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野生の電子レンジが襲ってくる世界にきました -天才ハッカーのハッキング無双ライフ-  作者: じいま
長距離通信網その3 第13機密兵器研究所編
128/202

200対1

【前回までのあらすじ】


・200体ぐらいのアンドロイドに囲まれる

「ご主人様、『Ver.3723』の近くに逃げるです!ここの連中、アレには手を出せないはずなのです!」


レイは俺を片手にひっつかんで、巨大なガラス管『Ver.3723』の近くに走った。細く見えるのにさすが戦闘用アンドロイド、ものすごい力だ。広い空間の左右に並んだ無数のカプセルが次々と開き、中から1体、また1体とアンドロイドが現れる。俺は左腕の腕時計に向かって呼びかけた。


「マキちゃん、マキちゃん?」


やはり返事はない。時計の盤面には


// No bootable operation system was found. //

// 起動可能なオペレーションシステムが見つかりません。 //


と表示されている。このエラーメッセージは、マキちゃんのAIデータが消滅していることを意味する。そんなバカな。俺は自分が完全に混乱して、浮き足立っているのがわかる。


「レイ・・・マキちゃんが・・・マキちゃんがいない!」


そんな俺をなだめるように、レイは優しい声でいった。


「ご主人さま・・・心配いらないです。マキ姉さまは絶対に戻ってらっしゃいますし・・・レイがいるですから・・・大船に乗った気でいるのですよ。」


レイの全身は激しくプラズマの放射を開始し、光に包まれた彼女はさながら小さな太陽のようだ。敵の総数は推定で200以上、出し惜しみしていては一瞬で叩き潰されてしまうのだろう。


『Ver.3723』を人質のごとく背にした俺たちを遠巻きに見ていた敵のアンドロイド達だが、そのうちの一体がレイをきっかけに凄まじい勢いで突進してきた。強烈なエネルギー同士の衝突、激しい光と熱を撒き散らすそれはまるで、太陽と太陽がぶつかりあったかのようだ。熱風が俺の髪を焦がし、硬い金属の床が融解してクレーターを作っている。


このまま力比べが続くのかと思った矢先、突然戦場に似つかわしくない声が響いた。


「ンナー」


「!?」


敵のアンドロイドの意識が一瞬だけ逸れ、そしてレイはその隙を見逃さない。プラズマ放射を右手に集中させ、的確に敵の頭部を粉砕した。ンナーと声のした方には、一匹のネコ。これは元々レイだったネコだ。レイが遠隔でコントロールしているらしい。


「ふっふっふっ・・・戦闘中によそ見をすれば死ぬのです!一度死んだレイが言うのだから間違いないです!」


「おお・・・すごい説得力だ・・・!」


ちょっと感心してしまったが、よく考えたらこれはただの不意打ちだ。こんな汚い戦い方、いったいどこで覚えたんだ。うん、俺たちのせいだな。なんかすみません。


心の中で謝っていると、敵の群れから先ほど頭部を砕かれたアンドロイドの残骸を踏みつけて、新たな敵が進み出てきた。こうやって1対1で戦ってくれるのだろうか。戦闘データを集めるいい機会程度に考えているのかもしれない。


目の前に立つ新しい敵に対し、レイはしかし驚くべき行動に出た。構えを解き、両腕をだらりと下げる。スキだらけで無防備で、まるで戦意を喪失してしまったかのようだ。敵もそんなレイの思惑が読めないのか、すぐに攻撃してくることなく様子を伺っている。レイはそんな相手をまっすぐに見て言った。


「いいですかお前・・・名前わかんないですけどお前に・・・戦う前に言っておくことがあるです。」


レイの言葉にますます警戒し、じっと様子を伺う敵。レイはかまわず続ける。


「いいですか・・・よく聞くですよ・・・。」


「?」


「戦場では、足元にも注意しないと危ないのです。」


レイの言葉と同時に、敵の足元に転がっていたアンドロイドの残骸が爆発した。敵は突然の爆発に対応できず、巻き込まれてスクラップと化す。・・・ん、これは遠隔ハッキングか。


頭部がないアンドロイドのボディはサイボーグの身体と基本的には変わらない。ネコが遠隔操作できるなら、アンドロイドの残骸を自爆させるくらいはできるだろう。なにせレイの師匠はマキちゃんなのだから。


まったくこんな汚い戦い方、いったいどこで覚えたんだ。俺たちのせいか。ホントなんかすみません。居並ぶアンドロイドの群れが、心なしかイラついているように見える。


「なんですか、文句あるなら一斉にかかってきてもいいのですよ?ほらほら、1対1じゃ、このレイ様には勝てないって認めるといいです。ほらほら。」


レイが両手でカモンカモンと手招きしている。全員が無表情だが、敵の群れから感じるプレッシャーがアップしている気がした。っていうか絶対してる。鳥肌立ってきたもん。それになんだか恥ずかしくなってきた。ウチのメイドがなんか本当にすみません。俺を守ってくれるとか言ってたレイは本当にカッコよかったのに、どうしてこうなった。


