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百家争鳴 ―風紀委員を埋めてやる―  作者: 黒十二色
第一章 閉じられた世界、始まりは春夏
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4、閉じられた世界

 さらに、もう一人の風紀委員。人の本性よりも大事な外的規範があると考える荀子ちゃん――性悪説で有名――は、鎖をジャラジャラ言わせながら今にも俺をその『礼の鎖』で縛ろうかといった勢いでもって近付いてきて、


「まさか韓非子ちゃんとあなたで、孔子姉さんを燃やして埋めたんじゃないでしょうね」


「そんなことを言われても、俺は知らないが、その可能性は限りなく低いと思うぞ」


「じゃあ、誰が姉さんを殺したのかしら」


 などと、既に孔子ちゃんが死んだことになってる件について、俺はその考え方が悪だと思うぞ、荀子ちゃん。どっかで美味いメシ食ってるに違いないだろ。


 ちなみに、後で俺が韓非子ちゃんに「何故多くの教科書を燃やしたのか」と訊ねたところ、彼女は以下のようなことを言った。


「こ、孔子ちゃん門下の連中は嘘ばっかの教科書で嘘の歴史を教えたりするクズだからその教科書を燃やしてやったの。ついでに燃えカスを埋めるために掘った穴にあいつらが落ちてくれれば言うことナシだったけど、今回は許してあげようかな」


 何だろうな、韓非子ちゃんが極悪人に思えてきたぞ。


「というか、だいたい、嘘の歴史を教えてただなんて証拠は無いだろう。韓非子ちゃん」


「あ、あいつら絶対やったし。ていうか歴史上で、都合の悪いもの燃やしてない人々が居るとか本気で思ってるの? 捏造合戦と焚書合戦で歴史が成り立ってるんだよ。嘘も吐き通せば事実になっちゃうの。まず権力握ったら過去の偉業は全部自分たちのものにして、過去の自分たちの悪行は全部テキトーな理由とか動機つけて誰かのせいにする。それは有史以来、連綿(れんめん)と続く文化みたいなもんなわけ。私だけが責められるなんてヒドい」


 推測でモノを言いやがって。


「それに私は穴を掘るのが好きなだけで、噂で流れてるように孔子ちゃんや生徒会長さんを殺して埋めたりしてない。そりゃ埋めてやりたいとは思ってるけどさ、私みたいに法をつくる立場の人が法を犯しちゃダメでしょ。そこらへんの節度は守ってるつもり。まったく、疑わしい場所に私が立ってるからって、私が何かしたとは限らないでしょ。そんなの当たり前のことじゃないの」


 確かにそうかもだが、やっぱり韓非子ちゃんは悪い子だと思う俺だった。教科書全部燃やすなどという行為に及んでおいて、どこが節度を守っているのかと言いたい。やることなすこと極端すぎる。


 さて、この教科書焼却事件アンド孔子ちゃん殺害容疑事件を契機として、韓非子ちゃんは極悪なことに軍事力向上のために目指していた全校生徒奴隷化計画を発動させようとした。何故軍事力を高める必要があったのかと言えば、おそらく追放した教師陣や生徒会の人々が学園奪還のために攻めて来ることを恐れたのだろう。だが、孟子ちゃんと荀子ちゃんコンビの激しい反発によりひとまず保留し現状維持でにらみ合いすることになった。


 それから、一般生徒たちの中には各々自由に行動を開始しようと考えた連中も居た。勉強したい者は他の学校に行くなり、放浪の旅に出たいものは寝袋持って出て行くなりしようと考え、高校の外へ脱出する準備を進めていたのだ。しかしそれは考えるだけに終わった。


 鎖使いの荀子ちゃんが外への流出を止めたのだ。


「まともな教育を受けていないノラ高校生を門の外に出すわけにはいかない。人はそれなりの教育を施さねば悪であるから、悪を野に放つわけにはいかない。わたしが教育してやる」


 そして敷地の境界に荀子ちゃん直属の屈強な戦闘員を置いた上に外界と高校とを完全に隔離(かくり)した。高電圧が流れる有刺鉄線を設置し、門は鎖でギチギチに閉じられ出入りができなくなった。まるで刑務所のようであるが、こうして高等学校という名の閉じられた世界が生まれた。


 まるで蟲毒(こどく)のように、狭い狭い小世界の中で群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)となったわけである。



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