野盗
『クロ、一人残らずブチ殺しますわよ。着弾位置補正はこちらで引き受けます。いいですか、丁寧かつ速やかに。殲滅という言葉の意味を教えてさしあげますわよ。』
突然マキちゃんの声が脳内に響いて驚いた。明らかにイライラしてらっしゃる。
『あの・・・マキさん、なんか怒ってます・・・?』
『ご主人様、完全無欠のメイド、ご主人様の奴隷たる私は、感情を100パーセントコントロールしておりますし、それが当然でございます。ハル様との会話中、ご主人様の精神状態が常に高揚状態にあったとしても、私と一緒にいた415年間、1度たりともそんなことがなかったとしても、特に不機嫌になったりはいたしませんわ。』
あっこれマジで怒ってるヤツだ。どうしよう。
『全ターゲットを補足。いきますわよクロ。また防衛目標をアップデートいたします。優先順位は上から
私、
ハル様及びランス様、
ジープ、
クロ、
ご主人様
です。』
『ねぇ、前から言おうと思ってたんだけど、その優先順位、合理的だけどちょっとおかし』
俺が言い終わる前にこちらの攻撃が始まった。クロの背中が展開し、巨大なプラズママシンガンが飛び出す。間近で見ると本当にデカイ。どうやってクロの体内に収納されていたのか不思議なほどだ。間近っていうか近すぎる。近すぎて銃身と俺の身体がぶつかってる。
「ちょ、ちょっと待って、そのまま撃ったらこれ絶対俺が火傷す」
『クロ、おやりなさい。』
次の瞬間、この世の終わりのように激しい緑の閃光とともに、文字どおり雨のような過密さでプラズマ弾が発射され、情け容赦なく野盗の群れに降り注いだ。
小型のバギーに乗っていた野盗は頭部や胴体に穴を開けられ、次々と崩れ落ちる。装甲車のように強固に見えた武装車両はまず運転席を正確に撃ち抜かれ、続いて銃座についていた射撃手、それから外からは見えない車内の人間を装甲ごと、まるで正確に動く時計のように淡々と弾を浴びせられた。一見、無茶苦茶に撃ちまくったように見えて、着弾した位置は全て正確に人間の急所。そして、無駄な弾や外れた弾は1発もない。クロの射撃能力とマキちゃんの補正能力が合わさった完璧な攻撃であった。射撃の開始から終了まで1.5秒。残ったのは運転手の死体を振り落としてどこへともなく走っていくバギーと、近くの岩にぶつかって停車した、死体でいっぱいの武装車両。それから熱くなったプラズママシンガンの銃身に焼かれて、髪の毛がアフロみたいになった俺だけだ。
『攻撃終了。敵グループに生存者はありません。クロ、よくやりましたわ。』
クロは魔法のようにプラズママシンガンを体内に収納すると、シッポをブンブン振って、ワフッと吠えた。お前、なに喜んでんだ。褒めて!みたいな顔でこっちを見るんじゃない。お前のせいでご主人様はアフロなんだぞ。
ふと見ると、ランスさんとハルが、文字どおりポカンと口を開けて、停車した野盗の武装車両を見ていた。気づけばいつの間にか我々のジープも停車している。
俺がぜんぜん褒めてくれないのに業を煮やしたクロが、シッポを振りながらハルのヒジを鼻先でつつく。
ハルがゆっくりと俺の方を見て、それからクロを見た。
「な、な、な、な、な、なにいまのーーー⁉︎ちょっとすごくない⁉︎クロちゃんスゴすぎじゃない⁉︎」
一気にまくし立てながら、クロを撫でまくる。クロはもう千切れんばかりにシッポを振ってワフワフと鳴く。
そんなにクロばかり褒められるのは心外だな。いまの攻撃は、クロとマキちゃんの協力があったからこそなわけで・・・あ、俺なんにもしてないな。アフロになっただけだ。
「驚いたぜ。こんなにとんでもない自立兵器を見たのは初めてだ・・・。とにかく助かった、ありがとうよ、ワンコ!」
ランスさんも渋い声でお礼を言う。クロはそれを聞いてピョンピョン跳ねる。クロばっかりずるいぞ。俺も褒められたい。
『ああスッキリしましたわ。・・・ご主人様、なかなか素敵なアフロですわよ。』
違う、そうじゃない。




