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百家争鳴 ―風紀委員を埋めてやる―  作者: 黒十二色
第三章 戦国の秋、前編
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2、孫子ちゃんへの攻撃Ⅰ

 さらに、孔子ちゃんたちが次に落とそうとしたのが、学園最強の矛、孫子ちゃんである。


 体育館での朝会で、荀子ちゃんが一人の男子生徒を壇上で数学教師が黒板で使うでっかい定規を用いて百叩きにした。孔子ちゃんがやらせたのだという。


 響くベチベチという打撃音と、苦しげなうめき声や悲鳴。何度も発せられる謝罪の声。風紀違反の見せしめとして、遅刻者をぶっ叩いたようなのだが、ひどい体罰であった。


 そして、孔子ちゃんがマイクを使って、体育館中に響き渡るように言うのだ。


「これは孫子ちゃんの本に書いてあった方法よ」


 こんなに野蛮なのよ、とでも言うように。


 明らかな挑発である。確かに孫子ちゃんは軍紀を保つためには、時にはそういうことが必要だと言った。しかし、それはあくまで『軍紀』であって『風紀』ではない。こんなのは恐怖政治ではないか。


 孫子ちゃんの書いた兵法書から真似をしたのなら、校舎内で暮らす人々を全て軍隊と見なして良いってことだろうか。そう解釈するヤツだって居るだろ。それで少々血の気の多い連中が校舎内の連中を片っ端から無差別に狩ったら責任取れるのだろうか。


 ただ、もしもこの行為に暴力でもって応えた場合、孔子ちゃんたちは責任を取るどころか、校舎外の人々を根絶やしにする口実に結びつけるだろう。そういった方向に誘導する作戦なのかもしれない。


 なおも孔子ちゃんは孫子ちゃんを貶めるのをやめない。


「それに、実は孫子ちゃんは犯罪者なのよ。額に変な印があるけどね、あれは昔、重大な悪いことした子の額に犯罪者の印をつけて悪い子とわかるようにしたんだけど、それを隠すためにオリジナルのオシャレな印を刻んで偽装しているのよ。つまり、過去の罪を隠して皆をだまして戦わせていた悪者なの」


 牢屋に入っていたのは事実だから、悪い子の烙印を押されたのは本当のことだろう。詳しくは孫子ちゃんに聞かないとわからないけれど、墨子ちゃんの話では、友人の裏切りによる冤罪だという話だし、墨子ちゃんが嘘を言うとも思えず、その事件を当時の風紀委員長である孔子ちゃんが知らないわけがない。よってこれは明らかに孔子ちゃんがケンカを売って来ているということである。


 さらに孔子ちゃんの挑発は止まず、朝礼の終盤で韓非子ちゃんの更迭を全校生徒に向けて正式に告げる場面では、厳しい夏の間ずっと職員室を不法占拠して冷房を浴びていたこと、食糧を大量に掠め取ったこと、老荘コンビのための陰謀の第二次焚書など、次々と暴露されてしまった。


 全部事実なので反論の余地など皆無。


 孔子ちゃんの風紀委員としての求心力も手伝って、俺たちの校舎内での立場は失われてしまったと考えた方が良いだろう。


 あらためて思い返してみると、大半が、民衆の支持を得られようもない行動だったからな……。


 不幸中の幸いなのは、立場を失ったのは校舎内のみの話であって、孔子ちゃんらに対して盲目的に反発する校庭の人々との関係が悪化することはないことだ。孔子ちゃんらが俺らをいくら悪者にしようしても、信じないからだ。


 むしろ、孔子ちゃんに責められていれば、かえって仲間意識が芽生えたりもする。「孔子ちゃんが敵とみなしているってことは自分らの味方だ」っていう方程式が頭の中で展開するわけだ。


 それとは反対に、校舎内の連中。体育館に集まっていた人々は、孔子ちゃんたちが大好きなもんだから、


「法を重視する一派は、嘘ついて俺たちを騙してたんだ」

 だとか、


「許せねぇ……」

 だとか言ってざわついていた。


 俺は大急ぎで我らが韓非子ちゃんの拠点である職員室へと急ぎ、軍師である孫子ちゃんに意見を仰いだ。


「どうすればいいんだ、孫子ちゃん」


「挑発なのは明らか。でも、相手の戦力が計り切れない以上、まだ戦うべきではないよ。それに、戦は物事を解決する一つの手段に過ぎないよ。だから、戦をせずに物事を解決できれば本当はそっちの方が良いよ」


「だが……こうなってしまった以上、もう職員室からは引っ越さないとな」


「そうだね。校庭に私の天幕があるから、そこを拠点にした方がいいね」


 というわけで、俺たちは引越すことにした。韓非子ちゃんは法整備のために集めた膨大な資料を残していくのを嫌がって、服の裾をギュッと掴んできたが、「誰にも見つからんように埋めとけばいいだろ」と言ったら納得した。


 そうして散らかった孫子ちゃんの天幕内部を整理整頓して共同スペースを作り上げ、校庭に引っ越してきた我々であったが、孔子ちゃんは俺たちに休息を与えてなどくれなかった。


 孫子ちゃんが、襲撃されたのだ。



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