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百家争鳴 ―風紀委員を埋めてやる―  作者: 黒十二色
第一章 閉じられた世界、始まりは春夏
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1、教職員および生徒会の学外追放

 教師陣が我が高校を去って、もう何週間になるだろうか。


 一部の過激派生徒の反乱によって教師が一人残らず居なくなった後、しばらくは生徒会が高校を治めていたのだが、その生徒会もつい最近になって全員何処かへと去ってしまった。韓非子(かんぴし)ちゃんという女の子が菩提樹を切り倒した、ある春の日のことだった。


 そう、約半年前の春にはもう戦争への流れが生まれていたのである。


 俺が彼女に、「どうして生徒会長の釈迦(しゃか)さんが大事にしている菩提樹を燃やしたのか」と訊ねたところ彼女は顔にかかっていた前髪をかき上げて普通にしてれば可愛い顔を見せつつ、どもりながらこう言った。


「だ、だ、だって、古いんだもん。考え方」


 だからといって、追放することはないだろう。


「あ、あっちが悪いんだよ。この私に対して『修行が足りない』みたいな感じのこと言ってきて。だから私は超怒って後で手紙を送ってやったの。『生徒会長こそ、もっと外の世界を知るべき。ここ以外の学校では校則という名の法律が出来上がってる。うちの高校は時代遅れ。埋めるよ』って感じに正論で。そしたら本当に私の言うとおりに勝手に学校出てどっか行っちゃったから、見せしめに菩提樹を切り倒して燃やして埋めて、他の生徒会メンバーにも宝刀スコップ取り出して『あんたらも埋めてやる!』って心の中で叫んでにらみつけたら、みんなビビっちゃって門の外に逃げてったんだよ」


 どもりながら早口で弁解していたが、どうも韓非子ちゃんの方が圧倒的に悪い気がする。いつも緑の葉を元気に茂らせていた菩提樹を燃やす必要がどこにあったのか知りたい。たぶん、どうせちょっとキレちゃって、無言で燃やして埋めたくなったからなんだろうけど。


「だが、何でも燃やしたり埋めたりする衝動は完璧にコントロールできるようにならないと、重大な犯罪者になってしまうぞ。韓非子ちゃんみたいなヤバイ子が居ると知ったら、賢い人は皆、高校の外に逃げてくんじゃないか」


「あ、あなたなら、わかってくれると思ったのに」


「いや、無理を言わないで欲しい」


「私のこと一番わかってくれてるの、あなただもの」


「韓非子ちゃんって、友達いないんだな」


「あんたも埋めてやる!」


 とまぁ、幼馴染というだけあって、こんな会話を交わせるくらいに俺と韓非子ちゃんはそこそこ仲が良いのだが、正直に言えば少し、いやすごくおかしな子なのであまり深く関わりたくないと思ってる。


 見た目が可愛いためか、あるいは人前でほとんど喋らないためなのか、責任が全て俺に向くことが何度もあったからだ。俺は韓非子ちゃんの保護者じゃないのにな。


 口下手で照れ屋で可愛らしい顔した恥ずかしがり屋さんだと見せかけてキレると鋭利なスコップをチラつかせて「埋めてやる」と(おど)す破綻者であり、その上すぐキレる危険人物であり、何故俺が彼女にまとわりつかれているのか理解に苦しむ。


 それから、韓非子ちゃんの卑怯なところは、俺の前でだけ饒舌(じょうぜつ)で、他の人の前に立つと途端に無口になるところであり、恥ずかしがり屋なようで、喋ろうとすると大抵どもる。そのくせ小学校時代から寡黙なくせにキレやすい難儀な韓非子ちゃんは数十回ほど様々な事件に関わり、その度、何故か俺が周囲の人々に説明と弁護と場合によっては謝罪をさせられた挙句、責任を取らされたりしていたのだった。


 けれども、さすがにこの時は関わりたくなかった。よりによって生徒会の面々を追放するなど……。


 さて、生徒会長という当時の学園トップを追放したのが自分の知り合いのアレな子だったことを知り、何となく慄いている自分が居たのだが、危惧していた通りに高校は混乱に落とし込まれた。


 教師陣は既に誰も居らず、それまでタクトを振っていた生徒会長の代わりに風紀委員が我が高校をまとめることになり、無口なくせに風紀委員四天王の一角を占める韓非子ちゃんもその高校運営に携わることになったのだけれど、いきなり暗礁(あんしょう)に乗り上げた。


 というのも、風紀委員会において内部分裂があったためである。


 我が高校の風紀委員というのは、孔子(こうし)ちゃん、孟子(もうし)ちゃん、荀子(じゅんし)ちゃん、韓非子ちゃんの四天王を中心に構成されており、その四人の他には、この俺が韓非子ちゃんの通訳――時々代理人になったりもする――というポジションで存在していたり、それぞれに部下が数人居たりするくらいだった。


 四天王は孔子ちゃんを頂点としてまとまっていたのだが、その最高級に優秀な孔子ちゃんが行方不明になったことで急激に崩壊が始まり、戦乱への前奏が始まってしまった。


 孔子ちゃんは、部下の一人に向けて、「他校のキングとお話してくる」と言い残して去っていったらしいのだが、その際に金色の物体を抱えていたという。おそらく、金持ち貴族のフリをした庶民である孔子ちゃんが高校内で「金色に輝く高価で希少な物体」を偶然拾い、風紀委員という身分でありながら、その金目のものをネコババして逃亡したというのが真相だろう。


 庶民のくせにドが付きそうなくらいに美食家の孔子ちゃんの考えそうなことを想像すれば、


「他校のキングとの会議という名目で美食の旅に出よう」


 といったところか。もちろん、アリバイ作りで他校のキングとの折衝もしてくるのだろうが、金とメシに目がくらんで国内政治を放り出すとは聖人君子を目指していると公言している身としてどうなのかって感じだ。


 でもまぁ、孔子ちゃんも人間だったと、そういうことにしておこう。


 とはいえ、孔子ちゃんの部下の一人による「金目のものを持っていた」のが真実であるという証明は目撃証言だけでは不可能であるし、何か本当に他校と緊急に話し合いをせねばならない重要な案件が存在したのかもしれない。


 孔子ちゃんの部下のほとんどは「孔子姉さんが、そんな不真面目なはずがない」と言って帰りを待ちわびている。しかし、韓非子ちゃんはその様子を見て、「信じたいものを信じてるだけじゃ、それって都合のいいクソ宗教じゃん。まじ害虫だよね、あいつら」とか「聖人やら、君子やらを目指すなんて時間の無駄だし時代遅れだし現実見えてないゴミムシだし」などと俺に陰口してくるのだが、その度、孔子ちゃんを崇拝している地獄耳の孟子ちゃんあたりが何故か俺に向かって、めんちをきってくるので困ったものである。



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