キャンプの旅
【前回までのあらすじ】
・レーダーウサギを並べて長距離通信網にしよう
・ウサギは鳥に運ばせよう
・町から600キロの地点でウサギが死にまくっています
「おとーさーん!おやつたべてもいーい?」
ナナは聞きながら俺の答えを待たずにカバンを漁り始め、マキちゃんに叱られている。俺たちはいつものようにトラックの荷台に乗って、どこまでも広がる荒野を進んでいた。
「いやー順調だね・・・ハル、まだ飲み水ある?」
「まだまだたくさんあるよ。私とエドしか飲まないしね。」
のんびりと荒野の風を感じながらトラックに揺られていると、運転席のウォーリーが警告を発した。
「ご主人サマ、前方500メートル先の地中に超でかいナマモノを検知しまシタ。たぶん襲われマス。」
ナナがオヤツの代わりに愛銃【ラッキーセブン】を取り出し、マガジンを交換する。まもなく前方の地面が割れて、なにか巨大なものが飛び出した。鼓膜をひっかくような、耳障りな怪物の叫びが大地を揺らす。
「キシェァェァェァェァェァェァァァァァァァァェェェェェェェェェ!!!」
「いやー順調だね・・・2、3キロごとに襲われてる気がするけど・・・。」
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数日前。
配備作業中のレーダーウサギとトラン・ホークが次々と消滅する謎の現象を調査することに決めた俺達だが、話はそう簡単ではなかった。なにせ問題が発生している現場は町から600キロも離れているのである。どうやって現場まで向かうか・・・それが問題だった。サリーに飛行機でも借りれれば簡単に行けるのだが、この町で飛行機を調達するのは不可能だし、首都に帰ったサリーに連絡を取る方法もない。
俺は自宅のリビングで鼻歌を歌いながら銃の手入れをしているハルに聞いてみた。
「ハル、ちょっといい?」
「にーさん、なあに?」
ソファに座るハルは、作業を続けながら自分の隣をバシバシと叩く。座れということか。俺が遠慮がちに少し離れて座ると、ハルは手を動かしながらもススッと俺に密着してきた。火薬とグリスの匂いに混じって、ハルの匂いがする。隣のハルをよく見れば、耳が真っ赤に染まっていた。自分で密着しておいて照れているらしい。そういうことされると俺まで恥ずかしくなるからやめてほしい。やめてほしいというかもってやってほしい。何言ってんだろう、俺。
「えっと、あの、ハルさん?」
「な、なあに、にーさん。聞きたいことがあるんじゃないの?」
「ああそうだった。町から600キロ離れてる、何もない荒野のど真ん中に行きたいんだけど・・・こういう時って普通、どうやって行くの?」
「・・・ん、行かない。」
「ん?」
ハルは分解した銃を滑らかな動作で組み立て直し、しげしげと眺めながら言った。
「そんな危険なところ、普通は行かないの。」
「・・・そっか。」
すっかり忘れていたが、この世界では産まれた町を出ずに一生を終える人がほとんどであり、長い旅に出るのは一般的ではない。言うまでもなく、危険だからだ。野生のナマモノ、野盗、自然現象・・・ついでに飲み水や食料もディストリビューター以外の手段ではほぼ入手できない。うかつに町を出ればすぐに死ぬ。それがこの世界だ。
ハルは完成した銃をテーブルに置くと、ごく自然に俺の方にもたれかかってきた。・・・腕に当たる柔らかい感触ががががが落ち着け。宇宙の起源とかについて考えろ。おっぱい。
「あ、プロのハンターの人は、長距離の旅に出る人もいるよ。たとえばあの・・・『ファイヤーアント』の人たちとか。」
「・・・おっぱい。」
「え?」
「いや、なんでもない。そうか、ファイヤーアントね。町にいるかな?」
しばらくハルとおっぱ・・・雑談を楽しんだ後、自宅横のランスさんの店に向かった。都合のいいことに、ファイヤーアントのミリィさんが来店しているらしい。入り口のドアを開けようとすると、中から話し声が聞こえてきた。ウォーリーとミリィさんだ。ふたりは最近、友人として仲良くやっているらしい。
「・・・じゃあ最近の彼は、触手プレイに夢中なのね?」
「そうなのデス。我も一度は体験してみたいデスね。」
