賞金首
【前回までのあらすじ】
・トラックの旅中
・にげてー!野盗、にげてー!
「ヒャッハァァァァァァァ!さっさとここを開けやがれェェェェェェェ!」
ドラゴンの町。我らがネコの町からはるか500キロ離れた場所にある小さな町は、人々にそう呼ばれている。見た目はネコの町とそう変わらない、周囲を高い外壁でぐるりと囲み、大きな門を武装した治安維持部隊が警備している。今、その門は固く閉ざされ、そしてその門の外で30人ほどの荒くれ者たちが騒ぎ立てている。
「開けねぇと、こいつで自慢の門をふっ飛ばしちまうぜぇぇぇぇぇ?」
叫んでいるのは、リーダー格の男だ。お約束のようにモヒカン頭にトゲの付いた肩パッド、悪事こそ自分の生き甲斐!とでもいわんばかりに顔に染み付いた嫌らしい表情。男の名前は「不死身の血まみれジョージ」、多額の賞金がかかった凶悪な野盗である。男の背後には巨大なクレーン車に、直径1メートルはありそうな鉄球がぶら下がっている。
「くっ・・・なぜ不死身の血みどろジョージがこんなところに・・・?」
「町長、血みどろではなく血まみれです。」
高い外壁の上には武器を構えた治安維持部隊が10数名。中心にいるのは町長と呼ばれた、白髪とヒゲをたくわえた老人である。老人は悔しそうに歯ぎしりした。なぜ彼らが攻撃もせず、野盗たちをここまで町に接近させてしまったのか。その答えは鉄球を見ればわかる。
「イリス・・・クソッ!」
町長がその名を呼んだ。クレーン車に鉄球とともにぶら下げられているのは、ボロボロの衣類でかろうじて肌を隠している少女・・・町長の孫娘、イリスである。身体のあちこちに血が滲み、すでにかなりの暴行を受けたことがうかがえる。しかしかろうじて生きてはいるようで、時々苦しそうに身をよじっていた。
「さっさとしろよぉぉぉぉぉぉ!?とりあえずもう1人、いっとくかぁぁぁぁ?」
血まみれジョージが耳障りな声で叫んだ。その足元に目をやると、頭を撃たれて死んでいる男性が2名と、まだ生きている男性が1人。町長は今朝、孫娘に隣町まで用事を頼んだ。彼らは彼女につけた護衛と使用人たちだ。ジョージは彼らを門の前に下ろすと、なんの言葉も要求もなく「とりあえず」町長の目の前で2名を射殺してみせたのだ。噂に違わぬ、いや、噂以上の凶悪な男である。生き残っている最後の1人は、長年町長に仕えている使用人だ。彼は全身から血を流し、座らされたまま生気のない目で宙を見ている。
「やっやめろ!頼む、やめてくれ!」
町長は叫ぶ。
「ああああああああああん!?」
しかし狂人とは会話にならない。まるでなんのためらいもなく引き金が引かれ、鮮血が飛び散った。使用人は倒れ、あっさりとその生涯を終えた。
「く・・・なんてことをしよる!悪魔め!」
「町長、限界です!攻撃しましょう!」
治安維持部隊のひとりが、焦燥にかられて銃を構えた。しかし弾丸が発射されることはなく、そのままズルリと外壁の外に力なく落ちていく。その頭に、いつの間にか顔面から後頭部を貫通する穴が開いている。町長と治安維持部隊の顔が恐怖で引きつった。
「・・・。」
クレーン車の影に、サイレンサー付きのライフルを構える男が1人。長い髪にやせ細った身体。人間を狙撃することに何よりの快感を覚える危険な賞金首「一撃一殺のワイズ」である。ワイズは黙ってスコープを覗いたまま、ニヤリと笑った。
「妙な動きをするなよぉォォォォォォ?うっかり皆殺しにしちまうだろぉぉぉぉ?」
ジョージが大声で笑いながら言った。町長は理解した。戦えば皆殺しになるだけだと。残された選択肢はひとつしかない。
「わかった・・・門を開ける。」
「な・・・ち、町長!?」
「食べ物と水も差し出す・・・じゃから、町の人間には手を出さないでくれ・・・。それと、孫娘を返してくれ。」
それを聞いたジョージは口が裂けたようにニヤリと笑う。
「いいぜぇぇぇぇぇぇ!?約束だァ、さぁ、さっさ開けなァァァァァァ!」
門がゆっくりと開いていく。まだわずかにしか開いていない隙間から、荒くれ者たちがなだれ込んだ。門の内側で待機していた治安維持部隊の人間を押しやり、町の中に散っていく。
「まっ待て!」
「ギャハハハハハハハ!」
町中で銃声と悲鳴が響き、町は大混乱に陥った。町長はジョージを見つけて詰め寄るが、数メートル手前で容赦なく脚を撃ち抜かれて地面に転がった。
「貴様・・・約束が違うぞ・・・!」
「ギャハハハハハハハ!なぁに、人間は終わったら返してやるよ。その辺のナマモノの巣にでも、なぁ!ギャハハハハハハハ!」
野盗たちは若い娘を数名と大量の食料を運び出し、もちろん孫娘を返すことなく嵐のように去っていった。死者はほとんどいないが、それは決して良いニュースではない。奴らは何度でもこの町にやってくるだろう、そのために門を壊さず、人間もほとんど殺さなかったのだ。この町を生かさず殺さず、寄生して搾取するために。この町を待ち受ける地獄を想像して、町長は悔しさに地面を叩いた。
「なぜこの町がこんなことに・・・この世界には・・・神なんておらんのか・・・ッ!」
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俺たちは相変わらず、トラックで荒野を爆走している。今はちょうど町と町の間を走っているので、今までほど凶悪なナマモノにも遭遇せずスムーズに進んでいる。
「えっ、ウォーリーって神様とか信じてるの?なんか意外だな。」
俺はなんとなく助手席に座り、運転するウォーリーと話をしていた。たまには男同士でダベるのも悪くない。
「そうデスか?神はいつでも我の行くべき道を教えてくれマスよ。」
「ふぅーん・・・?お前にとっての神ってなんなの?何教?」
その時、ウォーリーのアイカメラがはるか前方を走る野盗の集団を発見した。クレーン車を従えた、そこそこの大所帯である。そして、クレーン車に吊り下げられたボロボロの少女と、ジープに乗せられた数名の女性の姿も視界に捉える。
「ご主人サマ、また神が我の成すべきことを教えてくれまシタよ。」
「ええ?」
トラックがうなりを上げて加速した。俺はシートに押し付けられて呻きながら、ウォーリーに話しかける。
「な、な、なんなの?お前の神ってなんなの?」
「それは、モチロン・・・。」
たくみにハンドルを操作して地面の岩を避けながら、ウォーリーは俺の方を見た。
「おちんちんさまデス。」
ウォーリーの思考・・・女性に良いところを見せる = モテる = 神への貢献
 




