不死身合戦
【前回までのあらすじ】
・ウォーリーさん、怒る
「ただのサイボーグがパワードスーツに勝てるかァァァァァ!」
ジョージの乗ったパワードスーツの豪腕が振り下ろされる。人型ロボットであるパワードスーツの手・・・マニピュレーターは人間と同じ五本指で、本来は精密な作業をしたり多様な武器を扱うための部位であり、パンチするものではない。しかし軍事用パワードスーツであるPS-200には接近戦用の武器として、専用のナックルガードが装備されている。打撃の瞬間に手首から鋼鉄のガードが展開し、攻撃力を高めるとともにマニピュレーターを保護するのだ。
「フン!」
ウォーリーはその巨大なナックルを避けることなく、片手で受け止めた。彼の足が地面にめり込み、その破壊力を物語る。あいつ、あんなに強かったのか・・・。
「・・・っていうか大丈夫なの、あれ。敵の方が大きいけど。」
俺の疑問にマキちゃんが答える。
「あれは『オーバードライブ機能』ですわ。」
「オーバードライブ?」
「180秒間だけジェネレーターの出力を大幅に上昇させることにより、人工筋肉の力を数倍に引き上げる機能です。」
「なにそれカッコいい。180秒過ぎるとどうなるの?」
「爆発します。」
「なにそれこわい。」
制限時間付きの超パワー。男の子の心をグリグリ刺激する機能だ。ウォーリーはそのまま殴ってきた腕を掴み、気合とともにねじり上げる。
「失恋パワァァァァァァ!」
またなんか言ってる。あの叫びは必要なの?金属製の巨大な腕がメキメキと悲鳴をあげ、設計限界を大きく超えた負荷がかかった関節がボキリと折れた。肩のあたりからもぎ取られたパワードスーツの腕を放り投げ、ウォーリーはさらに悠然と迫る。
「なっなっなっ・・・来るなァ!来るんじゃねぇぇぇぇ!」
残った方の腕も同じように受け止められ、同じようにねじ切られた。あっという間に両腕をもがれたパワードスーツ。なんだか哀れになってきたぞ。
「そっそっ・・・それ以上攻撃したら人質を・・・やめっやめろォ!」
ジョージの悲痛な叫びが響く。ウォーリーはそんな声を無視してパワードスーツに飛びつき、その腰のあたりを古いシャッターでも開けるかのように力ずくで持ち上げようとしている・・・コックピットをこじ開けようとしているのだ。しかしこれは腐っても軍事用の兵器、外部からの力で簡単にコックピットが開いてしまうはずが・・・
「ミリィサマァァァァァァァ!」
おい、振られた相手の名前を叫んでるぞ。痛々しいから誰か止めてよ。俺?俺はやだよ。その時、バキャッと金属がねじ切られる音とともにコックピットが開いた。どうなってるんだ本当に。現れたのは、あまりの事態についていけてない凶悪そうな顔をしたモヒカン男と、全裸の美女。男はハッとして女性の方に手を伸ばそうとしたが、その手が彼女に触れることは叶わなかった。ウォーリーの手が男の手首をしっかりと捕まえたからだ。
「おイタはここまでデス。」
ウォーリーが力を込めると、ボキリと骨が折れる嫌な音と男の絶叫が響いた。そのまま凄まじい怪力で折れた腕を引っ張ってコックピットから放りなげられると、男は情けない悲鳴とともに高さ10メートルほどまで飛び上がってから地面にグチャリと落ちて動かなくなった。
「もう大丈夫デスよ、美しい方。」
そう言うとウォーリーは着ていた上着を脱ぎ、(上着は撃たれまくったので穴だらけだったが)彼女にそっと羽織らせた。彼女は相変わらずぼうっとしているが、その目は不思議そうにウォーリーの顔を見ている。
「それでは、チョット失礼しマス。お怪我はないデスか?」
そう言ってウォーリーは女性をそっと抱きかかえ、パワードスーツから地面に下りた。お姫様抱っこがなかなかサマになっている。彼女は嫌がるでも恥ずかしがるでもなく、ただぼうっとウォーリーを見ていた。なんだか様子が変だけど・・・まぁ普通の状況じゃないし、ぼうっとしてるだけかな?
