表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/71

5月25日(火)

5月25日(火)


朝、昨日と同じ位の時間に家を出る。


あの女より先に奴を見つけないと。


駅で待たないで、金曜日の夜、あたしと別れた龍太が歩いていった方にずっと行って、薬局の看板の後ろで待ち伏せることにした。


看板の陰から顔を出して、足踏みしているあたしを道を通る人がじろじろ見る。


何見てんだよ。


あたしはストーカーじゃねえよ!!!


あっ、来た。


「おはよう、龍太!!!」


「…はよ」


こいつ、朝が苦手なのかな。


隣を歩きながら、不機嫌そうな奴の顔を見上げる。


「折角、気持ちいい朝なんだから、もうちょっとシャキッとしなよ」


「……」


あたし、手を繋ぎたいんだけど。


怒られるかな。


「ねえ。手、繋いでいい?」


「…面倒くせ」


顔を顰めてそんなこと言うくせに、大きなバッグを担ぎなおすと、あたしの方に片手を差し出してくれた。


あたしの手がすっぽり隠れてしまう位、大きくて骨ばった手。


自分から言ったのに、すごく恥ずかしい。


そっと繋ぐと、ぎゅっと握られた。


暖かくって、硬い手のひら。


ドキドキしているのが、あたしの指から伝わっちゃうよ。


「おまえって、手もガキみてえなんだな」


横にいる奴を見上げると、からかうように見返してきた。


顔がカーッと熱くなる。




駅に着くと案の定、この前の女が声を掛けてきた。


「黒澤君」


龍太の影からあたしがそっと顔を覗かせると、女はビクッとして一瞬いやーな顔をした。


「誰?」


「1年D組の藤本花です」


「もしかして、黒澤君の彼女?」


「ああ」


即答してくれたことが嬉しかった。


改札を抜ける時に必然的にあたし達の手は離れた。


あたしが彼女って言ったのに、電車の中でも絶対龍太に惚れている女はあたし達の隣にいて、龍太に話しかけていた。


まるで、あたしがいないみたいに。


宿題のこととか、クラスメートのこととか、あたしの知らない話ばかり。


龍太はいつもの様に無口だったけど、彼女はそんなことお構いなしにしゃべり続けた。


この女、しつこいんだよ。


大体、龍太も迷惑だったらそう言えばいいのに。


学校に着くと、この女と龍太は一緒に同じ教室に行く。


同じクラスなんだからしょうがないけどさ。


でも、やっぱり嫌だ。


これって、嫉妬なのだろうか?


嫉妬って普通、好きな相手にしかしないよね?


やっぱり、あたしは龍太が好きなのかな?


やばいじゃん。


こんなにもあいつを独り占めしたいって思うなんて。




お昼休み、あたしが屋上に向かうと、階段に龍太と今朝の女がいた。


一緒に食べるなんて絶対嫌と思って、しかめっ面をしながら二人に近づいた。


あたしをチラッと見た龍太が女に言った。


「じゃあ、俺、こいつと飯食うから」


「私も一緒しちゃだめ?」


なんだよ、この女。


図々しいんだよ!!!


でも、龍太はあたしの肩を抱くと、彼女を見ていった。


「加藤って人のラブシーン見んの好きなの?」


流石にしつこい女も顔を真っ赤にさせて口を閉じた。


一瞬、泣き出すんじゃないかと思ったけど、そのまま後ろ向いて駆けて行っちゃった。


ざまーみろ!!!


いつもと同じ様にお弁当を食べ終わると、龍太があたしに尋ねた。


「おまえ」


「うん?」


「ヤキモチ焼いたろ?」


ちょっと、こいつ。


まさか、分かっていて、わざとあの女と親しくしてたの?!!


「自惚れないでよ」


「ふーん」


ニヤニヤしながらあたしのこと見てるこいつに腹が立つ。


「キスしてほしい?」


……してほしいに決まってんじゃん。


「…うん」


意地悪馬鹿龍太は、座ったままあたしを抱き寄せると、自分の脚の間にあたしを座らせる。


そして、あたしの後頭部を片手で押さえ、もう一方の腕で肩を抱き寄せると、屈みこんでキスをしてきた。


初めは優しいキス、それから段々と深くなるキス。


奴のキスは蕩けるように甘くて。


食後の果物にとお弁当に入れた苺の香りがした。


いつかみたいに奴の舌が入ってきたが、全然嫌じゃなくて。


いつの間にか、あたしは龍太の逞しい首に縋りつき、激しいキスに応えていた。


長い長いキスに息も絶え絶えとなったあたしに、奴の唇は最後に軽く触れて離れた。


そのまま、龍太の胸に頭を預けると、ギュッと抱き締められた。


あたしの心臓はまだドキドキしているけど、次第に呼吸が落ち着いてくる。


トクン、トクン、トクン、トクン……


龍太の心臓の音。


シャツの上からでも硬い筋肉を感じる胸板に頬を摺り寄せる。


龍太の匂い。


このまま、ずっと抱き締められていたい。


今、分かった。


あたしは、龍太が好きだ。




「ねえ」


「ん?」


「何であたしのメールに答えてくれないの?」


「…面倒くせえ」


そうだよね。


確かに、あんたのでかい手では、ちまちまメール打つの面倒くさそうだ。


「でも、返信してほしい。何も書かなくてもいいから。見てくれてるってだけ分かればいいから」


「…分かった」


あたしの知っている龍太。


噂とは全然違う龍太。


仮の彼女のあたしを大事にしてくれてると思う。


無愛想だけど、無口だけど。


それでも、あたしの我侭をいつも聞いてくれる。


あたしが龍太の本当の彼女だったら、絶対に絶対に龍太と別れたりしない。


そういえば、元カノ達とはどっちが別れを切り出したのだろう?


龍太は、あたしのこと、どう思っているのだろう?


もし、あたしが告白したら、全てが終わってしまうのだろうか?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