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野生の電子レンジが襲ってくる世界にきました -天才ハッカーのハッキング無双ライフ-  作者: じいま
長距離通信網その3 第13機密兵器研究所編
129/202

マキちゃん無双

【前回までのあらすじ】


・レイさんぼっこぼこにされる

「ご主人様、大変お待たせして申し訳ありませんでしたわ。」


マキちゃんの声が聞こえるが、姿が見えない。俺はレイを抱いたまま、キョロキョロとあたりを見回す。すると頭上で、ピキピキというガラスにヒビが入る音がした。見上げるとそこには・・・


「・・・マッマッマッマッマキマキマキマキマキマキマキちゃ」


「あまりジロジロと見ないでいただけますか?・・・さすがに恥ずかしいですわ。」


そこにいたのは、一糸まとわぬ産まれたままの姿でガラス管に入るマキちゃんだった。


水着とか下着姿なんてチャチなもんじゃない、もっと大胆かつセクシーな姿。ホクロの位置からあんなものやこんなものまで確認し放題、400年一緒にいて初めて見るマキちゃんのマキちゃんである。いつもメイド服に隠されいる2つの大きな膨らみも、普段はホログラムだから触って確かめることができない見事なくびれも、いつもより心なしか赤い気がする美しい顔も、すべてが実体を伴ってそこにあった。マキちゃんは最強のアンドロイドボディである『成果物』に、自分自身をインストールしたのだ。


「マママママキマキマキマキマキマキマキマキ」


「マキ姉さま、お美しいですぅ・・・これが・・・天国・・・ガクッ。」


「おいレイ、まだ死んじゃダメだ!」


次の瞬間、マキちゃんが入っていたガラス管が砕け散った。中の液体と共にガラス片が飛び散ると思い、とっとに目をつぶって頭を守る。・・・しかし、いくら待ってもガラス片や液体が降り注いでくる気配はない。目を開けると、そこにはどこから持ってきたのか、いつものメイド服に身を包んだマキちゃんが立っている。


「・・・あれ?服?いつの間に?」


「ご主人様、女性の裸体をまじまじと見過ぎですわよ。サリー氏の時といい、まったく・・・。」


マキちゃんはぶつぶつ言いながら、レイを抱いて座っている俺に手を伸ばした。俺はドキドキしながら手を出して、マキちゃんの白い手にそっと触れる・・・その手は透けることなく、しっかりと握ることができた。滑らかで・・・とても温かい。


「ちゃんと反省しているのですか?私の身体をまじまじと見たいのであれば・・・ベッドの上でふたりきりの時にしてくださいませ。」


「えっ・・・はっ、はい。」


頬を染めて微笑むマキちゃん。自分で言っといて照れているらしい。そんな彼女に見とれてぼうっとしていると、掴んだ手をグッと引っ張られて、俺はマキちゃんの横に立った。出会ってから初めて横に並び、俺のほうが少しだけ背が高いことに気づく。マキちゃんの綺麗な瞳を見ると、まるで吸い込まれるようだ。彼女は少しだけ微笑み、俺はぎこちなく微笑み返した。


・・・マキちゃんが物理的に存在している。なんだろう、ものすごく緊張する。いや、正直に言おう。めっちゃドキドキする。いつものように接する自信がない。


「それでは参りましょう。ご主人様、私から離れないようにご注意くださいな。」


「ははははははい。」


周囲は相変わらず無数の敵アンドロイドに囲まれている。マキちゃんの出現で様子を見ていたようだが、こちらが動き出したのを見て敵も攻撃を再開した。すさまじい勢いで飛びかかってきた1体の敵。その敵がマキちゃんから3メートルほどの距離に入った瞬間・・・敵の身体は細かい粒子になって消滅した。


「・・・はっ?ななななななにこれ?」


「ふふっ・・・ご主人様、レイ。私が守って差し上げますわ。」


「はぁい!マキ姉さま!」


レイは元気よく返事をした。見ればどうなっているのか、俺の横で当たり前のようにプカプカと浮いている。指一本動かないほどボロボロだと思ったし、そもそもこんな風に飛べるんだっけ?


混乱する俺を余所に次々と敵が飛びかかってくるが、その全てがマキちゃんから3メートルの距離に近づくと細かい粒子になって消滅した。接近戦ができないと悟った敵の群れは距離をとり、遠距離からプラズマを放つ。するとマキちゃんと俺たちの周囲に、どこからともなく1メートル四方の装甲板がいくつも出現してプラズマを防いだ。不思議な事に、装甲板はどこにも支えられることなく空中を浮かび、的確に移動して攻撃を防いでいる。


「離れたところで無駄ですわ・・・レイをいじめたお礼をさせていただきますわよ。」


マキちゃんは手をおへそのあたりで組んだまま、優雅に微笑む。すると空中にいくつもの銃器が出現し、宙に浮かんだ。・・・これはウォーリーの愛銃【ハリケーン】と、ナナの愛銃【ラッキーセブン】だ。10以上の【ハリケーン】と【ラッキーセブン】が空中に出現し、敵の群れに狙いをつける。


「それでは、ごきげんよう。」


爆音とすさまじい衝撃波を伴って、破滅的な威力を持った銃器が次々と火を噴いた。プラズマ放射による強力な防御力をもつはずのアンドロイドたちが、為す術もなく木っ端微塵に吹き飛んでいく。