「ご主人様、あれを。」
マキちゃんの突然の言葉に小屋の方を見ると、動かなくなったと思っていたジョージがフラつきながらもなかなかの速度で小屋の中に逃げていくのが見えた。歩いた後には大量の血痕が残っている。放っておいても死にそうだが、小屋にはまださらわれた人がいたはずだ。ウォーリーは彼女を抱えているのですぐには動けず、俺はひとり小屋に走った。
「待て!」
薄暗い小屋の中に飛び込むと、そこには震えて肩を寄せ合う女の子たち。ヤツはどこにいった?銃を構え、警戒しながらゆっくりと中に進む。すると不意に、小屋の隅に設置された棺桶のような機械の蓋が開き、無傷のモヒカンが現れた。
「くっくっく・・・言っただろう、俺は『不死身の』血まみれジョージだってなぁぁぁぁぁ!」
ジョージの手にはいつの間にかハンドガンが握られている。俺が反応するより早く銃口が火を噴き、女の子たちの悲鳴が響く。発射された数発の弾丸は俺の腹部・・・わざと苦しむ部位を狙ったのだろう・・・に命中した。
「バカが・・・次はあのサイボーグだ・・・ん?」
「ワキアシウエユビ・・・ワキアシウエユビ・・・」
俺は基本を確認しながら、ジョージに銃を向ける。
「なんだ!?防弾チョッキか!クソが!」
ジョージがさらに発砲し、弾丸が俺の頭部に命中する。ちょっとフラフラしたが、傷はすぐに治り、顔から押し出された弾丸が床に落ちた。
「・・・ふ、ふ、不死身・・・バケモンか・・・てめえ・・・」
「ワキアシウエユビ・・・ワキアシウエユビ・・・」
基本を守って引き金を絞る。よーく狙った俺の弾はまっすぐに飛び、ジョージの肩や胸、頬などに命中した。絶叫とともにジョージが棺桶の中に転がり、蓋が勝手に閉まる。
「見た?マキちゃん、当たったよ?見た?」
「はいはい。よかったですわね。」
「ちゃんと聞いて?そして褒めて?」
マキちゃんが適当にあしらおうとするので、ちゃんと褒めてもらおうと食い下がる。そんなことを繰り返していると、棺桶の蓋が開いた。そこには無傷のジョージ。その顔は恐怖で歪んでいる。しかしびっくりしたのは俺も同じだ。ちゃんと命中したのにどうして無傷なんだ!
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
俺は叫びながらとっさに引き金を引く。基本が出来ていない射撃だったが、それでも距離が近かったのできちんとジョージに命中した。ジョージは再び絶叫とともに転がり、蓋が閉まる。少し待つとまた蓋が開き、無傷のジョージ。
撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。開く。撃つ。閉まる。
途中からいつの間にか部屋で震えていた女の子の1人(服がナイフで切り裂かれていて目のやり場に困る)が俺の横に立っていて、弾が切れるたびに新しい銃を持ってきてくれた。さらにしばらく続けていると、他の女の子たちがキャッキャしながら銃撃に参加しだした。
「今の、◯◯◯に当たったわよ!」
「キャハハハハハハ!なんかアイツ、泣いてなかった?キャハハハハハハ!」
「次はわたしよ~!◯◯◯と◯◯◯をぶち抜いてやるわ!」
「キャハハハハハハ!ゲハハハハハハハハハ!」
女子怖い。どれくらいそうやっていたのか、しばらくすると蓋が開かなくなったので、恐る恐る近づいて開けてみる。中には涙と鼻水、その他の液体でグショグショになって小さく丸まるモヒカン男がひとり。
「やめてうたないでやめてうたないでやめてうたないでやめてうたないでやめてうたないでやめてうたないでやめてうたないでやめてうたないでやめてうたないでやめてうたないで・・・」
すっかり精神をやられているようだ。さてこのまま縛り上げて連れて行こうかと思ったが、すぐに背後から声がかかった。
「あ゛あ゛!?まだ終わりじゃねぇぞゴラァ!」
「泣いてるぅ~!!!!!」
「◯◯◯!◯◯◯!」
「キャハハハハハハ!キャハハハハハハ!」
ああ、女子怖い。彼女たちの気が済むまでやらせておくことにしよう。
そっと小屋を出ると、美女を抱っこしたまま、じっとその顔を見つめるウォーリーがいた。美女もぼんやりしたまま、ウォーリーの顔をじっと見ている。いつの間にか日が傾き、夕日がふたりを赤く染め・・・あれ、これなに・・・お邪魔な感じ?
「我はウォーリーと申しマス・・・。」
「・・・。」
「結婚してくだサイ。」
早くない?




