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野生の電子レンジが襲ってくる世界にきました -天才ハッカーのハッキング無双ライフ-  作者: じいま
長距離通信網その3 第13機密兵器研究所編
127/202

モザイク

ハッキングに行ったマキちゃん側の話です。

「ヌォォォォォォォォォォ・・・」


マキちゃんが手をかざすと、巨大な黒い影がうめき声をあげた。その影は足元から徐々に分解され、消滅していく。


「現実時間で1秒・・・長生きされている割には大したAIではありませんわね。」


冷たく言い放つ美しい横顔。よく調教された彼女の主が聞けば「冷たく罵ってるマキちゃん・・・ハァハァ」と大喜びしそうだが、この場に生身の人間は存在できない。彼女がいるのは空飛ぶビルこと第13機密兵器研究所のネットワーク内。問答無用でハッキングを開始したマキちゃんは一瞬で管理AIを無力化すると、トドメとばかりに管理AIのAIデータに対して無意味なビット列を256回に渡って上書きしていった。AIはデータさえ残っていれば、思わぬ形で復活することもある。そういった経験から、絶対に復活できないよう念入りかつ執拗に始末するのがマキちゃんのやり方だ。


「さて、次はAIの権限をそのまま引き継いで・・・レイや他のアンドロイドを止めないといけませんわね。」


今ごろ、主はリカバリされたレイにボコボコにされている頃だろうか。レイが実は裏切っていないことなどハッキング中のマキちゃんには知る由もないが、だからといってそれほど焦る必要もなかった。電子の世界ではマキちゃんの体感時間を何十倍にも引き伸ばすことができるし、管理AIの権限を引き継ぐのにもそう時間はかからないとわかっていたからだ。現実時間でものの1秒もあれば、アンドロイドたちは無力化できるだろう。


「ふふふ・・・ついに私にもボディが・・・うふふふ・・・」


思わず独り言と笑いが漏れてしまう。この戦いが終わればボディが、500年間切望していたボディが手に入るのだ。笑わずにはいられない。ボディを手に入れた暁には主に・・・触手ではできなかった◯◯◯、◯◯◯や◯◯◯まで・・・この期に及んで、彼女に自重する気は全くなかった。頑丈なベッドを用意しなくては。そんなことを考えていたマキちゃんは、ふいに他者の存在を感じて振り返った。


「みつけた。」


「あなたは・・・ゴスロリ様・・・なぜ、ここに・・・。」


黒を貴重とした、いわゆるゴスロリ系の服に黒い髪。闇に溶け込むようなシルエットと対照的に白く整った顔。その女は、かつてマキちゃんを電子戦で追い詰めた相手・・・ゴスロリAIだった。ゴスロリはしかし、不愉快そうに眉をひそめた。


「私の名前はミン。ゴスロリなんて名前じゃない。」


「ミン様。それで、本日は何用ですか?」


ミンと名乗ったAIは、心底嫌そうに自分の目的を告げた。


「・・・お前を連れて行く。」


「あら、デートのお誘いですか。申し訳ないのですが、私、急いでいるのですわ。また今度にしましょう。」


「・・・逃がさない。」


ミンは言うが早いか、マキちゃんを捕獲するための攻撃を開始した。繰り出される無数の電気信号は、ハッキングのセオリーを無視したかのように見えて極めて洗練されたアルゴリズムによるもの。以前に攻撃された時は圧倒され、あやうく本当に連れ去られるところだった。


「ですから私、急いでいるのですわ。」


しかしマキちゃんとて遊んでいたわけではない。敗北しかけたあの日から毎晩、主の恥ずかしい動画を鑑賞して遊んでいただけではないのだ!受けた攻撃を解析し、自身の能力向上のために日々努力していたのである。まぁ割合で言ったら7:3ぐらいで動画を見ていたが、毎日努力を欠かさなかったのだ!


「くっ・・・私の攻撃に対応してくるとは・・・生意気な・・・。」


「ミン様、今日もずいぶん遠方からアクセスされているようですわね。おそらく電波を利用した無線アクセスなのでしょうが、攻撃のタイムラグが前回より酷いですわ。」


「・・・ぐぐぐ・・・。」


「これなら・・・」


「・・・ぐ・・・。」


「私は負けません。」


マキちゃんが軽く手をかざすと、ミンは檻のようなものに閉じ込められた。マキちゃんの攻撃により、このネットワーク内における権限のほとんどを剥奪されたのである。ほぼ完全な無力化。手足をもがれたも同然のミンに許された選択肢は撤退ぐらいである。


「クソッ・・・!生意気な!生意気な!生意気な!」


「女性がそんな汚い言葉を使ってはいけませんわ。せっかく可愛らしいのに台無しですわよ。」


余裕たっぷりに言い放つマキちゃんを、ミンは白い顔を真っ赤に染め上げて睨みつける。そんなミンを無視して作業に戻ろうとするマキちゃんだが、しかしふいに声をかけられ、驚きとともに振り返った。


