ぱんぷきんぱにっく
※オチにほんのり、ボーイズラブを含みますが、内容はボーイズラブではありません。
乙女ゲームに【ぱんぷきんぱにっく】というものがある。
主人公の女の子が、ハロウィンの日にうっかり魔界に迷い込み、多種多様な種族の男どもに言い寄られるという、なんだかありがちのような、期間限定だろと言いたくなるようなゲームだ。
ゲーム攻略対象は、まあ、魔界なだけあって、狼男に吸血鬼、フランケンにゾンビにランタンなどと、いわゆる魔物である。もちろん、ホラーゲームではなく乙女ゲームなので、イラストは可愛らしかったりする。
うん。私もドロドロゾンビと恋愛とか勘弁なので、擬人化といっていいのかわからないが、補正されているのは正直ありがたい。でもそれは2次元だからできること。
現実は――。
「ぎゃぁぁぁっ!!」
あー。今日も乙女ゲームの主人公が悲鳴を上げて逃げ出す……。私は全く進んでいかないゲームに眉間に皺を寄せながら、その光景を見守った。
でもそうなるよね。
私はツカツカツカと狼男に近づくと、スパンとハリセンでその頭を叩いた。
「いったぁ。何するんっすか!」
「何するじゃないわ。なんで女の子へのプレゼントが、人骨なわけ?出直せ、バカ犬!!」
「人骨じゃないっすよー。これは、その形をした飴で、おやつっす」
おやつじゃねーよ。マジで何考えているわけ?!
怒りが頂点に達して、私は言葉にならず、わなわなと震えるしかない。どうして人間の女の子にあげるプレゼントが頭蓋骨型の飴なわけ?しかもスケールは1/1。とてもリアルで、私だって触りたくない。
「本当にどうしようもないバカ犬ですね」
「お前もだよ」
「どうしてです?僕はバラですよ」
どうしてだと?
私は本気でわからないと顔に書いてある吸血鬼を睨みつけた。
「プレゼントは悪くないが、出会ってすぐにベッドにさそう馬鹿がどこにいる。ここに迷い込んだ女の子は繊細で大人しい子だと私は言ったよな」
コイツのセリフは、シャルウィーダンスではなく、シャルウィーベッドだ。マジ死ね、卑猥男め。
「それから、そこのゾンビ。嫌われないように防虫剤持っていけって言っただろうが。女の子は虫が嫌いなんだよ。それと内臓吐くな。胃薬飲め。それから、フランケンはいい加減話しかけろ。草食男子にも程があるわ。ランタンは少しはやる気を出して!ねえ。本当に、お願い。マジで!」
私は若干半泣きで、叫んだ。注意をする度に、どんどん泣きたい気分になる。
「えー、いいじゃん。ずっと魔王様もここにいれば」
「嫌に決まってるだろ!」
ケラケラ笑うランタンの頭を叩こうとハリセンを振り回すが、見事にスカる。こいつはひょいひょい飛んだりできるから厄介なのだ。本来のハロウィンだったら、ただのかぼちゃのタンランを持っただけの亡霊のくせに。
実は先日、私はこの世界に召喚された。
自分で言っておいて頭大丈夫かと思うが、正しく状況はそれだ。
そして私を召喚した世界では、毎年迷いこんだ人間の女の子を上手く口説いて、お菓子をもらわなければならないという習慣があるらしい。それも貰うお菓子は愛がこもっていなければならないという、うっすら寒い条件付きだ。
別に私的には、愛が詰まっていようが、呪いが詰まっていようがどうでもいい。好きにしてくれというものだ。しかしその習慣に問題が発生したそうで、急遽私が召喚されたのだ。
彼ら曰く、女の子が逃げていくと。
最初聞いた時はポカーンとした。意味がわからなさすぎて。
もう一度聞いた時は、眉間に皺が寄った。彼らの行動が意味が分からなさすぎて。
そして更にもう一度説明を聞いた時、私はブチ切れた。なんと女の子が彼らの為にお菓子を作るまで、私も現実世界に帰れないらしい。そして私は、彼らが攻略されるのか彼女が攻略するのかよく分からないが、このミッションをクリアさせるためのお助け人員として召喚されたらしいのだ。一応彼らも召喚した手前、私の人権は考えてくれるようで、魔王という立場をくれたが……。
