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百家争鳴 ―風紀委員を埋めてやる―  作者: 黒十二色
第四章 戦国の秋、後編
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12、老子ちゃんVS孔子ちゃんⅠ

 ともかく、こうして孔子ちゃん――というか孔子ちゃんの操るカメ――の圧倒的な強さを前に墨子ちゃんと荘子ちゃんの二人がやられ、互いに最後の一人を残すのみとなった。


 孔子ちゃんに対する俺たちの最後の砦。それは……老子ちゃん。


 この高校の未来は、老子ちゃんの双肩にかかっている!


 だけどなぁ、この上なく頼りないと感じるのは俺だけだろうか。


 老子ちゃんの方を見ると、牛の背の上に大の字を描くという器用な寝姿を披露していた。


 この期に及んで、まだ眠りの世界に居るとは、どんだけ大物なんだ。


 ぬかりない孔子ちゃんは寝首をかこうと、猛スピードで校庭を駆けていく。


 しかしながら、老子ちゃん――というか老子ちゃんを乗せている牛さん――は生命の危機を感じたのか、老子ちゃんに話しかけるようにモーモー叫びながらパワフルな野生の走りを見せてカメのメカから遠ざかった。


 雄牛が逃げ、カメが追いかける。


 動物と機械の競争。必死の形相で曲線的に逃げる牛と、ブサイクな無表情で直線的に追うカメ。双方とも素早い動きで逃げていて、カメは時折右前足からファイヤを放ちながら追いかけ、丸焼きになりたくない牛は尋常ではない動きで回避していた。


 やがて牛は、意を決して体当たりを仕掛けた。


 しかしカメは微動だにせず、金属の装甲に少しの傷をつけただけで、ヘコみすらしなかった。


 自らの攻撃がまったく通用しなかったことに焦った牛は再び逃げようとしたが、カメから放たれたファイヤによって尻が少し焼け、牛さんはお尻に火がついた状態で、


「モォッォォォオゥ!」


 などと叫びながら暴れまわっていた。


 なお、この間、牛が尋常でない暴れ方をしていたのに老子ちゃんは振り落とされず、何で落ちないのか不思議で仕方ない。


 そんな時、俺の隣に居る車椅子の女が変なことを言った。


「すごい、あのカメ。顔はアレだけど私の設計を忠実に再現している。私の用兵哲学をたった一機でこの世に顕現させているのよ!」


 どういうことだ、孫子ちゃん。


「風林火山よ」


 いきなり意味のわからん四字熟語を繰り出してきた。


「はやきこと風の如し。しずかなること林の如し。侵略すること火の如し、動かざること山の如し……ということよ!」


 武田信玄みたいなこと言いおって。


 だが、三十メートルの巨大カメのくせにかなり素早く走るし、右前足が外れて猛烈な炎を出したし、重たくて押しても引いてもビクともしないだろうというのはわかる。だけど、「林のごとくしずか」な要素が一体どこにあるんだとツッコミを入れていいものか。あれか、内燃機関の静音性とかだろうか。


 牛は炎を上げながら暴れ続け、やがて校庭に置かれたプールに飛び込んだ。この時、その巨体で三メートルほどの高さのフェンスを跳躍して飛び越えたわけで、牛にも火事場の馬鹿力というものがあるのだろうか。


 牛と一緒に水に落ちた老子ちゃんは、うっかり着衣水泳したみたいに全身ずぶ濡れで、メロンに載った生ハムみたいな感じでデロンとうつ伏せで牛の上に寝ていたが、体の火事を素早い機転で鎮火した牛がプールから慌ただしくあがった時にようやく目覚め、起き上がると、面倒くさそうに顔面に張り付いていた前髪を整えた。そして、言うのだ。


「なんや、美味そうな匂いするやん。どこで肉が焼けとるん?」


 老子ちゃんの真下だよ。


 可哀想な牛は涙目でプールサイドに座り込み、そのはずみで老子ちゃんが自分の体から降りたことを確認すると、大きな体を横たえてしまった。どうやら、「もう老子ちゃんを乗せたくない」という意思を示しているようだ。


 そりゃそうだな。今のところ老子ちゃんに気に入られて乗っかられた牛は、焼かれて食われたり、火を噴く巨大なカメに追い回されたりしてるからな。いくら分厚い皮膚をもっている牛だって嫌にもなるだろう。


「モウ……」


 もうやだ、とでも言いたげに声を出した牛さんは、やけどした自分の尻を見つめた後、大きな体で寝返りを打って、ゼェゼェと苦しげに息を吐いていた。


 それにしても、牛という生き物、特に雄牛というものは結構凶暴なものだと聞くが、それを完全に飼いならしている老子ちゃんは、実はスゴイのではなかろうか。


 何にしても、俺たちはもう、老子ちゃんに期待するしかないのだ。



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