプレッシャーを感じるが、気づかないフリをしよう。


「ところで気になってるんだけどよ。お前さん、いつもどこで部品を探してるんだ?けっこう入手が難しいブツでも平気で見つけてくるだろ。しかもかなり状態がいい。新品みたいなパーツばかりだ。」


そろそろ聞かれると思っていたが、ついにきた。俺のパーツ入手方法は、もちろん木へのハッキングである。町のはずれにいくつかプラズマライフルの木を見つけたので、そこで必要な部品を生成しているのだ。俺の腹はもう決まっていた。この人たちになら、話してもいい。


「マキちゃん、ご挨拶を頼むよ。」


俺が言うと同時に、身長30センチほどの美しいメイドさんが、突如としてテーブルの上に現れた。マキちゃんのホログラムである。


「皆様、ご挨拶が遅れましたことをお詫び申し上げます。ご主人様の忠実にして従順なるしもべ、メイド型アンドロイドAIのマキと申します。」


深々と、完璧な礼をする。突然の事態に、ランスさんもハルも唖然として固まっている。足元でクロが大きくあくびをした。


「に…にーちゃん、あんた精霊使い様だったのか…。こいつは本気でブッたまげたぜ…!」


「すごいよ…アタシ、本物の聖霊様を見るのはじめて…!とってもキレイ…。」


聖霊様っていうか、ただのアンドロイド用AIなんだけど…いや、この世界だとAIが聖霊様と呼ばれてるってことなのか。じゃあ食事の前の挨拶で感謝を捧げていた相手はAIなのか。変な世界だ。


「はじめまして、聖霊様。アタシ、ハルです。銃職人ランスの娘、ハルです。」


「俺は銃職人のランスと申します。」


「ハル様、ランス様、よろしくお願いいたします。皆様にはいつも、クソ陰湿ハッキングクソ野郎の我が主に優しくしていただき、感謝の言葉もございません。」


マキちゃん、クソって2回言ってるぞ。2回。


「あの…マキ様は…にーさんに仕えてらっしゃる…ですか?どういう…関係ですか?」


ハルがぎこちない敬語で質問する。


「はい、私はいつもご主人様に寄り添い、支え、お世話をし、愛を持って接するために存在しております。…そうですね、平たくいうと、嫁です。」


サラリと嘘をつくな嘘を。

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