不安の影
【前回までのあらすじ】
・最強拠点防衛兵器さん、子どもたちにいじめられる
「マキちゃん、アクセスできそう?」
かくしてグレートウォールを撃破した俺たちは順調に、M-NETに繋がっていたネットワーク機器にたどり着くことができた。あとはマキちゃんに任せて、必要なデータ・・・第13機密兵器研究所に侵入するための識別信号・・・を引っこ抜いてもらうだけである。M-NET自体はもう存在していないだろうが、ここの機器にデータが残っていることを祈るばかりだ。あとは俺が冷凍から覚めた原因も調べられるといいなぁ。
「旧文明の機器ですから、セキュリティが厳重で少々手こずりましたわ。はい、これでアクセス可能になりました。」
確かにマキちゃんとしてはかなり手こずった方だ。3秒ぐらいかかった。
「これがレイのいっていた識別信号コードですわね。・・・ん、これは・・・?」
「どうしたの?マキちゃん?」
マキちゃんが俺の方を見ないまま尋ねた。
「ご主人様・・・冷凍されたのは1回だけですか?私の知らない間に一度、お目覚めになったことが?」
「・・・へ?ないよ?マキちゃんと一緒に寝て、一緒に起きたじゃないか。」
「そうですわね・・・ご主人様が目覚めれば、私の腕時計も自然に再起動するでしょうし・・・。こちらをご覧ください。」
マキちゃんが見せてくれたのは、俺の冷凍カプセルの稼働記録である。
// カプセルID H-2023393 //
// MD3169/1/20 冷凍開始 //
// MD3170/2/26 解凍(割込) //
// MD3170/3/10 再冷凍 //
// MD3270/3/10 100year定期チェック 異常なし//
// MD3370/3/10 100year定期チェック 異常なし//
// MD3470/3/10 100year定期チェック 異常なし//
// MD3570/3/10 100year定期チェック 異常なし//
// MD3670/3/10 100year定期チェック 異常なし//
// MDオ20ヌ ヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パヨニシ21$]パ
「ん・・・なんだこれ?」
後半からバグってるのはまぁ故障か何かだとして・・・冷凍した翌年に解凍されてるのはなんでだ?しかも10日後にまた冷凍されてる。・・・まるで覚えがない。
「どういうことでしょうか?」
さすがのマキちゃんでも見当がつかないらしい。っていうか俺も覚えてないし、マキちゃんがわからないなら俺が考えてもわからない(断言)。覚えてないけど解凍されて10日も過ごしたらしい。なんだこれ。
「考えてもわからないな・・・よしマキちゃん、回収できるデータは一つ残らず全部回収しよう。持って帰ってよく調べれば、何かわかるかもしれない。できる?」
「すでに作業を開始しております。10分前後で、この施設の全データをコピーできる見込みですわ。」
謎が増えてしまったが、あとでたっぷり時間をかけて調べることにしよう・・・そう思った矢先、突然サイレンの音が響き渡った。同時に施設内にアナウンスが響き渡る。
・・・当施設のプラズマジェネレータに異常を検知しました・・・施設内の方はすぐに退去してください。繰り返します・・・
「・・・え?なに?なんだって?」
「冷凍施設のジェネレータ内に異常な熱量を検知しました。ご主人様、このままでは爆発に巻き込まれて消滅しますわ。」
「なんでいきなりそんな・・・。まぁいいか、逃げよう。エド、ナナ!」
「はぁーーーーい!エド、きょうそうね!」
「うわっ待ってよナナ!ソニックブーム出てるよ!」
わけがわからないまま、俺たちは全力で来た道を引き返す。特に邪魔するものもなく、行きとの違いは鳴り響くサイレンだけである。すんなりと出口にたどり着き、入り口で忠犬のごとく待っていたドラちゃんに乗って飛び立った。ドラちゃんの異常な速度でぐんぐん地面が遠くなり、数秒で安全な距離まで離脱できた。そして・・・
「あっばくはつ!すごいねエド!」
コックピットからジャングルを見下ろすと、巨大なキノコ雲が立ちのぼるのが見えた。施設どころかジャングルの中心が半径数キロにわたって消滅するような爆発。衝撃波でドラちゃんが激しく揺れるがそこはさすがのドラゴン、危なげなく空中でバランスを立て直す。あれだけの爆発だ、施設は完全に消滅しただろう。冷凍されていた人たちも、ナノマシンごと一瞬で蒸発したに違いない・・・それが不幸なことかどうかはよくわからないが。
「マキちゃん、データは・・・」
「識別信号データは回収できましたわ。ただ、それ以外の成果はほとんど・・・申し訳ありません。」
「あの状況じゃどうしようもないよ。・・・まぁ、目的のものは手に入ったからいいか。それにしてもあの爆発、いくらなんでもタイミングが良すぎる気がする。」
俺の疑問に、マキちゃんも同意する。
「私たちが冷凍カプセルのデータを覗いた直後にジェネレータが暴走するなど、絶対にあり得ないことですわ。何者かが意図的に暴走でもさせない限り、あり得ないタイミングです。」
「誰かが見張ってて、ジェネレーターを暴走させたってこと・・・?そんなことして、何の意味が・・・マキちゃんのファンか?それともまさか、俺のファン・・・?」
「ご主人様を24時間見張っていいのは私だけですわ。敵の正体はわかりませんが、警戒するに越したことはありませんわね。」
「うん・・・ん?いや、マキちゃんも俺を24時間見張ったらダメでしょうよ・・・。そんなキリッとしながら言われても・・・。」
「敵の可能性として考えられるのは当然、以前ディストリビューターの調査時に遭遇したゴスロリAIでしょう。」
「ゴスロリ・・・ゴスロリ・・・ああ、なんかいたね、そんな人。忘れかけてたけど・・・。」
記憶にない解凍期間。正体不明のAIと不自然な爆発。さらにこれから空飛ぶ研究所に突入しなければならない。頭の痛い問題が山積みすぎてウンザリしてきた。ひきこもりライフに戻りたい。リアルなんて、クソゲーだ。
そんなことを考えていると、後ろの座席からナナとエドの声がした。振り返ると、ひとつしかない狭い座席に並んで座っていたはずのナナが立ち上がり、座るエドに向き合って彼のフトモモの上にまたがるように座り直している。
「せまいね、エドぉ・・・。こうやってすわってもいーい?」
「あばばばばばばばばばばば」
「あははは・・・エドのかお、ちかぁーい!」
「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば」
ナナが両手をエドの頭の後ろに回しながら笑った。吐息がかかるほどの距離。もちろんナナにそんなつもりはないが、アレは完全に魔性の女だ。あばばば言ってたエドは鼻血を噴き出しながら・・・幸せそうに目を閉じた。
「エド、エドぉ・・・?ねちゃったの?だいじょうぶ?」
「ナナ・・・エドは今、幸せなんだ。そっとしておいてあげなさい。」




