表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

9月6日。

--ガタンッ

『・・・マコトさん?』

遠くで誰かの声が聞こえた気がした。

赤い服の彼だったかもしれない。

黒いパーカーの彼だったかもしれない。

緑のパーカーの彼だったかもしれない。

いや、そもそも、彼らの一人が今日欠勤してたかも分からない。

僕は椅子からふらっと立ち上がったまま動けないでいた。

頭の中は怒りの感情に溢れていた。

それをどうすることも出来ないでいる僕にも怒りがあった。

ゆらりと首をドアの方に向けるといっきに走りだす。

僕は足がもつれるのも構わず階段を下りて。

ロッカーを開けると筆箱を探す。

バラバラといろんなものがこぼれて音もこぼれた。

カッターナイフを手にすると、僕は大きく振りかぶった。

「~~~!!!」

カッターナイフは左手のすぐ右側、一緒に落ちたノートに刺さった。

その距離はわずか1cmぐらいだったろうか。

「・・・出来るわけ・・・ないだろ・・・」

あの頃に戻るワケにはいかない。

リストカットがリストカットを呼ぶ。

感情のままに切った傷が新しくまた血を流す。

怒りの感情は負の感情。

だから他人に向けてはいけない。

そう思ってきた。・・・思わせてきた。

『こんなことも出来ないんだ?』

さっきだってそうだった。

ふと吐かれたひとりごとに怒りが沸いた。

他人のことだ。なのに。

どうして僕はこんなに不器用なのか。

自分の怒るべきこと。他人の怒るべきこと。

自分が悩むべきこと。他人の悩むべきこと。

その境界線が分からない。

気がつけば自分だけがぐるぐると空回りしている気がする。

「あーあ、ぐっちゃぐちゃだ・・・」

床に散らばったノートや筆箱やスマホ。

カバンをロッカーから引き抜いて僕は片付けを始めた。

「手伝いましょうか?」

「え?」

右を向くと、緑色のパーカーの彼がいた。

「これって勉強してるの?うわー・・・偉い」

左を向くと心理学のテキストを持った黒いパーカーの彼。

「ちょっ・・・二人共仕事・・・」

「時計見てみ、マコトさん」

かすれた声は赤い服の彼で、僕の後ろに立っていた。

壁にかかった時計は、12:03。

「あ・・・」

「それにしても」

赤い服の袖が視界を横切って穴のあいたノートを取った。

「よく頑張りましたね」

ノートの横でくしゃっと笑った顔。

一筋涙が頬をつたって、僕も不器用に笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