冷凍睡眠200年の刑
初投稿作品です。よろしくお願いいたします。
「つまりこの木は・・・プラズマライフルの木ってこと?」
ギャアギャアと、得体の知れない生き物の声がこだましている。目の前には見渡すかぎり緑一色の、見事なジャングル。冷凍睡眠から目覚めるとそこには見慣れた街の風景はなく、ただただ緑のジャングルが広がっていた。
それも普通のジャングルではない。草の影から飛び出してきたのは、電卓と生きたカエルが融合した生き物だった。なにかのケーブルがヘビのようにうねりながら這い回っているのも見かけたし、そのヘビに追いかけられているネズミはどう見てもマウスだった。もちろんパソコンを操作するための、あのマウスである。
極めつけは、目の前に立っている立派な木。高さ15メートルはありそうな立派な木からたくさんぶら下がっているのは、木の実や果物ではない。何度か実際に目にしたことがある武器・・・プラズマライフルだった。バナナとかリンゴではなく、プラズマライフルのなる木。そんなものあるわけがないが、困ったことに目の前に存在している。混乱し、途方に暮れながらも、俺はプラズマライフルに手を伸ばした。
どうしてこうなったんだっけ。俺は冷凍される前の記憶を引っ張り出す。
「被告人を、冷凍睡眠200年の刑に処す。」
あの日、マンガに出てくる魔法使いみたいな、白ヒゲをたっぷりと蓄えた裁判長のジジイは、俺に向かってそう言い放った。ご存知の通り、冷凍睡眠200年は刑罰としてはかなり軽い方だ。
全人類が医療用ナノマシンを体内に持っている今日、人類にとって時間なんてものは大した意味を持たなくなっていた。ナノマシンが身体の細胞すべてを好きな肉体年齢で維持し、自由に若返らせ、望むなら老化させることだってできる。あのジジイみたいな見た目の裁判長だって、仕事の都合でジジイっぽい風貌にしているだけで、実際は俺とそう変わらない年齢に違いない。俺だって見た目は20歳ぐらいだが、実際の年齢は500歳を超えている。
怪我も病気も、ナノマシンの普及と同時に消滅した。どんな重症も、絶望的な不治の病も、体内に無数に存在するナノマシンがたちどころに治してしまう。聞いた話では、ショットガンで頭を粉々に吹っ飛ばしてもあっという間に元に戻ってしまうらしい。自分の頭で試そうとは思わないが、本当かどうか確かめてみたい気もする。
そんなわけで、冷凍睡眠200年という刑には大した意味はない。流行に取り残される、家族に会えない、心配かける…そういうペナルティがあるといえばあるが、俺にはほとんど関係ない。流行には興味がないし、もともと人間プラント産まれで家族のいない俺には、心配をかける相手もいない。せいぜいネットで知り合ったハッカー仲間に忘れられるぐらいだろうが、心底どうでもよかった。俺はもともと群れるのが嫌いなんだし、そもそも今こうして捕まっているのだって、仲間と呼んでた連中がヘマをしたせいだ。こんなことなら最初からひとりでやるべきだった。
200年なんてあっという間。寝ているだけの俺には一瞬だ。200年後にはもっとうまくやってやろう。やたらと清潔で明るい冷凍施設の廊下を警備ロボットに案内されながら、俺は考えた。俺が本気を出せば、この警備ロボットをこの場でハッキングして、今すぐ自由の身になることだってできるだろう。しかし、ここで無駄に抵抗したり、脱走するメリットなどない。おとなしく冷凍されることにする。大きなタマゴのような形のカプセルに横たわり、半透明の蓋が閉められた。目の前には今年、「マニ歴3169年」の表示が見える。目が覚めた時は3369年か。そういえば俺の家はどうなるんだ?刑の確定から執行まではあっという間で、反省する時間も身辺整理する時間もない。家政婦ロボのクラレンスだけで自宅を200年も維持できるんだろうか?いや無理だろ。生卵を電子レンジでチンするようなポンコツだぞ。
などと考えているうちに意識が薄れていく。匂いも何も感じないが、睡眠導入ガスがカプセル内に放出されているようだ。
「次に目覚める時は・・・20・・0ね・・・ん・・・ご・・・・。」