前門の虎、後門の狼
【前回までのあらすじ】
・空母破壊 & 脱出成功
・マキちゃん、サリーを尊敬する
「にーさん、おかえりなさい!みんなケガとかしてない?」
自宅の庭先に着陸した兵員輸送機を降りると、ハルが真っ先に出迎えてくれた。今日は仕事が休みだったのか、胸元が油断しているいつものタンクトップにホットパンツ姿である。無邪気で健康的なハルを見ると、なんだか自分が汚れてしまったように感じる・・・。
「ただいま、ハル。みんな元気だよ・・・。」
「にーさん、なんか・・・ものすごく疲れてない・・・?」
俺に続いて、エドとナナが元気に飛び出してきた。
「ただいま、ハルおねーちゃん!」
「ただいまです、ハルねえさん。」
そしてウォーリーも。
「ハルサマ、おかえりなさいの熱烈なハグをお願いしマス。」
ウォーリーを華麗にスルーしたハルは、エドとナナをしっかりと抱きしめた。エドは照れ臭そうに、ナナはニコニコ嬉しそうに抱きしめられている。ウォーリーの横をレイのネコが「お約束、乙ですぅ」とささやきながらすり抜けていった。
最後にサリーも飛行機を降りると、俺をまっすぐに見て右手を差し出した。俺はその手をしっかりと握り返す。
「本当にありがとう・・・あなたのおかげで、多くの人が救われたわ。もちろん、私もね。」
「そりゃよかったよ・・・もう2度とやりたくないけどね。」
サリーはふふっと笑い、俺も笑い返す。
「もっと他にお礼ができればいいんだけど・・・。そうね、ちょっとあなたの寝室にお邪魔させてもらえるかしら?もちろん、マキさんも一緒にね。」
「すぐにご案内しますわ、サリー先生。」
「いやいや・・・なにこれ、なんで師弟関係が芽生えてんの・・・?」
そんな俺たちを、ハルが不審な目で観察している。違う、違うんだ。もういいからサリーさんには帰ってもらおう。
「じゃあね、サリー。首都にはなるべく早くネッコワークを展開させてもらうから・・・ん?」
あれっ・・・ガッシリと握られた右手を離そうとしてるのにビクともしないぞ。サリーは微笑んだまま、恐ろしい力で握手している。いやこれ握手?っていうか捕食?背中から冷や汗がダラダラ出始めた頃、ようやくサリーは手を離してくれた。握られていた俺の右手が軽く変形している。
「ふふ・・・冗談よ。ふふふ・・・ネッコワークがあれば、あなたにいつでも連絡できるようになるわね。楽しみだわ。首都に来たら、ユニオン本部に寄ってちょうだい。ネッコワーク展開の打ち合わせをしましょう。」
「ああ、よろしく。」
俺は右手を握ったり開いたりして具合を確かめる。そのまま食われるかと思った。色んな意味で。
「それじゃ、私は行くわね。また会いましょう。」
そういうとサリーはごくごく自然に俺に近づいて腰に手を回すと、そっと触れるようなキスをした。ハルが息を飲み、マキちゃんはさんざん見て麻痺したのか、それともマジでサリーを認めたのか、気にした様子もなく黙って見ている。サリーはあっけにとられる俺に笑いかけた後、兵員輸送機に乗り込む。立ち尽くす俺を置きざりにして、兵員輸送機は飛び立っていった。
「・・・⁉︎」
背後に強烈な殺気を感じて振り返ると、そこにはとっても素敵な笑顔のハルが立っている。エドとナナはもちろん、他のメンバーもみんな知らぬ間に姿を消していた。
「にーさん・・・ずいぶん・・・あの女の人と仲良くなった・・・みたいね・・・?」
「ひっ・・・ちがっ・・・俺は・・・被害者で・・・」
「被害?どんな被害にあったの?ねぇ、教えて・・・?」
俺がノドからヒュウヒュウという乾いた空気音を出して立ちすくんでいると、足元にモゾモゾと動くものを見つけた。握りこぶしほどのサイズで、それは白くてモチのような・・・まんじゅうのような・・・ん、まんじゅう?
「これ・・・白まんじゅう?」
俺の呟きに、マキちゃんが楽しそうに笑って答えた。
「サリー先生が切り落とした部分がございましたので、ちょっとハッキングして、ついてきてもらったのですわ。」
「嘘だろ・・・いつの間に、そんな・・・!?」
「さっそくスキャンして、量産体制に入りましょう。毎日が楽しくなりますわ。」
「ま、ま、毎日!?あの強烈なプレイを毎日!?・・・ナノマシン持ちでも死ぬよ!?」
パニックに陥る俺に、魔王の如き殺気をみなぎらせたハルが迫る。
「にーさん、いったい何をしてきたの・・・?悪いナマモノを退治しにいくって言ってたよね?それがどうして首都から来た美人と強烈なプレイをすることになるの?」
「ち、ちがうんだ・・・強烈なプレイをしたのはサリーじゃなくて・・・いや、サリーとも危なかったけど、けっきょく未遂で・・・マキちゃん、なんとか言ってよ!」
「うふふふ・・・私のかわいい白まんじゅう・・・。」
「にーさん、洗いざらい話してもらうわよ・・・?」
ハルが愛用のハンドガンを抜き、足元では白まんじゅうが楽しげにウニョウニョと身をよじっている。まさに前門の虎、後門の狼。四面楚歌。冷や汗でビショビショになる俺をからかうように、ミニ白まんじゅうがかわいい声で鳴いた。
「ヌウウウウウウウウウウ」
空母編、終わりです。