「ウォーくんのパワーだと、触手ぐらいは引きちぎりそうだけどね。そっかぁ、彼、実はファイヤーアントでも人気なのよね。しかも噂によればお金持ちでしょ?」
「電話とネコを牛耳ってマスからね。ぶっちゃけヤバイぐらい金持ちデス。本人は普段、仕事も何もしてないデスが。」
「偉い人なのねぇ。じゃあウチのメンバーを彼のハーレムに入れてもらってもいいのかしら?ハンター稼業を続けるより、安全な生活をさせてあげたいと思う子が何人かいるのよ。みんないい子よ?」
「ウーム・・・。しかしご主人サマは大魔導師デスからネ・・・。」
「ええっそうなの?嘘でしょ?経験ゼロ?」
「これがマジなんでございマスよ。」
「ゼロかぁ〜。へぇ〜。触手プレイはしてるのに。」
なにこの会話、めっちゃ入りづらい。っていうかウォーリー、何を暴露してるんだ。お前だって3000歳の大魔導師のくせに。
「ふふっ・・・大魔導師ですって・・・。」
マキちゃん、笑い事じゃないよ。主のプライバシーが目の前でゴリゴリと侵害されていますよ?俺は意を決して扉を開く。
「あっ大魔導・・・ハッカーのお兄さん、こんにちは。」
「大魔導・・・ご主人サマ、お疲れサマでございマス。」
ふたり揃って大魔導師って言おうとしただろ。いいのか?大の大人がメソメソ泣き出してもいいんのか?
「ふっ・・・大魔導師・・・ふふっ・・・」
マキちゃんも笑うのやめて。
涙をこらえ、俺はミリィさんに600キロの旅について意見を求めた。彼女は嫌な顔ひとつ見せず、スラスラと答えてくれた。
「そうね・・・普通は町から町を経由しながらいくのよ。」
「ほうほう。」
「首都とこの町の間には、ルートにもよるけど、だいたい8つの町があるわ。町から町へ渡り歩きながら補給しつつ、目的地に向かう感じね。あなたが言った地点も、わりと近くに町があるわよ。」
「なるほど・・・」
「それに町と町の間はハンターがよく行き来するから、ナマモノも比較的少ないの。道を外れるとナマモノがグッと増えるから、そもそも無事にたどり着くのが難しくなるわ。」
「ふーむ。」
「ところで、わたしからも聞きたいことがあるんだけど・・・。」
「はい?なんです?」
「触手プレイって、どうなの?」
「」
ミリィさんから町の位置や旅の常識を聞き、触手については適当にぼかし、急いで別れた。マキちゃんが今にも語り始めそうにウズウズしていたのだ。聖霊様が触手プレイについて熱弁を始めたらイメージが崩壊するどころの騒ぎじゃないし、俺が絶叫しながら気絶するようなプレイを世間一般に広めてはいけないと思う。
色々と検討したのだが、ミリィさんに教えられた普通の行き方ではやたらと時間がかかることが判明した。地図上を直線で移動するのに比べて、町から町を経由しながら進むと3倍以上の時間がかかってしまう。べつに時間がかかってもいいのだが、できるならとっとと早く行って早く帰ったほうがいい。俺はインドア派なのだ。
というわけで俺は、自力でトラックに乗って移動し、キャンプしながらまっすぐ目的地に向かうという方法を選んだ。この世界の常識なんて無視だ。
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そして場面は冒頭に戻る。
地面を割って登場した巨大なナマモノにも、俺たちはまったく動じない。何十メートルもあるナマモノなんて、もうエンカウントしすぎて恐怖どころか驚きもすらない。確かに道を外れるとナマモノが多いとは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。これは選択を誤ったかもしれない。常識って大事。
「おかーさん、ホントにおやつはダメ?」
ナナは作業的に巨銃【ラッキーセブン】を構えながら聞いた。マキちゃんは首を振って答える。
「さっき食べたばかりでしょう。我慢なさい。」
ナナはプクッと頬を膨らませて引き金を引いた。壮絶な爆音が響くが、俺もハルもエドもしっかり耳栓で鼓膜を保護している。ナナは着弾を見届けもせず、何かを思いついたように銃を下ろしてマキちゃんの方を見た。
「おかーさん、バナナはおやつ?」