単発では戦闘用アンドロイドに通用しない【ハリケーン】と【ラッキーセブン】だが、これだけの数が一斉に発射されるとさすがに防御は不可能らしい。熱暴走で煙を吐いた【ハリケーン】が粒子となって消滅したかと思えば、同じ場所に新しい【ハリケーン】が出現して攻撃を再開し、圧倒的な破壊が途切れなく続けられていく。容赦のない必殺兵器の嵐に、無数の敵がなすすべもなく散っていった。


「姉さま・・・すごすぎるですぅ・・・!」


動くものがなくなると、最後に残ったのは防壁で守られた中央演算装置だけだった。マキちゃんがそちらに目を向けると、およそ20の超重火器が一斉に中央演算装置の方を向く。


「デザートはいかがですか?」


すべての銃が、完璧に同じタイミングで弾丸を発射した。その圧倒的な破壊力は中央演算装置を守る強力な防壁を完全に無視して装置を消し飛ばした後、第13機密兵器研究所の外壁を貫通して外部に通じる大きな穴を開けた。外の風が吹き込み、穴から青空が見えている。マキちゃんはいつもの無表情のまま、小さな声で「お粗末さまでした」と言い、同時に空中の武器が消滅した。あれほど絶望的だった状況は、1分とかからず消え去ってしまった。


あまりの事態に呆然とする俺は、アホのように口を開けてなんとか疑問を言葉にした。


「えっと、この・・・これは・・・なんなの?」


自分でもよくわからない質問だ。マキちゃんはそんな俺を見てふふっと小さく笑う。


「ここの管理AIは『絶対領域』と呼んでいましたわ。射程内の物質を完全に支配する能力です。」


「物質を・・・支配?」


「はい。私から半径およそ3メートル以内の物体を自由に操り、また原子レベルで分解・再構成できる能力ですわね。」


「自由にモノを作ったり、操ったりできるの?」


「ええ、作り出せるのは設計データがあるものだけですが。幸いにも私にはプラズマライフルの木に使うデータがありますので、色々なものが作り出せるのですわ。今回は【ハリケーン】と【ラッキーセブン】・・・それから適当な装甲板のデータだけ十分でしたけどね。」


「つまりあれか・・・マキちゃんはプラズマライフルの木の上位互換になったのか。」


「ん・・・まぁ、そうですわね。」


俺の例えにマキちゃんは変な顔をした。いい例えだと思ったのに。


「それにしても・・・マキちゃんのために用意されたような能力だね。」


「ええ・・・この能力があれば私は無敵です。ご主人様にどんな悪い虫がついても・・・追い払って差し上げますわ。」


「うん・・・うん?」


「うふふふふ・・・」


「・・・えへへへへ」


実体を伴って笑うマキちゃんは、いつもの3割増で恐ろしい。しかし10000割増で魅力的だった。風になびく髪、はためくスカート、透き通る白い肌に大きな瞳。なんだかいい匂いまでする。彼女は今ここにちゃんと存在している。それがなんだかすごく不思議で・・・俺は熱にうかされたようにクラクラしっぱなしだ。


「そういえば・・・今回はずいぶん時間がかかったね?ここの管理AIはそんなに強力だった?」


俺の質問に、マキちゃんは表情を曇らせる。いや、いつも通りのポーカーフェイスなのだが、困ったような顔になったのが俺にはわかる。


「管理AIは大した相手ではありませんでした・・・ですが・・・」


マキちゃんが言いかけた時、サイレンの音が鳴り響いた。続いて無機質なアナウンスが響く。まるで冷凍施設に侵入したときの再現だ。


「当研究所のプラズマ融合炉に異常を検知しました・・・研究所内の方はすぐに退去してください。繰り返します・・・」


まただ。こんなに立て続けに、何千年も稼働していたジェネレータが不具合を起こす現場に居合わせるものだろうか?いや、そんなことは絶対にあり得ない。これは明らかに何者かの仕業だ。マキちゃんがボソリとつぶやくのが聞こえた。


「やはり・・・まだ諦めたわけではないのですね。」


「マキちゃん?」


「・・・いえ、なんでもございません。ご主人様とレイは脱出してください。」


「マキちゃんはどうするの?一緒に行くよね?」


「そうですよ、マキ姉さま!」


しかしマキちゃんは首を横に振った。


「このままプラズマ融合炉が爆発すると、私たちの町に大量のガレキや汚染物質が降り注ぐことになります。また、ここのジェネレーターはかなりの大型です。今から脱出しても安全な距離まで逃げるのは不可能です。」


「え・・・マジで?じゃあどうしたらいい?」


マキちゃんはまっすぐに俺を見た。それから静かに近づいてきて、両手で俺の手を握った。


「マキちゃ・・・ん?」


気が付くと、俺のくちびるはマキちゃんに奪われていた。


音が消えて、時間が止まる。建物に空いた穴から光が差してマキちゃんの髪がキラキラと光った。俺はそれを見て綺麗だな、とか、そんなことを考えていた。他にはなにも考えられなかった。柔らかい感触。


ふっとマキちゃんが身体を離す。時間がまた流れ始めた。サイレンの音が聞こえる。マキちゃんは薄く微笑んだ。


「私が爆発までの時間を稼ぎます。ごきげんようレイ、ご主人様。」

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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