第三話 「日本史上最高の動物園は長崎バイオパーク」
あれぇあれぇ??この小説のジャンルってなんだっけぇぇ??
ボクはもう,考えるのをやめた。
キヨミは昔のことを思い出していた。殆どの記憶は断片的にしか残っていないから,もしかしたら一般的な「思い出す」という行為には似ても似つかないものかもしれなかったが彼女にはそんなことしかできなかった。私は何もできなかった。大雨と嵐によって,うまく立つことさえ困難だったあの日のことを途切れ途切れに思い出す。キヨミは自分の弱さを憎んだ。あの時は力がなかった。そして今も。自分には何もできなかった。そして今も。自分は立つことさえできなかった。そして…今も…?
キヨミは異変に気がついた。体が一ミリも動かないのである。自分の力のすべてを使って立とうとするが,指一本でさえも動かない。困惑するキヨミ。やはり何かがおかしい。今日が入学初日だからなのか?気分がなんだか変だ。すると背後から何かが近寄ってくるような雰囲気がした。
「よぉうお嬢ちゃん。どうやらまんまとオレの能力にかかってくれたみてぇだなぁ」
キヨミは戦慄した。振り返って相手の姿が見たいと思ったが体が動かない。誰か!助けて!必死で声を出そうとするが,恐怖で口が開かない。
「じっとしてれば悪いようにはしないぜぇ。ま,あいにくお前さんはじっとしてるほか無いんだけどな!!」
声の主が近づいてくるたびにキヨミは震えた。理屈では説明できないが,なにか恐ろしい物が背後にいる。そして近寄ってきている。キヨミはようやく声を振り絞って尋ねた。
「あなたは誰?なぜ図書館はこんなことになってるの?」
奴の足音は聞こえなかったが確実に近づいてきている!キヨミは心の底から逃げ出したかったがそれもかなわない。
「冥土の土産に教えてやる!!オレの能力は認識する空間にある物体を静止させる能力<お止まりナイトツアー>だぁぁぁぁ」
能力??一体どういうこと?
「あなたの目的は何?なんでここにいるの?なんでそんな卑猥な能力名なの??」
キヨミの顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
男は満面の笑みを浮かべ答える。
「そいつはなぁ!冥土の土産でも教えられねぇぜぇっっっっ!!!」
男の気配が強くなる気がした。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
男がキヨミに飛びかかろうとしたその瞬間,空間は黄色い光に包まれた。
「イヤッッホホホッッッッッッホオっッッッホウっっっっっっっ!!!!!!!」
女性のような少年のような,高くて元気のある声だった。
「誰よ今度はぁああ!!??」
キヨミはつかれていたせいか半ギレだった。
「やあボクは魔導書だよぉ!魔力を持つものがボクを求めてるみたいだったから来てみたんだ!」
意味がわからない。ゴテゴテの高そうな本がペラペラと喋ってる。ペラペラと,本だけにペラペラと。キヨミはうまいことを思いついた気がしたが,実はそんなことはない。
「what are you saying????もうイミフだよぉぉぉぉっぉぉぉ」
ついに鼻水まで噴出するキヨミ。ここまではそこそこのヒロインとしてなんとかやれていたのだが,もうダメだ。残念ながらキヨミの女性としてのプライドはここで朽ちてしまった。
「…おい魔道書ぉ!!こっちへ来やがれっ!オレが魔力を持つものだ!」
男はキヨミの変貌っぷりにちょっとがっかりしながら魔道書に近づく。
「違うね!キミも確かに魔力を持ってるけど,完全に悪のそれだよね。残念ながらボクが力を貸す相手はこのキヨミちゃんでーーーーーーーす!!!」
「「はぁぁぁぁぁ?」」
キヨミも男ももうよくわからなくなっていたが,ここでわけわからなくなっていたらもうおしまいである。だってこの小説一応ファンタジー系だから,これからもっと奇天烈な内容になってくんだよ。いや,むしろこの第三話はファンタジー物やってる方だから前回,前々回より全然マシである。
「そうか…そうだよね」
キヨミは徐々に平静を取り戻す。そうだ,やっと朕はファンタジーものができてる。やっとだ。三話にして,やっとだ。
「体が…動く?」
ようやく男の姿を確認したキヨミは以外にも低身長野郎だったことに気づく。
「アハハハ!アハハははは!!なによただのチビじゃなぁい!おまけに何そのダサい格好!!レオタード?レオタードぉぉ?????」
何も言い返せず涙を浮かべる男。
「急ごう!!今はボクの力によって動けてるけど,またしばらくしたら奴の能力が発動してしまう。その前にここから逃げるんだ!」
しかしキヨミは動かない。
「どうしたのキヨミちゃん?早く逃げなきゃ」
キヨミはもう迷わなかった。
「おいレオタード野郎!貴様の弱点は,あの静寂の中で見切った!あとはお料理してやるだけだぜぇっぇええええ!」
キヨミはJCとは思えないほどの速度で男に近づいていった。彼女の顔は,もう可憐で優しかった少女の頃とは全く異なっていた。正直魔法少女と呼ぶには程遠い。しかしこれが成長であり,新たな物語のスタートである。そう思った魔道書は青空に向かって親指を突き出し,ニヒルに微笑んだ。
第三話 完