ヒーローの名前
私は運命戦隊サバイバーに所属した時に、一人暮らしを始めたため両親とは離れて住んでいた。
とはいえ、ヒーローでなくなったこと――仕事を辞めたことを、いつまでも黙っているわけにはいかない。加えて転職活動をする時間も取れなかったため、できれば両親からの援助を受けたかったのだが……激怒した父によってその道は、断たれてしまった。
「『ヒーローは誰でもなれる』って言うだろう! それができないなんてお前は何をしていたんだ!」
「娘がヒーローになったのは、俺にとっても自慢だったんだぞ! その期待を裏切りやがって!」
「もう実家に帰ってくるな!」
憤る父を宥め、私を慰めようとした母も最後には口をつぐむことしかできなかった。
……もともと私にヒーローの道を示したのは父だった。父にとって私が戦隊とはいえヒーローとして活動していたこと、自分が叶えられなかった夢を叶えたことはきっと純粋に嬉しく誇らしいことだったのだろう。
だが――それでも私の努力は評価してくれなかった。ヒーローをクビになって、傷ついた私を思いやる言葉は一言も出なかった。
思えば父は、昔から私を「ヒーロー」にするつもりで育てていたような気がする。遊びは全て体を動かすタイプ、与えられるオモチャはスポーツ用品が多かった。しきりに体育の成績を気にして、自分が仕事で関わったヒーローについて言って聞かせて……そんなことを思い出していたら、ふと「父は私がヒーローにならなかったら、私をどうするつもりだったんだろう」と考えてしまう。
私が就職活動で躓かずに、どこかの企業で平凡な会社員になっていたら。ヒーローと全く関わらない、むしろヒーローに守ってもらうような立場の人間にいたなら。「黄美花」という名前はただ、色を現す漢字に父の密かな願望が込められただけの名前で終わっていたかもしれない。
「……どっちにせよ、名前負けだな」
乾いた笑みと共に、そんな言葉を吐き出す。
「ヒーローになってほしい」という父の願いを私は叶えられなかった。戦隊ヒーローの一員としてだけじゃない、私は父の持つヒーローの理想にも近づくことができなかったのだ。