うん。そんなもん要らないから、マジで家に返せこのやろうである。
「いいかお前ら、ここに迷いこんできた女の子は、ごく普通の人間の女の子だ。ちなみに私がその子と話した限り、少し奥手で大人しく、少女漫画や小説が好きな子だと判明した!」
「あの……それだけ仲がよければ、むしろ魔王様が口説けば解決ではないでしょうか?」
「馬鹿もの!私は女だ。人間は同性同士というのはタブーなんだよ、覚えときな」
ゾンビにピシッとハリセンを向けて私は人間の常識という物を教え込む。
それに確かあのゲームは、魔王は攻略対象ではなく、今の私と同じお助けマン的立場だったはず。ゲームでの魔王は、主人公に部下の居場所を教える役目だった。……今思うと、何てフレンドリーな魔王だろう。王様のくせに、実に王様らしくない。
「いいか、よく聞け。お前らの見た目は悪くない。人間だったら、アイドルクラスだ」
狼男はワイルド系、吸血鬼は王子様系、フランケンは硬派、ゾンビは病弱系、ランタンは小悪魔系と言ったところか。何かゾンビがちょっとおかしな気がするが、美人薄命という分類なのでOKである。
「なのに、この散々な状況。これは、自分の持ち味を出しきれていないからだ!」
「魔王様、今日も熱いねぇ」
「熱くて悪いか。私は帰りたいんだ。特にランタン。お前、脅かしてばっかで、彼女を楽しませようって気がないだろ。それは小悪魔系じゃなくて、ただの悪魔だ」
「だって、俺、悪魔だもん」
そう言って、ランタンは唇を尖らせると、くるくると空中を回転した。
「だもんじゃないわ!この馬鹿ちんが!お前がそんなんだから、私みたいな犠牲者が出るんだろう」
歴代魔王様方は、どれだけ忍耐強かったのか。
……この国で骨を埋めた人もいると聞くので、本気でご愁傷様と言ってあげたい。このままでは私も高血圧で倒れて、この国で骨をうずめる事になる。……って、そんなの絶対嫌だ。
「とにかく、私は早く帰って新刊が読みたいんだ。きっと今回の女の子も同じ気持ちのはずだ」
新刊買ってウハウハして部屋に荷物を置いた瞬間の召喚だった。嫌がらせとしか思えない。
「とにかく、今回こそ、愛しの君のハートを射止めてもらう。あの手の女の子は、優しくしされたり、突然異性にプレゼントを貰ったり、ギャップ萌を見せられる事に弱いはず。とにかく外見だけはイケメンだから、恋愛感情ではなくても、好意は抱いてくれるはずだ」
「魔王、俺今悲鳴あげられたんっすけど」
「その失敗理由はさっき説明した。はい、次に質問ある奴は?」
ここに来てから、私の口調はかなり雑になり、きつくなったように思う。でもこんな場所に突然頬り込まれて、半監禁状態で人の恋愛何とかしろとか言われたらやさぐれたくもなる。
「はい」
「なんだフランケン」
「話すきっかけがない。後、俺、怖がられる」
そう言うフランケンの身長は、とても高い。その上、顔に傷があるので、この中では一番凶悪な面構えだ。ただし見た目だけで、たぶん一番優しいのもこの青年。うーん。流石に、馬鹿犬ほど簡単に切り捨てる事ができない。
「えっと……笑えばいいと思うよ」
「うっす」
素直に頷いたフランケンは笑ったが、何と言うか二コリではなく、ニヤリという効果音が似合いそうな笑いだ。何か悪い事を企んでそうにも見える。
あー……。よし。人それぞれ趣味があるし、これはこれで良しとしよう。
「あははは。フランケン、それ超、こわーい!完璧悪人面だって」
「……うっす」
しかしランタンが空気を読まずに、腹を抱えて笑った事により、フランケンは背中をシュンと丸めた。私もあえて指摘しなかったのに。この馬鹿っ!
「ば、馬鹿!世の中には、ギャップ萌というものがあってだな。こんなフランケンが、実は心やさしくて、動物大好きだったら、女の子はいちころだ。例えば……そうだ!女の子をいきなり助けるのは荷が重いなら、同僚の手伝いをしている姿を目撃させるというのもいいな」
ただしギャップ萌は2次元に限るという注釈はつくけれど。
でもこの世界はたぶん2次元。いける、いける!問題ない!
