9月6日。
--ガタンッ
『・・・マコトさん?』
遠くで誰かの声が聞こえた気がした。
赤い服の彼だったかもしれない。
黒いパーカーの彼だったかもしれない。
緑のパーカーの彼だったかもしれない。
いや、そもそも、彼らの一人が今日欠勤してたかも分からない。
僕は椅子からふらっと立ち上がったまま動けないでいた。
頭の中は怒りの感情に溢れていた。
それをどうすることも出来ないでいる僕にも怒りがあった。
ゆらりと首をドアの方に向けるといっきに走りだす。
僕は足がもつれるのも構わず階段を下りて。
ロッカーを開けると筆箱を探す。
バラバラといろんなものがこぼれて音もこぼれた。
カッターナイフを手にすると、僕は大きく振りかぶった。
「~~~!!!」
カッターナイフは左手のすぐ右側、一緒に落ちたノートに刺さった。
その距離はわずか1cmぐらいだったろうか。
「・・・出来るわけ・・・ないだろ・・・」
あの頃に戻るワケにはいかない。
リストカットがリストカットを呼ぶ。
感情のままに切った傷が新しくまた血を流す。
怒りの感情は負の感情。
だから他人に向けてはいけない。
そう思ってきた。・・・思わせてきた。
『こんなことも出来ないんだ?』
さっきだってそうだった。
ふと吐かれたひとりごとに怒りが沸いた。
他人のことだ。なのに。
どうして僕はこんなに不器用なのか。
自分の怒るべきこと。他人の怒るべきこと。
自分が悩むべきこと。他人の悩むべきこと。
その境界線が分からない。
気がつけば自分だけがぐるぐると空回りしている気がする。
「あーあ、ぐっちゃぐちゃだ・・・」
床に散らばったノートや筆箱やスマホ。
カバンをロッカーから引き抜いて僕は片付けを始めた。
「手伝いましょうか?」
「え?」
右を向くと、緑色のパーカーの彼がいた。
「これって勉強してるの?うわー・・・偉い」
左を向くと心理学のテキストを持った黒いパーカーの彼。
「ちょっ・・・二人共仕事・・・」
「時計見てみ、マコトさん」
かすれた声は赤い服の彼で、僕の後ろに立っていた。
壁にかかった時計は、12:03。
「あ・・・」
「それにしても」
赤い服の袖が視界を横切って穴のあいたノートを取った。
「よく頑張りましたね」
ノートの横でくしゃっと笑った顔。
一筋涙が頬をつたって、僕も不器用に笑った。