正義のヒーロー
【前回までのあらすじ】
・町から600キロの地点まで、トラックの旅
※ 今日は2話更新します
「おお・・・このイモムシ・・・地下鉄の車両かな・・・?」
ナナが放った弾丸は完璧な弾道を描き、数十メートルもありそうなイモムシ型のナマモノの頭部を吹き飛ばした。地面から飛び出したばかりの巨大ナマモノは、その全貌を明らかにする前に絶命して大地に沈む。
「はい、中央メトロのN6000系車両に酷似していますわね。止まって確認いたしますか?」
「・・・いや、無視してさっさと行こう。襲われるたびに止まってたら1年ぐらいかかりそうだし。」
ウォーリーが運転するトラックは停止することなく、倒れた巨大イモムシの残骸を迂回して進んでいった。
「でね、あれはアタシが10歳の時よ。とーさんが酔っ払って、筋肉さえあれば9mm弾ぐらいなら余裕で耐えられるって言い出して・・・」
ナナが銃を下ろすとハルとエドは黙って耳栓を外し、なにもなかったようにお喋りを再開した。ハルはこの世界に伝わる昔話やランスさんの武勇伝、はたまた自分の子供時代の思い出などを話し、ナナとエドが聞き入っている。特にどんなピンチも筋肉で解決するランスさんの話はヒーローもののテレビを見ているようで、エドに好評だ。
目的地までは直線で600キロだが、道が整備されているわけでもなければ安全な道のりでもないので、適度にキャンプで休息をとりながら進めば到着までは5日はかかると想定している。今のところ襲われる頻度の高さを除けば予定通りである。
「あっ、おみずのじかん!」
ナナが立ち上がり、荷台の端に置いてある鉢植えのプラズマライフルの木に水をやりだした。小さな木なので生成できるものはたかが知れているが、それでもきっと役に立つだろうと思って積み込んだものである。荷台には他にも水と食料と生活必需品、それから弾薬類が多めに積み込まれていて、1匹のレーダーウサギが積み込まれた荷物の上で監視の目を光らせている。
「フンフン〜♪我のマグナム、唸りを上げて6連射〜♪暴発しガチな困ったBOY♪」
運転席ではウォーリーがご機嫌にハンドルを握っている。今回のメンバーはマキちゃん、ナナ、エド、ハル、ウォーリー、俺だ。ガイはいつものように店番、クロとシロはもしもの事態に備えて町の警備。レイも本体が町に残っているが、俺たちが向かう600キロ地点より手前ではレーダーウサギが配備完了しているのでネッコワークを通じていつでも顔を出せる。
「マキ姉さま〜!寂しくなったですぅ〜!」
「レイ、2分前まで抱きついていたではないですか・・・。ちょ、ちょっと、今はみなさんが見ているのですから・・・」
とまぁ、こんな感じ。・・・ん、皆が見てないところでは、一体どんなことをしてるんだこの2人は・・・?
「それにしても、ナマモノの数がすごいね。こんなにしょっちゅう襲われるものなのかな?」
俺の疑問に、ハルは首をかしげる。長い髪と日よけのマントが風に吹かれてバタバタと揺れていた。なんだか初めて会った時のことを思い出す。
「どうなんだろ・・・?アタシもこんな旅するの初めてだから・・・。でも、普通の人がこの頻度で襲われたら確実に5キロも進めずに死んでると思うわ。やっぱり道を外れているからナマモノが多いんじゃない?」
ハルの言葉に納得していると、マキちゃんが本日何十回目かの警告を発した。
「ご主人様、5キロ先に野盗の集団です。今なら大きく迂回すれば、気づかれずに通過できるかもしれませんが・・・。」
「ん・・・野盗ってこんな環境でどうやって生活してんだろ・・・。いや、それよりも野盗か・・・。」
面倒くさいのでスルーしようかと思ったが、俺の脳裏にミリィさんとの会話がチラついた。この世界の野盗というのはとんでもなくタチが悪いらしい。町を襲い、旅行者を襲い、人間と見ればとにかく拉致して、さんざん苦しめた後に殺す。「ファイヤーアント」のメンバーには、野盗に拉致されていた経験がある人も何人かいて、この間助けたときは捕まる前に自害しようとしていたぐらいだ。
俺は少しだけ悩む。たぶん絶対、俺たちが野盗と戦ったとしても負けることはない。それどころかケガをする可能性すら低い。しかしゼロではない。ゼロではない以上、正義感にまかせていちいち野盗と戦う理由なんかないのではないか。必要もないのに、家族を危険にさらすことなんてないのでは。俺たちはただの一般市民だ。
よし、ここはひとつ迂回しよう。自分に関係ない悪人をいちいち懲らしめる必要はない。俺は正義のヒーローじゃないんだから。そうだ、俺にはみんなを守る義務がある。
そう思って運転席を見ると、ウォーリーが片手でハンドルを操作しながら、反対の手で【ハリケーン】取り出していた。前を見ると、ナナが【ラッキーセブン】をリロードしていて、その隣でハルが狙撃銃を組み立てている。エドは戦闘用のヘルメットをかぶり、小さなライフルを手に取った。
「あの・・・みんな・・・あれ?」
とまどう俺に気づいたハルが、あっという間に組み立てられた狙撃銃を担ぎ、歯を見せてニコッと笑った。完全に狩人の顔だ。おかしいな、守らないといけない家族はどこいった。
曖昧に笑い返す俺の前にナナがスッと立ち、両手で俺の顔をはさんで笑った。
「だいじょうぶだよ、おとーさんはナナがまもってあげるから。」




