戦隊ヒーローとして戦う
研修で戦い方を学んだとはいえ、私は一般人だ。それは他のメンバーも変わらない。
そうなると、どうやって戦うのかという話になるが――会社によって趣向は違うものの、だいたい何かしらの「道具」を駆使して戦うことになる。私が所属する戦隊ヒーローの場合、使うのは指定された色の戦闘スーツ。頭から爪先まで、全身を覆うそれは戦隊ヒーローの「顔」でありあらゆる意味で最大の武器と言える代物だ。
戦隊のメンバー、もとい戦隊ヒーロー派遣会社の社員はその特殊な戦闘スーツを着ることによってその力を発揮するのだ。数百メートル走っただけで息切れするような人間も、これを着ればアスリートをはるかに凌駕する力を身につけうるのだ。なので私のように特段、運動能力が秀でていない人間でも十分に「ヒーロー」として活躍することができる。
ただし戦闘スーツによってカバーされるのは体力だけだ。その中身は一般人のまま変わらない。
だから研修で戦い方を習うのだし、複数人でチームを組んで戦う。はずなのだが……
「――っイエローいつまでかかってるんだ! 早くしろ!」
「ご、ごめんなさい!」
ブルーの罵声に囃し立てられ、私は怪人を蹴り倒す。
相手も自分たちと同じ、戦闘スーツを着ているようだが性能はややこちらが劣勢といったところだろうか。それでも他のメンバーは自身の経験や、要領の良さでカバーしているらしく……怪人相手に苦戦しているのは私だけだった。
それでもようやく、怪人を倒し終えたが――私にとってそこからがある意味「戦い」だ。
「あのさぁ、黄美花。何も考えないで戦ってるでしょ? だからいつも戦闘のテンポが悪いし、結果も出せない。黄美花が戦えない分、私たちの仕事が増えて迷惑なんだよ? 戦隊ヒーローに所属してるっていうのに、メンバーの足を引っ張るなんてどういうつもり?」
苛立たしさを隠そうともしない、桜子の叱責。いつものことだ。悪の組織や怪人たちとの戦いが終わると、桜子は私と二人きりになる時間を作ってわざわざ説教をしにくる。
仕事ができない私が悪いのはわかっている。そのぶん、周りのメンバーに負担をかけていることも承知している。
だが――桜子の言葉には明らかに悪意があり、私の心を痛めつけようとしているようにしか思えなかった。
それからも長々と、桜子の「説教」は続く。だが私は彼女の後輩で、「実際にヒーローとして活躍できていない」という弱みもある。だから、反論することはできない……怪人との戦いよりこの時間の方が、私にとっては辛く苦しい時間だった。




