スナイパー
【前回までのあらすじ】
・ハルさん、やる気出す
「よし、ウォーリー・・・行こうか。」
俺とウォーリーはふたり、光学迷彩を起動して敵のアジトに接近する。周囲に身を隠すものは何もなく、もし攻撃されれば避ける方法はない。まぁ姿が消えてるので発見されることはないだろうが、念のため抜き足差し足でゆっくり進む。
「ご主人サマの存在感のなさは筋金入りでございマスから、そう心配することもないでショウ。常に抑えきれないオーラがにじみ出ている我が見つかってしまわないか、心配デス。」
「なんだと・・・?いーや絶対、俺のほうが先に見つかって撃たれてやる!見てろよ!」
「イエ、できれば見つからないようにしてくだサイ。」
野盗のアジトは思いのほか堅牢だった。正面以外の方向を高い岩山に囲まれ、唯一侵入が可能な正面はスクラップを積み上げたバリケードが構築されている。そのバリケードの前には、なにもない荒野が100メートル以上広がっていて、うかつに接近した侵入者を容赦なく攻撃できるようになっているのだ。
「まぁ、我に任せてくださればあっという間に解決デス。さらわれた女性たちは我に任せて、ご主人サマは適当についてきてくだサイ。」
「なぁに、俺だって修羅場をくぐってきたんだぜ・・・?お前にも見せたかったよ、空母での血で血を洗う戦いっぷりを。」
俺の話に、マキちゃんがさり気なく割り込む。
「あらあら、ご主人様ったら・・・ウォーリーに見られたいのですか?そういう趣味もおありだなんて・・・」
「触手プレイの話じゃないよ!?」
そんな俺たちのはるか後方では、ハルが同じように光学迷彩で姿を消しつつ狙撃銃を構えている。ナナとエドはピンチに備えて留守番・・・というか野盗とはいえ、子どもたちに積極的に人殺しをさせるのは気が引ける。だからピンチになるまで待機である。30人の野盗なんてウォーリーひとりでもなんとかなるだろうし、俺は撃たれたぐらいじゃ死なないから銃撃戦向きだ。射撃、下手だけど。
「このまま悠々と侵入して人質の安全を確保、それから銃撃戦・・・ああ、ちょっと緊張してきた。」
「どうせ死なないのですから、気楽にしてくださいな。」
「そうデス。そもそもご主人サマは一発たりとも撃たれまセン。我が守りマスから。」
そういって、ウォーリーはグッと親指を立てて見せた・・・気がした。消えてるので見えないが。やだ、この変態ロボット、かっこいい・・・。俺はほんのりと頬を染め、彼の名を呟く。
「ウォーリー・・・ぐふっ」
突然の衝撃。
何事かと自分の身体を見ると、透明な身体にベッタリと極彩色のインクが張り付いている。・・・ペイント弾だ。あの・・・さっそく一発、撃たれたんですけど。
「ゲッ!」
横を見ると、ウォーリーも同じようにペイント弾を食らっている。光学迷彩は依然として動作しているが、このペンキを消すことはできないらしい。空中にド派手なペンキが浮かんでいた。
「ご主人様、敵アジトから武装車両が出てきます。危険ですわ。」
マキちゃんの声に前を見れば、バリケードの間から軽トラックが出て来るところだった。荷台には固定された大型の銃座・・・たぶん、クロが使っているプラズママシンガンと同じようなものだ。ペイント弾を食らった状態で、身を隠す場所もない。これでは良い的だ。
唐突な大ピンチに助けを求めるようにウォーリーを見ると、彼はググッと俺の身体を敵の方に押した。
「な、な、な、なにすんだぁ!?」
「ご主人サマ、我より先に撃たれるチャンスでございマスよ。ドウゾドウゾ。」
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野盗のアジト、山のようにスクラップを積んだバリケードの上にそれはいた。光学迷彩のマントを身にまとい、愛用の狙撃銃でアジトの外を見張っているその男の名は「一撃一殺のワイズ」。彼はニヤリと笑うと狙撃銃からペイント弾を排出し、代わりにストッピングパワーの高い対サイボーグ弾を装填した。
「光学迷彩なんて・・・ムダだぁ・・・俺には丸見え・・・ふひひ・・・。」
この厳しい世界において、高額の賞金首になるというのは並大抵のことではない。油断すれば、いやたとえ油断などしなくても、すぐ隣に死がつきまとう世界なのだ。賞金首になるにはそれなりの理由や、能力がなくてはならない。500万ボルという高額の賞金がかかったワイズも例外ではなく、特異な能力を持っていた。
それは、超洞察力。
砂ぼこりのちょっとした動きの変化、陽炎のゆがみ、風に混じる音など、五感のすべてをフルに使うことで目に見えない敵の位置を発見する。1秒後の敵の動きを予知することもできる。
徹底的に磨き上げられた狙撃の腕と相まって、それは強力な能力となる。今もまた、アジトに接近する見えない敵を簡単に発見し、ペイント弾を叩き込んでみせたのだ。あとは地上の部隊と連携し、なぶり殺しにするだけである。遮蔽物の全くない場所では、たとえ戦闘用のサイボーグでもただの的と変わらない。しかも自分はバリケードに完全に溶け込み、絶対に発見されることはないのだ。
「くふ・・・くふふ・・・。」
照準をゆっくりとサイボーグの頭部に合わせる。すでに敵は意味がないと判断したのか光学迷彩を解除し、豆腐のような、ツヤツヤ輝く四角い頭を見せていた。
「そのきれいな顔をフッ飛ばしてやる!」
ドンッ!と衝撃音が響いた。・・・が、弾丸が発射されたわけではない。なにが起きた?混乱するワイズが自分の首に違和感を感じ、触る。ヌルリとした感触・・・穴、首に穴が空いている?
「ガ・・・ガハッ!」
明らかに狙撃された傷、それも致命傷。ワイズは自分の死を悟り、薄れていく意識の中で何度も疑問を唱えた。なぜ、光学迷彩マントで姿を消している自分の位置がわかったのか。それもこんなに短い時間で、なぜ・・・。偶然とか気合とかカンとか、曖昧なものでは絶対にあり得ない。おそらく、自分と同じような能力・・・それとも、もっと強力な能力を持ったとてつもないスナイパーが敵にいたのだ。そんなヤツに殺られるのなら、仕方がない・・・。500万ボルの賞金首は、ほとんど誰にも気づかれることなくあっさりと息絶えた。
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ハルは自分の弾丸が見えない相手に命中したことを確信し、ニヤリと笑った。そして通信機代わりに借りた「聖霊様の腕時計」に向かって話しかける。
「みんな、スナイパーは始末した。次は軽トラを殺るわ。」
腕時計から、彼の驚いた声が響いた。
「はっ早くない!?なんで敵の位置がわかったの!?ハルって超能力者!?」
驚いてる驚いてる。ハルは彼に良いところが見せられてご満悦だ。敵の位置がわかった理由なんて、自分でも知らない・・・ただのカンだ。こみ上げる笑いを噛み殺して答えた。
「バカね、にーさん。愛の力に不可能はないのよ。」




