未知の世界:魔力と魔法と魔族
歓声の嵐が、俺の体に降ってくる。
虐げられ続けた俺の体に、見知らぬ感情が湧いて胸が熱くなる。
「皆様、お静かに願います。最後に我が王、エルダレス四世よりお言葉を賜ります」
そんな鳴り止まない歓声を、風のように清らかな声がぴたりと止めた。俺を包む、歓声の嵐が止む。
「……うむ」
神崎に『アレ』と呼ばれた肥えた男が、玉座から立ち上がる。だがやはり一国の王らしく、皆が王の言葉に耳を傾けた。
「──皆の者、見よ。此度の召喚の儀は成功し、この国に強き光がもたらされた。すべては、我の導きと信心の成果である!」
王は自ら見つめるその視線を前に、高らかに宣言する。それからゆっくりと歩き出した。
重そうな体で重そうな服を引き摺り、俺たちの方へと足を進める。
「勇者よ、そなたらはまだ、この国においては赤子同然。故に先ほどの無礼は水に流そう。これからは我らと共に、この国の光となろう!」
そして、そう言いながら俺を見つめた。
またしても歓声が上がる。
こうして多くの者の上に立ち、この歓声を呼ぶ男が俺に命運を託すらしい。家にも学校にも、居場所のなかったこの俺に──
「わかりました」
たがらこれ以外の答えは持ち合わせていなかった。
王はニコリと頷く。それから、神崎の方にも目を向けた。
「我からは、最上級の生活と地位を約束しよう。他の勇者の活躍にも期待しておるぞ」
「……あぁ」
神崎は王を睨むようにそう答えた。
元の世界での神崎は、金持ちの家に生まれ、恵まれた容姿を持つ男だった。如月や藤堂といった取り巻きが常に隣にいて、俺たちみたいな人間を支配する、いわば選ばれた人間だった。
この世界でも当然、自分が俺よりも優れた存在だと思っていたのだろう。
「ここに集いし貴族諸君、そなたらの活躍にも勿論期待している。今後も我が国のために励むように──以上で本日は解散とする!」
だが王は、そんな神崎の視線も意に介さず、そう堂々と宣言した。その声を合図に、一人また一人と、派手な服を見に纏った貴族たちが席を立つ。
「勇者の皆様は、この後もう一つだけ儀式を執り行います。お疲れのところ申し訳ありませんが、もうしばらくお付き合いください」
ギラギラと光る人の波を見つめていると、エリュナがそう言った。この国の人間はとにかく儀式というものが好きらしい。
「……はぁ、面倒だな。これ以上何が必要なんだ」
苛立ちを隠すことのない神崎は、ガシガシと頭をかきながらそう言った。しかし、珍しく俺も同意見だ。
頭は既にパンクしている。そのせいで、続く儀式には僅かに煩わしさを覚えた。
「これから行うのは、『聖交の盃』と呼ばれる儀式です。これを行わなければ、皆様は魔力を扱うことができません」
「扱えない……?」
思わぬ一言に、俺は聞き返す。神崎すらも圧倒する光を放った、俺の魔力が使えないとはどういうことだ。
「『光導球』で、皆様が巨大な魔力の器を持つことはわかりました。しかし、異界から来られた皆様の器は、いわば空の状態です。そこで『聖交の盃』を通じて、皆様の器を魔力で満たします」
「そういうことだ。その器を満たしてこそ、真に勇者となるのだ」
王はそれだけ言い残し、また玉座へと戻って行った。あれだけの装飾品を身につけていれば、歩くのも立っているのも大変なのだろう。
「それでは準備を始めますね」
俺たちにニコリと微笑んでから、神官に合図を送る。扉が大きく開かれるのを見るに、またしても何かが運び込まれるようだ。
だが、そもそもわからないことがある。
「あの、魔力ってなんなんですか……? それに、魔族って……」
何一つわからないから、一つずつ、順に聞いていくしかない。
「魔力とは、太陽神ソリス様より賜りし加護の力で……と、長々説明するよりも、見ていただいた方がよさそうですね」
話し始めたエリュナだったが、パンと手を叩いて言葉を切った。そして、胸の前で手を合わせると、静かにその長い睫毛を伏せた。
「太陽神の御子たる我の前に光を──『治療』」
そして形の良い唇を動かし、歌うようにそう囁いた。
その瞬間、俺の体を光が包む。
「……さてサイトー様、お加減はいかがですか?」
「え?」
その光とエリュナの美しさに見惚れていると、エリュナは尋ねた。
なんのことだと思ったのはほんの一瞬。俺の体にあったはずの、殴られた痛みが消失している。
「き、傷が治ってる」
「過去の傷や心の傷は癒せませんが、簡単な怪我ならこうして癒せます。これが魔力です」
まるでゲームの世界だ。
「へぇ……、便利だね。これが僕たちにもできるの?」
口元だけで微笑む藤堂が聞く。
何を考えているかわからないが、よくないことなのは確かだと思う。
「それはわかりません。人はそれぞれ属性を持ち、その属性に応じた力しか使えませんから」
「まるでゲームみたいだね」
皆考えは同じらしい。
「さて、儀式の準備が整いました。そしてアレが、二つ目の質問の答えです」
エリュナが舞うように扉を指差した。大きく開かれた扉から、二つの檻が運び込まれる。
一つは赤い絨毯の引かれた金色の檻に、ライオンと同じような生き物が優雅に座っていた。
もう一つは、囚人を入れるような鉄の檻に、血を流すオオカミに似た生き物が収められている。
「あの黒いアレがまさしく魔族の一種。魔獣です」
血を流すその生き物は、見た目は殆どオオカミ。だが黒く、ギザギザと鋭いツノがあった。その禍々しさは、俺に恐怖心を抱かせる。
「うっ……」
あの姿は、人の本能を刺激するのだろう。如月が喉を震わせた。俺もごくりと唾を飲む。
「魔族には人型や獣型がいますが、総じてあのように黒いツノやアザを持ちます。そして黒く禍々しい力で、私たちに牙を剥くのです……」
「お、俺たちはあんなのと戦うのか……?」
如月は震える声で聞いた。
「勇者様は選ばれた方。強い力を持つ勇者様な、あの程度の獣など圧倒できます」
しかしエリュナは、なんともないといった顔でそう言うと、如月の肩に優しく触れた。
「さあ、『聖交の盃』を始めましょう。儀式はあの金獅子の血を混ぜた聖水を飲み、魔力を満たす──そしてその力で、あの魔獣をソリス様に捧げるだけです」
舞台女優のように両手を開き、天を仰ぎながらエリュナが告げる。
「え?」
俺は今から、あのライオンの血を飲むらしい──
【公開初日限定、連続更新中】
本日、一挙14話まで更新
この後も20時ごろまで、怒涛の連続公開が続きます。
ぜひお楽しみください。




