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百家争鳴 ―風紀委員を埋めてやる―  作者: 黒十二色
第四章 戦国の秋、後編
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2、俺VSコウくん

 開戦の瞬間に、いきなり俺に向かってきたのはシロくんとコウくんの二人であった。最初から孔子ちゃんが出てくるわけではないところに、ナメられていると感じる。


 向かってくる二人は、共に武器を持っておらず、素手での殴り合いが御所望のようだ。


 だがしかし、あいにく拳で語らう趣味は無いので、俺は飛び退いて攻撃を回避した。


 コウくんの荒っぽい拳は、地面に激突し、クレーター状の穴を開け、細かい砂塵が舞う。


 おいおい、ヒラ風紀委員レベルでこれなのかよ。ドーピングでもしてんじゃないのか?


 背後を振り返ると、どうしてか皆遠ざかっていて、この二人は俺に任せるということらしい。


 全身に入墨の墨子ちゃんは、友人の孫子ちゃんを傷つけたのは五人のうち誰だろうかと考え込んでいる様子だったし、韓非子ちゃんは手に汗握って無言で長い前髪の裏から熱視線を送りつつ俺を応援してやがるし、老子ちゃんはどっからか持ち込んだ牛の上に寝転がって目を閉じてやる気ゼロだし、荘子ちゃんに至っては秋だというのに蝶々を追いかけてやがる。


 あらためて思う。何だこの破綻者の集団は。


 マトモなヤツが少なすぎるぞ。


 しかし、目の前のコウくんとシロくんが居る方に向き直ったとき、その背後で繰り広げられている光景を目の当たりにして、俺は目を丸くした。


 何と、白いテーブルクロスが掛かった机があって、その席に就いた孔子ちゃんがそよ風に吹かれながらメシを食おうとしているじゃないか。さすがに余裕見せすぎだろ。ていうかメシくらい事前に食って来いよ!


「荀子ちゃん、これは何?」


「フィンガーボールというものです、孔子姉さま」


「美味しいお水ね。すこし柑橘系のフレイバーがするわ」


「孔子姉さん、それは西洋で用いられている使う指を洗うための水であり、飲み水ではありません」


「わ、わかっているわよ孟子ちゃん。西洋ではそうかもしれないけど、わが校の伝統ではこのタイプのお椀でお冷を出すものなのよ。よく憶えておきなさい」


「そうなんですか! さすが孔子姉さん!」


 孟子ちゃんと荀子ちゃんは声を揃えてそう言った。


 何をベタなコントをやっているんだ、あいつらは。


 で、孔子ちゃんは煮魚に伸ばした箸をピタッと止めたかと思ったら、こちらに向かって叫んだ。


「シロくん! ちょっと来なさい!」


「え?」


 俺との戦いから離脱して孔子ちゃんの下へと駆け寄ったシロくん。


 なんという緊迫感の無さ。


「何でしょうか、孔子ねえさま」


「この煮魚を見なさい」


「はぁ、勝利の前祝のために出した鯛の煮付けですね。もしや、嫌いな魚でしたか」


「違うわよ。煮崩れしてるじゃないの。こんなものを他人に出すわけ? そんなことして良いと教えた記憶は無いわ!」


「申し訳ありません! 中庭で商売やってた時は苦情なかったんで、調子に乗ってました!」


「まったく、やり直し!」


「はい、すみません孔子ねえさま!」


 中庭のキッチンへと駆けていったようだ。


 どうにも大事な最終決戦だというのに本当に緊張感が皆無なんだが。


 というか、思ったんだけど、煮魚で箸を使うんだったらフィンガーボール必要ないよな。


「こっちもたいがいにおかしい連中ばかりだが、実は孔子ちゃんも変な子なんじゃないのか」


 と、俺が感想を放ったところ、反論があった。


「孔子ねえさんは、天に愛されるべきお方!」


 目の前のコウくんはそう言うが、だったら金品をネコババしてったことに対してどう思う。


「それは孔子ねえさんじゃなくてオレが悪いんすよ」


「なに、どういうことだ」


「あの日、孔子姉さんはオレのところに来たんです。ちょうどその時、オレは地面に落っこちていた金ピカの物体を拾ったところだったんです」


「それで、どうしたんだ」


「オレは孔子ねえさんに言いました。『ここにキレイな宝石があります。大事にしまいこんでおくべきか、それとも良いお客を探して売るべきでしょうか』と。そしたら孔子ねえさんは僅かな逡巡の後にこう言いました。『……売りましょう』と。その時、孔子ねえさんを(いさ)められなかったオレが悪いんです」


 俺は「お前かぁ!」と叫びつつコウくんをぶん殴った。コウくんは「ぐはぁ」と苦しげな声を上げながら地面に転がる。


 コウくんが金品を拾わなければ、孔子ちゃんが居なくなることもなくて、高校が荒れることもなかっただろう。そして、大事にしまいこむか売るかしか提案しておらず、本来ならその場合は本当の持ち主を探すのが風紀委員としてのスジってもんだろうが。


 そしてコウくんも悪いが、孔子ちゃんも孔子ちゃんだ!


 コウくんは立ち上がり、口から出た血を手の甲で拭いながら話を続ける。


「いいえ、孔子姉さんは悪くないんす。きっと、持ち逃げしたのは、オレに対する罰なんすよ。オレのせいで学園が荒れていくさまを見せることで、オレに苦しみという名の罰を与えようとしてくれた。オレを一回り大きくさせようとしてくれたんすよ、孔子姉さんは!」


「それはお前の勘違いだ!」


「オレは、荒れた学園で、何をすることもできなかった。全ての人々に施しを与えて、多くの人に手を差し伸べることが『仁』だと思ってやろうとした。人の嫌がることは、相手にやらないようにしたかった。でも、できなかった。それどころか、オレは、私欲に負けた!」


「欲に負けたって何だ。どういうことだ」


「オレは賊になり下がり、荀子ちゃんと孟子ちゃんから食糧を奪った奴らに、手を貸してたんす! 食糧をもらうことを見返りに風紀委員の久々の軍事作戦、賊掃討作戦の情報を提供したんすよ!」


「お前が戦乱の引き金かぁ!」


 叫びながら、コウくんを右の拳で殴り飛ばした。コウくんは「けふぅ」と声を上げながら転がり、ガクリと膝をついた。


 こうして俺とコウくんの間の大勢が決した時、墨子姐さんが歩み寄ってきたのだが、墨子ちゃんは俺を祝福するでもなく横を通り過ぎると、膝をついてうずくまるコウくんを彼の胸倉を掴みながら力ずくで起こしつつ、


「おい、孫子ちゃんをやったのはどこのどいつだ。お前じゃないだろうな」


 と言って、白状させようとした。


 怯えるコウくんは汗をダラッダラ流しながら、目を逸らし、


「し、知らない。知らないっす、そんなの」


 墨子ちゃんはコウくんを今にも殺しそうな目つきで思い切りにらみつけたが、どうやら本当に知らないようだった。


 そして、怯えつつ諸手を挙げて「参りました」と降参を宣言したコウくんは、ルール上、二度と戦闘に参加できないので、これで相手が一人減り、五人対四人になった。ちなみに、一人ずつ戦わなくてはならないなどというルールは無いので、複数で一人を囲むということも可能である。


 事前の作戦会議においても、孫子ちゃんは各個撃破が望ましいと言っていた。


 ともあれ、まずは俺が、幸先よく一人を撃破することに成功したのだった。



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