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祈りの果てに、俺は人間をやめた  作者: 石橋めい


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祝福と光:選ばれた男の巨大な器

【公開初日限定、連続更新中】

 本日、一挙14話まで更新


 この後も20時ごろまで、怒涛の連続公開が続きます。

 ぜひお楽しみください。

 エリュナに導かれ、俺たち四人は巨大なガラス球の側に立った。中の球は、まるで小さな太陽のように光り輝いている。その眩しさに、俺は目を細めた。


「これは、人の内に秘められた魔力を可視化するグランヴァルトの秘宝『光導球(ソリス・オーブ)』です。その方法は簡単。こうしてただ、触れるだけ──」


 そう言いながら、エリュナは光導球に触れた。

 その瞬間、中の金属球が輝き、ガラス球の中から溢れた。ほんの僅かにオレンジがかった、優しい光が周囲を包む。


 金の髪を輝かせながら、光に包まれるエリュナはまさしく『太陽の巫女』だ。


「──このように、輝きが力を示してくれます」


 そう言いながらエリュナが手を下ろす。輝きもスウッと消えてしまった。


「なるほど。それが光れば、魔力があると言うことか?」


 ギラリと目を光らせながら、どこか楽しげに神崎は問う。


「はい。そしてその光が大きく、白に近いほど、魔力が強い証となります。ちなみに、夕陽のように淡く赤い光が一般的な値です」


「じゃあ君は、相当強いってこと?」


 今度は藤堂が口を挟む。

 優等生らしく微笑んでいるが、頭の中で何を考えているかは分かりもしない。


「ええ。国内五本の指には入ります」


 そしてニコリと微笑むこの女も、何を考えているのかよく分からない。


「へぇ……じゃあまずは、僕から試してみてもいいかな。触れるだけでいいんだよね?」


 だがそんなことはお構いなしに、藤堂が一歩進み出た。


「勿論でございます……あ! そういえば、名前をまだお伺いしていませんでしたね」


「藤堂拓実。よろしくね」


 藤堂はそう言いながら、得体の知れない球へとさらに近づいた。恐怖心などないらしい。


「トードウ様、それでは光導球に触れてください。そうすれば太陽の加護は示されます」


 エリュナがいい終わる前に、藤堂はガラスに触れた。その瞬間、エリュナの光に似た光が飛び出す。


「……なんと!」

「太陽の巫女に匹敵する力だ!!」


 その光に、周囲がまた騒つく。


「素晴らしい! やはりソリス様より遣わされし勇者様です」


 エリュナも手を叩き、花のような笑顔で喜んだ。


「君の光を見た後だからかな。そんなにすごいとは思わないけど」


 しかし疑うように、藤堂は自らの手を握ったり開いたりと動かした。

 かく言う俺も疑っている。そもそも、本当に自分の中に魔力があるのだろうか。


「間違いなく素晴らしい力です! そもそも基本的に、異界の門は力を持つ選ばれた人しか通れません。さあ、他の勇者様も、ぜひその力をお見せください」


 だがエリュナはニコニコと微笑みながら喜んでいた。

 『選ばれた人』──俺はその言葉を反芻する。今ここにいるということは、俺もまた、選ばれた人ということだろうか。


「如月、やってみなよ」


 そんなエリュナの隣りで微笑む藤堂は、如月に向けてそう告げる。一瞬驚いた顔をした如月も、腹を括ったように歩き始めた。


「お名前は?」


「如月悠馬……」


「では、キサラギ様もお手を」


 如月のゴクリと唾を飲む音が聞こえた気がした。少し緊張した面持ちでガラスに触れる。パァと同じような光が差した。


「まぁ! キサラギ様も!」


 また、大袈裟に喜ぶエリュナ。

 だが、誰が触っても同じような光が出るんじゃないかと、疑いの気持ちが余計に強まる。


「続いてそちらの勇者様も──」


「神崎颯人だ」


 エリュナが言い終わる前に進み出た神崎が触れた。その時だった──


 先ほどとは違う、殆ど白に近い光が目を刺した。思わず目を閉じてしまうその光に、心臓がドクリと脈打つ。


「……なんと……!」


 驚きからか、誰もが一瞬言葉を失う。

 それから数秒の間の後で、ワッと大きな歓声が上がった。


「まさしく、勇者だ!」

「素晴らしい!!」


 神崎はニヤリと笑って、王を見やった。その目には、かつてないほど光に満ちている。


「カンザキ様! あなたこそ聖勇者……勇者一行を率いるお方です」


 エリュナが右手を胸に当て、恭しく頭を下げた。

 その様子を満足げに見つめた神崎は、俺に視線を移すと威圧するように口角を上げる。


「貴方も計測いたしますか?」


 なぜかエリュナは俺に尋ねた。微笑んでいるが、その顔はどこか笑っていない。


 ──ああ、そうか。

 俺はようやく気がついた。

 この女は、俺に微塵も期待していないのだ。整った容姿で、堂々と振る舞う神崎こそを勇者とし、その陰に隠れる俺をただのオマケと見ている。


「……」


 だから俺は、ただ無言で球に近づいた。


 『地獄は空っぽだ。悪魔はこっちにいるらしい』

 近づきながら俺は、小説の一節を思い出す。


 この世界もまた地獄だ。だけどこの見知らぬ地では、逃げることも隠れることもさせてくれない。


 震える指先をガラスに伸ばした。

 近づくほど、春の日差しのような暖かさを感じる。


「……フッ」


 聞き慣れない、神崎の笑い声がする。

 目の前が、紅く染まる。まるで夕焼けみたいな優しい紅だ。だがその優しい光は、最弱の勇者の証。取り巻く空気はなんとも言えない冷たさを浴びた。


 その時


「え……?」


 思わず声が出た。指先にチリチリとした熱を感じる。咄嗟にガラスから手を引こうとしたその瞬間──


「ま、まさか……」

「は?」


 エリュナと神崎の驚きが鼓膜を揺らし、視界が白く描き換えられた。指先はさらに熱さを増して、ようやく俺は手を引く。


 光が収まる。だが眩しさに焼かれた視界は明滅する。周囲はシンと静まり返った。


「──あ、貴方こそ……貴方こそ、真の聖勇者様です!!」


 数秒後、その空気を割ってエリュナが叫んだ。そのまま俺に駆け寄ると、跪いて許しを乞うように手を合わせる。


「勇者様、お名前を伺っても?」


「さ、斎藤蓮……です」


 突然のことに戸惑い、声が喉につっかえる。


「皆様、このサイトー様こそ真の聖勇者! 我らエルダレスの希望の光です!!」


 宣誓するようにエリュナが声高らかに言った。割れるような歓声が俺を包む。

 感じたことのない高揚感と、ドクドクと言う熱い鼓動が体を走った。


「勇者様!」

「勇者様!!」


 世界が俺を讃えている。

 初めての感覚に、口角が上がるのを自覚した。


 ──だからこの時、そんな俺は見落とした。すぐ側で、俺を刺すような目で睨む神崎を。

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