「魔王様……それは、フランケンが怖いと言っているのと同義ではないかと……」
「さあ、他に質問ある奴は?」
ゾンビに間違いない言葉を言われたが、無視する事にした。だって、気にしたら始まらない。ごめん、フランケン。私はフランケンの事、好きだぞ。
「はい。ギャップ萌というものが流行っているなら、僕の場合はどうなるのかな?」
王子様系、歩く卑猥様の言葉に、私はしばし考えた。
結構強気だし、弱気な所を見せるとか?実は過去に、こんな可哀想なエピソードがあるとか……いや、コイツにはなさそうだな。
うーん。
「はいはい!俺は?」
……馬鹿犬は、そのお馬鹿なところを売りでいいかもしれない。人骨キャンディなんて、とんでもない物をプレゼントしようとするぐらいお馬鹿ちんだが、馬鹿な子ほどかわいいともいう。この場合は、私から女の子にフォローを入れるのが一番だろう。
「狼男は、そのままで。下手にキャラいじりはしない方がいい。吸血鬼は押せ押せだから、たまには引いて見るのも手だな。後、女の子の前で狼男と喧嘩するな。怖がるから」
魔族の喧嘩は不良の殴り合いよりえげつない。血が飛び散るどころか、内臓もぶちまける。これを戦争や暴力的な事件を体験した事がない女の子に慣れろというのは、可哀想というものだ。
というか、私も同じ立場なんだけどね。悲鳴を上げずハリセンで喧嘩両成敗できるぐらいに強くなってしまった自分が、慣れ過ぎていて泣けてくる。うん。早く普通の女の子に戻ろう。
「はい」
「何、ゾンビ」
「一応、ここは私も聞いておくべきかと思いまして」
いや、別に右ならえしなくてもいいんだけどね。
でも折角たずねてくれたならば答えるしかないだろう。
「……病弱……虚弱……えっと、じゃあ、腹黒でもやってみる?」
「はあ。腹黒ですか」
ランタンが、ゲラゲラ笑ったが、無視だ。無視。だって、病弱だけど明るいではただの健気何だもの。ある意味いいかもしれないが、この濃い面々の中では目立たない。
「魔王様、アンタ何目指してるわけ?」
「んなもん、ミッションコンプリートに決まってるだろ!さあ、お前ら!今度こそ、女の子の心を射止めてこい!」
私は魔王らしく、魔物達に命令をした。
◇◆◇◆◇◆
「魔王さま……あの……」
数日後、女の子が顔を赤らめながら私に話しかけてきた。
こ、これは。このイベントは?!き、キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
あまりに嬉しくて、脳内に某掲示板で良く使われる顔文字が思い浮かぶ。
誰だ。誰が、彼女の心を射止めたんだ。ワクワクが止まらない。
「どうした?」
それでもいきなり根掘り葉掘り聞くのは悪いと思い、ぐっと私は我慢して声をかけた。
「私は君の味方だから。何でも言って」
一応魔王は、この世界に女の子がまぎれこんでしまった原因で、その為女の子の為に心を砕いているという設定がある。いや、本当は全然、関係ないんだけどね。でも私の現状を語るのもはばかられるし、ましてや自分の都合で勝手に恋路の応援をしていると言うのもアレなので、魔物たちが勝手に作った設定のままできている。
少し迷ったようだが、意を決したように女の子は顔を上げた。
「魔王様!あの、是非、狼男さんと吸血鬼さんが一緒にのっている絵を下さい」
「……へ?」
1人じゃなくて2人?まさかの二股?
えーっと、いいのかな?うーん。どうなんだ?