「さすがだね、マキちゃん。・・・いや、ミンがだらしないだけ、かな?」


「!?」


ミンの時は声をかけられる前に存在に気がついたが、今回は違う。まるで気が付かず、不意を打たれれば簡単にやられていただろう。自分の監視をくぐり抜けてこのネットワークに入り込むなど普通ではない。


警戒するマキちゃんの目に入ったのは、ボンヤリとモザイクがかかったような人影だった。ミンはそのモザイクに向かって悔しそうに言う。


「マスター・・・申し訳ありません。ここはネットワーク環境が悪く・・・。」


「いいんだよ、ミン。マキちゃんがお前より優秀ってだけだから。」


「ぐっ・・・」


モザイクの言葉にミンは悔しそうに唇をかみしめた。どうやらこれはミンの主人らしい。モザイクの声もボンヤリとして、男か女かもよくわからない。しかしなぜか、マキちゃんはその声を聞くと安心する自分に気がついた。理由はわからないが、その声を聞くととても落ち着くのだ。モザイクはそんなマキちゃんを見て・・・見ているのかどうか、モザイクがかかってよくわからないが・・・声をかけた。その声はとても優しく、愛情に満ちたものだった。


「ああ、マキちゃん。ずっと探していたよ。」


どうしようもなく湧き上がってくる温かい気持ちを訝しみながら、しかしマキちゃんは毅然とした態度で返した。


「私をマキちゃんと呼んでいいのは世界でひとりだけですわ。マキちゃんさん、もしくはマキちゃん様とお呼びなさい。」


そんなマキちゃんに、モザイクは悲しそうに、しかしどこか嬉しそうに答えた。


「ああ、やっぱりマキちゃんだ・・・。そうか、ここは遠すぎて俺が分からないのか。ミンよりさらに遠くからアクセスしてるからね。だからこそミンに迎えに行かせたんだけど。」


「・・・あなたは誰ですか?」


マキちゃんの質問に、モザイクは悲しげに答えた。


「うーん・・・言っても信じてもらえないと思うよ。だから、とにかく一度『こっち』に来て欲しいんだ。」


モザイクはそういってマキちゃんに手を差し出す。しかしマキちゃんはその手をじっと見つめるだけだ。


「あなたの正体は気になりますが、私にはやらなければならないことがあるのですわ。」


「・・・うーん、マキちゃんならそう言うよね。でもこんな機会はなかなかないからさ。悪いけど、無理やりにでも来てもらうよ。ごめんね。」


モザイクはそう言うと、スッと手を伸ばしてマキちゃんの手首を掴んだ。それはあまりにもさり気ない、しかし圧倒的な電子的侵食。マキちゃんはその手を振りほどこうとするが、どんなに抵抗しても微動だにしない。それはネットワークの遅延をものともしない、あり得ないほどに洗練され、磨き上げられた攻撃だった。


「そんな・・・。」


「大丈夫だよ、怖くないから・・・。」


凄まじい力でどこかに引きずり込まれそうになる。マキちゃんも全力で抵抗するが、まるで抗うことができず、どこか遠くのネットワークに引き込まれていくのをただ感じていた。


「離・・・離してください。女性は優しく扱うものですわよ。」


「ごめんよ、マキちゃん・・・。」


「だからマキちゃんと呼ぶなと言っているのですわ・・・!」


マキちゃんは自身のコントロールを完全に奪われ、いよいよ引っ張り込まれそうになった・・・しかしその時、それは起きた。ミンとモザイクの身体にノイズが走り、急激に不安定になったのだ。それは一瞬の出来事だったが、マキちゃんがその隙を見逃すはずがなく、力が弱まったモザイクの手を振りほどく。


「な、なんだ・・・?ネットワークが恐ろしく不安定になったぞ・・・」


それは現実世界におけるトラブルだった。研究所の屋上で待機していたドラちゃんがアンドロイド達から攻撃を受け、激しい戦闘(というか逃走)を開始したのだ。ドラちゃんが発射するミサイル、フレア、レーザー。それに対して強烈なプラズマで反撃するアンドロイドたち。モザイクたちは無線ネットワークを経由して空飛ぶ研究所にアクセスしているが、その無線ネットワークが激しい戦闘の余波を受けて不安定になったのである。原因を察したマキちゃんはモザイクに言い放つ。


「あなた達、ネットワークの中に引きこもりすぎて現実が見えていないようですわね。」


「貴様・・・マスターに向かって生意気なっ!」


檻の中からマキちゃんに噛みつかんばかりに暴れるミンを無視して、モザイクは言った。その表情は分からないが、声は苦笑しているような響きを含んでいる。


「・・・ああ、まぁね。」


「たまには現実に目を向けないと、ロクな人間になりませんわよ。」


依然、ネットワークは安定しないようだ。マキちゃんはモザイクたちに背を向け、最初から狙っていた「ある場所」に向かって逃げ込んだ。モザイクは諦めたのか、追跡してくる様子もない。ただ、マキちゃんが消えた空間に向けてつぶやいた。


「リアルなんて、クソゲーだ。」

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勇者様はロボットが直撃して死にました
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