9月27日(月)
昨夜、ベッドの中で色々考えた。
もし、あの時、あたしが龍太にぶつからなかったら?
パンを買った後、屋上に行かなかったら?
彼女と一緒にいる龍太を見ていなかったら?
龍太が告白されている時、あたしが近くにいなかったら?
あたしと龍太は付き合っていないよね?
だから、あたしと龍太が付き合えたのは偶然だと言える。
だけど、全部これらの出来事がそのまま起こっていたとしても、あの時、龍太に強引に付き合えって言われなきゃ付き合わなかった。
あの時はどうしてそんなことになるのってびっくりした。
どうして龍太はあたしに付き合えって言ったんだろう?
やっぱり、考えてみると変だよね?
龍太はあたしに女の気持ちを教えて欲しいって言った。
だけど、付き合ってる女の子にわざと嫌われることしてたって言ってたよね?
自分のこと知らない癖に好きと言うのがムカつくって。
女の子の気持ちなんて理解する必要ないじゃん。
ていうか、何をすれば嫌われるか分かってたんだったら、気持ち分かってたってことじゃん。
じゃあ、どうして?
朝、駅で龍太に会うと早速聞いてみた。
「龍太」
「……ん?」
「あのさ。ずっと不思議だったんだけど。どうしてあの時、あたしに付き合えって言ったの?」
「……何の話だ?」
「だから!!龍太は何であたしと付き合ったの? 女の子の気持ち教えて欲しいからとか言ってたけど、それ本当なの?」
「……俺、そんなこと言ったか?」
「言ったよ」
「適当なこと言ったから忘れてたわ」
「何それ。じゃあ、本当の理由を教えて?」
龍太は目を逸らして、フーッと溜息をついた。
「……できれば話したくなかったんだがな」
それから立ち止まってあたしの顔を真っ直ぐに見て言った。
「俺、花のこと好きだからな」
「うん」
そして、また歩き出しながら、話し始めた。
「……初めは、ウゼえ奴と思った。ガキみてえな癖に一丁前に説教なんかしてきやがってと」
「ひどっ」
あたしを横目でチラッと見て話し続ける。
「俺と無理矢理付き合わせた時は、からかってやるつもりだった。一応彼女がいれば他の女も寄って来ねえし。いい加減うんざりしてたから」
「……」
「だけど、毎日花に会うのが楽しみになってきて。気が付いたら惚れちまってた」
「……」
「気、悪くしたか?」
「……ちょっとショックだった」
「そっか」
「龍太はあたしのどこが好きになったの?」
「全部」
「全部って?」
「中身も、外見も。あ、あと体も」
ボンと顔に血が上った。
「龍太の馬鹿!!!」
「可愛くて、可愛くて堪んねえ」
あたしの頭をグシャグシャにして笑いながら言った。
「……」
もう、龍太ったら!!!
理由なんかどうでもよくなってしまう。
「……花は?」
「何?」
「俺のどこがいいんだ?」
ちょっと、そんなこと真面目に聞かないでよ。
答えるの恥ずかしいじゃん。
「……同じだよ」
「ん?」
「……だから、全部」
「ふーん」
何、そのニヤニヤ笑いは?
「もう、最後のは違うから!!!」
フンッとそっぽを向く。
「それは、残念」
「……」
「……」
「……」
続く沈黙に耐えられなくなり龍太を見上げると、龍太がぽつんと言った。
「……嫌……だったのか?」
嫌だった訳ないじゃん。
……すっごく幸せだったよ。
だけど、そんなこと恥ずかしくて言える訳ない。
赤くなった顔を隠す様に地面に目を落として言った。
「……最後のも……同じ………だよ」
龍太に手を取られて、思わず見上げてしまう。
嬉しそうに笑う龍太に胸がキュンとなる。
龍太の手をギュッと握り返した。
加奈の従姉妹の由美子は、背が高くて髪の長いきれいな子だった。
朝のホームルームで担任と一緒に教室に入ってきて自己紹介した時は、男子達が嬉しそうにざわざわしてるのが聞こえた。
こいつら本当に単純なんだから。
クラスの男子が好きな女子とかが苛めたりしなければいいけど。
あたし達が周りにいれば大丈夫かな。
休み時間に加奈に紹介してもらった。
加奈達からよくあたしの話を聞いてたって言われてしまった。
黙っているとちょっと冷たい感じがする子だけど、話すと結構普通だった。
そういう目で見ちゃいけないって思うんだけど、どうしても加奈達から聞いた話を思い出してしまう。
男子が近寄らないようにガードした方がいいんだろうか?
今日は放課後、皆で真理子の家に集まるみたいなんだけど、あたしは家に帰らなくちゃならないので行けない。
夜、麻子に電話してみようか?
お昼はあたしだけ一緒に食べれないし。
お昼休み。
龍太とお弁当を食べる。
今日もよく晴れている。
青い空がとっても高くて、気持ちいいなあ。
「……なあ」
「うん?」
「今朝の話」
「何?」
「花だけだから」
「えっ?」
「俺から付き合ってって言ったの」
「……そうなの?」
「うん」
そうなんだ。
ちょっと嬉しい。
「だから、からかうつもりだったって言ったけど。無意識に惹かれてたんだと思う」
「……うん」
あたしがショックだったなんて言ったから、気にしてくれてんのかしら?
「大丈夫だよ、あたし」
「ああ」
あたしの頬に手をあてた龍太が屈みこんでくる。
そっと目を閉じた。
優しいキス。
土曜日の夜のことを思い出してしまう。
ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ……
やっぱり、胸はドキドキするけど、前よりも落ち着いているあたしがいる。
何か自分の外側から、龍太とキスしている自分を見ているような気分。
まるで、映画の1シーンの様に。
映画だったらBGMがあるんだろうけどさ。
これって現実だよね?
夢じゃないよね?
龍太の熱いキスに応えながら思った。
今この時の幸せな自分をあたしは一生忘れないだろう。
20年後とか大人になったあたしを想像してみる。
20年後だったら、結婚して子供もいるよね、多分。
この時のことを懐かしく思い出して、感傷に浸ったりするんだろうか?
もし、龍太と別れてしまっていたとしても。
できれば、龍太と一緒に思い出したいなあ。
あの頃は二人共若かったねえとか笑って。
「どうした?」
いつの間にか離れた龍太があたしを見ていた。
「ううん、何でもない」
「ぼんやりしてただろ?」
「未来のこと考えてた」
「未来?」
「……おじいちゃんとおばあちゃんになっても、龍太と一緒にいたいなって」
龍太が目を細めてあたしを見る。
「一緒にいような」
嬉しそうに笑う龍太にあたしも微笑み返す。
どうか、神様、仏様、10年後も20年後も50年後も、ずっとずっと龍太と二人で幸せでいられますように。