5月21日(金)
5月21日(金)
今日は朝から雨が降っている。
折角、龍太の分もお弁当作ったのに屋上で一緒に食べれない。
運良く冷凍庫に海老があったので、せっかくエビフライ作ったのに。
お昼休み、奴を携帯で呼び出し、廊下でお弁当を渡した。
「お弁当箱、月曜日に返してくれればいいから」
「サンキュ」
あたしに紅茶のペットボトルを差し出す龍太。
今日もあたしの分、買って来てくれたんだ。
「ありがとう」
放課後、麻子と昇降口まで行って、立ち止まる。
やっぱり、まだ帰りたくない。
「あたし、ちょっと用事思い出したから、先帰って」
「うん」
龍太のことだと分かったのか、麻子は心配そうな顔をしながら一人で帰って行った。
部活は観に行けない。
でも、教室で待っていたらすれ違う可能性がある。
練習、何時頃に終わるんだろう?
雨降っているから、外で待っているのは寒いし。
結局、体育館まで行き、入り口の所に座って待つことにした。
すると、あたしと同じ様に待っている女の子が6人程いた。
何この人達。
部員の彼女かしら?
それとも、追っかけとか?
龍太目当ての子とかいるんだろうか?
隣に座っている子に聞いてみる。
「すみません。練習って何時頃に終わるのか知っていますか?」
「いつも7時頃には終わるけど」
「あ、そうですか。ありがとうございます」
「あなた、1年生?誰のファンなの?」
ファンって何だ?
「1年D組の藤本花です。えっと、ファンて言うか、今日は、ちょっと様子見に来ただけです」
やっと部活が終わり、着替え終わった部員がぞろぞろ出てきた。
うちの男子剣道部は坊主頭にしている奴は少なく、結構格好いい奴が多い。
待ち構えていた女の子達は、まるで芸能人を見たみたいにキャーキャー騒いでいるが、直接彼らに話しかけたりしない。
一番最後に確か部長の何とか先輩と龍太が出てきた。
龍太はあたしを見るとちょっと目を見開いたが、そのまま外に出て行く。
何よ、その態度。
2時間半も待っていた彼女を無視すんのかよ。
だけど、龍太は外に出て傘を開くと、振り返ってあたしに向かって言った。
「帰るぞ」
「うん」
慌てて龍太の側に行き、自分の傘を開く。
本当にでかいな、こいつ。
黙って並んで歩く。
雨じゃなかったら、もっと近くに行けるのに。
「練習大変なの?」
「もうすぐ、インターハイ予選始まるからな」
「試合観てみたいな」
「……」
こいつって本当に会話続かないんだよね。
「…えっと、龍太って電車通学?」
「ああ」
「家、どこの駅?」
「おまえと同じ」
「え?何で知ってるの?」
「ん?」
「駅」
「前、見たから」
「ふーん」
「……」
何か嬉しい。
電車の中でもあたしからずっと話しかけ続け、駅を出た所で別れた。
「あたし、こっちだから」
「うん」
「また月曜日にね」
「おう。そうだ、これ」
奴がバッグから出したのは、お弁当箱。
「美味かったぜ」
笑って言われたその一言に胸がドキンとした。
やっぱり、あたし、龍太のこと好きなんだろうか?
そんなことないって言い切れない自分が怖い。
一人で歩きながらも、顔がニヤけてしまう。
「ただいま」
家に帰ると思ったとおり、お母さんに言われる。
「どうしたの。遅かったのね」
「うん。ちょっと、友達の部活終わるの待ってた」
「ふーん。部活って何部?」
「…えっと、剣道部」
「ボーイフレンド?」
やっぱり、きた。
その質問。
「…うん」
うわ、何か恥ずかしいぞ。
「毎朝、花が一生懸命お弁当作っているのも、その子のため?」
まだ、皆寝ているうちに作っているから、お母さんは知らないと思ってた。
「…うん」
あー、照れくさい!!!
でも、お母さんは、
「今度、紹介してね」
と言うと、台所に戻ってしまった。