戦隊ヒーローの関係
「おい、ちょっといいか?」
ようやく桜子のありがたいお話が終わったと思ったら、今度は男から声をかけられた。
あぁ、またか……内心うんざりしながら私は青いメッシュを入れた不機嫌そうな男に顔を向ける。
青といえば多かれ少なかれ、「クール」とか「冷静」とかいうイメージがあると思う。実際、戦闘時のブルーこと蒼汰はどんな状況でも落ち着いて対応できる優秀な「ヒーロー」だ。ただ、それはあくまで戦闘スーツを着ている時だけの話。こうして素顔でいる時の蒼汰は、負の感情を隠そうともしない。
「お前さ、今日の戦いでも失敗ばかりしてただろ。少しは桜子を見習えよ、桜子は何でもできてるだろ?」
「……ごめんなさい」
「ごめんで済んだら警察はいらないよ。せっかく桜子と一緒にいるのに、お前はいつまで経っても強くならないじゃないか。これじゃ桜子が可哀想だろ」
……何度も何度も桜子、桜子と。
そう思っていたら、蒼汰は「何だその目は」とますます苛立たし気な顔で私を睨む。不満を顔に出してしまった私も悪いが、それを目ざとく指摘するこの男も感情のコントロールが下手だ。そのまま、蒼汰は何度も「桜子は」「桜子なら」を連呼しながらネチネチと私を責め続ける。こうなったら仕方がない、彼の気が済むまで聞いてやるしかない。私は俯き、彼の感情が収まるのを待つ。
私の邪推かもしれないが、この男は桜子に気があるのではないかと思う。それぐらい、蒼汰は桜子のことばかり口にするのだ。女のメンバーが私と桜子しかいない以上、他に比較対象がいないだけかもしれないが……まだ加入して数か月の私と、既にヒーローとして活躍を続ける桜子を比べるのはいかがなものなのだろうか。そう言いたくなるが、ぐっと堪える。
長引く話に、終止符を打ったのは深紅郎だった。
「今日の活動報告、できたからみんなで共有するぞ!」
明るく私たちを呼ぶ深紅郎の傍らには、にこにこする桜子がいる。上機嫌で楽しそう、私に説教していたのが嘘のようだ……深紅郎といる時の桜子は、穏やかで女神のような表情を浮かべている。その顔を見てようやく蒼汰は我に返ったのか、「行くぞ」と何事もなかったかのように私を連れ深紅郎たちの元へ向かう。
桜子の顔を見たら、途端に機嫌が良くなるな。
そう考えてしまった私は、「隣には深紅郎がいるのに」と意地悪く心の中で付け足すのだった。