想定外の申し出にキョトンとしていると、さらに女の子は言葉を続けた。
「もしくは、フランケンさんとゾンビさんが一緒にのっている絵でもいいです」
「は?」
「狼男さんと吸血鬼さんの仲が悪いようで、実は深い所で繋がっている2人に萌えました」
女の子の顔は赤い。でもそれは恥ずかしくてではなくて、興奮してでだ。鼻息が荒く、目がランランとしている。
「それに、ゾンビさんが実は攻!強面のフランケンさんが受け!コレは譲れません!」
「あ、うん」
譲らなくていいです。
というか、同じオタク仲間だとは思ったけど、そう言う方面の方だったんですね。婦女子ではなく腐っている方だったとは。……あれれ。どうしようか。
これも所謂愛だろうか。
いや、でも。ぜったい路線を間違えたような。
とりあえず、望まれるままに女の子に絵を渡してから私は頭を抱えた。どうしよう。こういう愛でお菓子を貰ったとして、それでもミッションコンプリートになるのだろうか。
そんな私の頭上でヒ―ヒーと腹を抱えながら、ランタンが笑う。腹が立って、私はキッとランタンを睨んだ。この悪魔め。
「お前も、ちゃんと口説け馬鹿っ!」
「俺はちゃんと口説いてますよー」
何が口説いてるだ。女の子を虐めてばかりじゃないか。
「俺の愛が分からないって、本当に鈍いよなぁ」
「お前の愛がゆがみ過ぎてるからだろ」
私はいつになったら帰れるのか。
今日も魔物を集めて緊急会議が必要なようだ。
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色々ご質問をもらったので、その返答をあとがきに記載させていただきます。たぶん他の方も疑問に思われているかと思いますので。
【質問1】
攻略キャラとくっついた女の子はどうなるのでしょうか?
【答え1】
一応、乙女ゲームを想像して書いていますので、ノーマルエンド(別名バッドエンド)を迎え、友情を育みお菓子を作れば、元の世界に戻ります。恋愛エンドを迎えれば、ぱんぷきんぱにっくの世界に残ります。
【質問2】
もしかしたら、歴代魔王の方が ぱんぷきんぱにっくの世界で生涯をとじたのって、攻略キャラと一生を添い遂げたからだったりしますか?
【答え2】
歴代魔王様が、あの世界で生涯を閉じたのは、一生を添い遂げたパターンと、マジで帰れませんでしたパターンの2択あると考えています。状況はどちらもある意味似たようなものなんですけどね。
【質問3】
女の子って一年に一回しかこないんですよね?お菓子を渡せなくて翌年のハロウィンが来てしまった場合、どうなるんですか?
【答え3】
あの世界でどうして女の子からお菓子をもらわなければいけないかという部分になるのですが、女の子から愛のこもったお菓子(実は心がこもっていれば問題ないのですが)をもらえないと、春が来ないという設定となっています。
なので季節が廻らないので、いつまでも次の年にならないという事で、翌年のハロウィンが来ないのです。
簡単にいえば恋愛が実れば春になるという寒々しい設定です(笑)
ちなみに、女の子が見事ぱんぷきんぱにっくに残る事を決意した暁には、その子がお菓子を作り続ける限り、季節がめぐります。そしてその子が天命を全うした後は、新しい女の子が迷い込むという仕組みです。
そして季節が廻らずとも、時は進むので、女の子や魔王は普通に成長し、やがて老化していきます。
【質問4】
攻略キャラの五人?の魔物(っていうかお化け)と魔王、女の子以外に人(お化けも)はいないのですか?
【答え4】
魔物はいますが、ヒトはいません。
本来、ぱんぷきんぱにっくの世界に迷い込むのはたった1人と決まっています。しかしずっと冬が続く事になると、緊急処置として、もう1人女の子を召喚します。ただしこの子はお助け役とする事と、昔からの言い伝えがあるため、彼らは初めに迷い込んだ女の子からお菓子をもらおうとします。
一応あの5人は、ヒト型に近く、とても優秀な魔物なので、女の子を口説く為に多くの魔物の中から選ばれてた設定です。……その割に、思いっきり、おバカさんな行動をとっていますけど(苦笑)
【質問5】
そもそも舞台はお城だったんですか?ダンジョンだったんですか?
【答え5】
お城です。なので、女の子も魔王様も結構優雅な日常を過ごしています。
【質問6】
お菓子をもらうのは、ひとりだけでもいいのですか?
【答え6】
一人だけでOKです。一応乙女ゲームですので、1攻略1人です(笑)
【質問7】
お菓子をもらえなかった魔物(魔物たち)はどうなるのですか?
【答え7】
特になにもないです。
ただお菓子をもらった魔物は、次の年になるまで、魔王なみに優遇されます。女の子がぱんぷきんぱにっくの世界に残る選択をすると、その間ずっと、魔王のような立ち位置になります。
以上、質問に対する答えでした。
次に書くときは、この辺りがもう少し分かるような書き方を目指しますね。