同じような戦いが続いた。戦い方はともかく、レイは強かった。


進み出てきたアンドロイドの頭を突然どこかから飛び出してきたネコが食いちぎり、その次に出てきた敵を巧妙なトークで気をそらしたスキに叩き潰し、さらに次の敵を散々挑発してから敵の群れに突っ込ませ、まとめて・・・。


レイの果敢な・・・果敢な?戦闘は続いた。俺はもうハラハラしたり赤面したり大忙しだったが、32体の敵をスクラップにしたあたりから、徐々に雲行きが怪しくなってきた。敵がレイの戦法に対応してきたのだ。


「いいですか、地上ではこの『あっち向いてホイ』という戦闘方法が一般的・・・でぇっ!?」


トークの途中でプラズマ放射をブチ込まれたレイが吹き飛ばされ、なんとか体勢を立て直したところに強烈な打撃を何度も叩き込まれる。レイはどうにか攻撃をさばくと、カウンター気味に放った手刀で敵の身体を両断した。ギリギリの勝利。


レイの身体のあちこちから煙が立ち上り、時々力が抜けてガクリとヒザをつく。しかし目の前にはまた、新しい敵。残りはおよそ・・・170体。


「レイ・・・。」


「ご主人さま、まだ慌てるような時間じゃないですよ。・・・それとも頼れるレイちゃんに惚れてしまいましたか?愛の告白なら、もっと好感度を上げてからいい感じのシチュエーションでしてくれたら、まさかのレイちゃんENDの可能性もあるかもしれないですよ?」


レイはひょっとして、この場において最強の戦闘用AIなのかもしれない。レイのボディは、その他の敵のボディとほとんど同じ性能のはずだ。戦い方はともかく、レイはたった1人で無数の敵と五角以上に渡り合っていたのだ。


だがそれも限界だ。新たな敵の攻撃を受けたレイは、吹き飛ばされて俺の足元に転がってきた。どう見ても彼女のボディが受けたダメージは限界を超えている。


「レイ・・・ありがとう。もう、いいよ・・・。」


「何を言っているですか、ご主人さま。ここからが本当の見せ場ってやつですよ?あまりのカッコよさでパンツがグショグショになっても知らないですよ?」


そう言って立ち上がろうとしたレイの、右脚のヒザがゴキリと音を立てて折れた。とっさに地面についた左腕は手首が外れて身体を支えることができず、また頭から地面に崩れ落ちてしまう。俺は地面に倒れ込むレイをそっと抱き起こした。


「おかしいですね・・・身体が支えられないです。お胸が大きすぎるせいですかね・・・?」


「そうだね、普段はないもんね・・・。」


「ああっ!?ご主人さま、小さくたっておっぱいはおっぱいですよ!?ちっぱいディスるとか・・・分かってるですか?」


「なんだ、けっこう余裕あるな、レイ・・・。」


ふざけているが、レイはもうほとんど動くことができないようだ。もはや俺にできることなど何もないが、せめて死ぬ時は一緒だ。熱く焼けた彼女のボディに触れると、俺の身体もジュウジュウと音を立てて焼ける。構わずレイの身体を胸に抱くと、レイはちょっとだけ微笑んで俺を見た。


色々と後悔もあるけど、一応ベストは尽くしたと思う。・・・尽くしたっけ?俺、今日もなんにもしてない感じあるな・・・いやでも、命はかけたし・・・。肋骨とか飛び出したし・・・。


敵の群れがゆっくりと迫ってくる。成果物を巻き込む危険があるからか、プラズマで一気にドカン!とはやらないようだ。それにしても、マキちゃんはどうしたんだろうか。ここは独自のAIが管理しているようだし、ハッキング対策が万全だったのかもしれない。空母の時もそうだったけど、完璧に準備されたトラップが相手では、さすがのマキちゃんでも不覚をとることぐらいあるのだ。せめて最後くらいマキちゃんがどうなったのかを知ってから死にたかった。いや、せめて一度でいいから水着姿を・・・ん、そういえばレイはマキちゃんの水着姿を見たことがあるんだったな。ぜったい写真に撮ってるだろ。よし、死ぬ前に一度でいいから見せてもらおう。


「ご主人さま・・・申し訳ないです。これじゃマキ姉さまに顔向けできないですぅ・・・。」


「レイは十分やってくれたよ。どちらかと言うと怒られるのは俺の方だと思う。」


「んん・・・確かにそうかも、です。」


俺の言葉にレイはくくくっとイタズラっぽく笑った。周りの足音が迫る。俺は急いで本題を切り出した。


「レイ、マキちゃんの水着姿、撮ってるよね?」


俺の質問に、苦笑いしながら答えてくれる。


「・・・もちろん撮ってるです。冥土の土産に欲しいですか?」


「そうそう、メイドだけに、ね。」


「ぷくくっ・・・ちょうくだらないです。はい、今その時計にデータを送ってあげるです。」


「こら、レイ。」


「・・・ん?」


突然、聞き慣れた声が響いた。怒られ慣れた声に、俺もレイも思わずビクッと身体をすくませる。


「その写真はご主人様に見せないと、約束したではないですか。」

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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