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百家争鳴 ―風紀委員を埋めてやる―  作者: 黒十二色
第三章 戦国の秋、前編
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6、孫子ちゃんの過去Ⅲ

 犯した記憶の無い罪を償ってシャバに出て来た私が履き心地の悪い義足を脱ぎ捨てて車椅子で教室に行くと、知ってる人は誰も居なかった。


 思いっきり留年してたから。


 それでも足が無い不自由さのおかげで誰かに頼らざるをえなくて、車椅子で転んじゃったりして、階段の昇降ができなかったりして、そういう時に見かねて助けてくれる人がいて、友達が少しだけできた。


 大怪我をして初めて、やっと他人ってものの大切さを知ることができたんだけどね、彼のことと、ほーけんちゃんのことは、何となく誰にも聞くことができなかった。やっぱり、こわかったんだと思うよ。


 私が勇気を出せたわけじゃなかったけれど、病院に運ばれた後のことを教えてくれたのは保健室の先生だった。私の教室に来てくれて、話があるからと保健室に連れて行かれた。


 保健室に、彼は居なかった。ううん、保健室どころか、この世に彼は居なかった。


 私が画鋲の毒にやられて入院していた間に、容態が急激に悪化してね、苦しみながら、ね。


 心臓の悪い彼に激しいストレスを与えてしまった私も悪いんだと思ったわ。ほーけんちゃんが最悪なのは、もちろんだけどね。


 何だかそんな気はしてたから、涙は出なかった。悲しいっていうよりも、嘘みたいっていうか、この目で見たわけじゃないから信じられなくて。


 それで、彼が帰らぬ人になっちゃったっていう話を聞かせてくれた後、当時まだこの部屋に存在していた保健の先生がね、一枚の良質の紙束を渡してきたの。


 これは何、って私が聞くと、先生は、「自分が死んだら、これを孫子ちゃんに渡して欲しい」と言って彼に渡されたんだって言ったわ。


 遺言かと思って中身を見たけど、違った。


 それは、悲しいことに希望に満ち溢れたものだった。


 私が足を切断されたことを聞いたんだろうね。悪い風紀委員たちに奪われちゃった私の大事な大事な義足の、設計図だったよ。最後の紙の下部には、短いメッセージも添えられていて、


『ごめん。僕は孫子ちゃんが好きだったんだ。この間のことは僕の誤解だった。本当にごめん。退院したら一緒にこれを作ろう』


 とかって。もうね、泣きながら組み立てたよ。この保健室でね。


 ほーけんちゃんについては、その新しくできたピカピカの義足で、遠出して墓を蹴飛ばしに行ったよ。もうね、木っ端微塵に破壊してやったわ。


 いくら彼のことが好きで私に嫉妬してたからといっても、やっていいことと悪いことがあるし、彼女が私にしたことは到底許せることじゃないから。また牢屋行きになってでもって思って、そうしてやった。その行為で誰から憎まれることになっても、やるしかなかった。


 どうしても憎かった。殴り殺してやりたいのに、どうして既に死んでいるのかって思って、何度も地面を殴ったわ。


 涙を流しながら、恥とかそんなのどうでもいいような、すごくみっともない顔してたと思う。


 自分も二人の後を追いたいって気持ちも、よぎらなかったわけではないけどね、そうしてしまうことこそ、二人を殺してしまうってことなんじゃないかとも思ってね。


 だから私は二人の魂と共に、二人の分まで生きようと思ったのよ。お墓破壊したのは、普通だったら絶対ダメだし大いに反省すべきことだけど、やられた分はやり返さないとね。亡くなったからって、私から逃げられると思ったら、大間違いよ。


 親友と好きな人を、普通じゃない形で同時に失ってしまったという、あまりにも過酷な長い話を終えて、しばらく沈黙が保健室を支配したが、孫子ちゃんはおもむろに顔を上げると、俺の目を見た。そして、とても悲しそうな顔で言うのだ。


「だからね、奪われてしまったあの義足はね、彼が設計してくれた高性能義足なの。改造しまくってもとの形からちょっと変わっちゃったりしてるけどね。あの義足によって、彼は私の一部になってるの。彼が私を歩かせてくれるの。走らせてくれるの。今まで、彼と一緒に戦ってきたの。ついでだけど、ほーけんちゃんも一緒に。それを、私の油断で――」


  ★


 そこで俺は今にも泣き出しそうな彼女の言葉を遮って、こう言った。


「だったら、絶対に取り返さないとな」


 努めて力強い声で。


 彼女はそこに無い自分の足に視線を落とした後、こくりと深く頷いた。



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