表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/71

9月25日(土)(四)


「今日はおばさん達は?」


「親父とお袋は親戚の結婚式行ってる。雄二はバンドのライブがあるからリハーサル」


「へえ。ライブってどこでやるの? 龍太は行かないの?」


「お袋に心配だから、絶対迎えに行けって言われてる」


「ふーん」


「一緒に行くか?」


「いいの?」


「体は平気か?」


「……うん」


恥ずかしくなって俯いた。


「花んちの電話番号教えろ」


「えっ? どうして?」


「いいから」


あたしが番号を言うと、龍太は自分の携帯に打ち込んでいる。


そして家に電話し始めた。


終わったらちゃんと家まで送りますとか言ってる。


お母さんと話してんのかしら?


「OKだってさ。タバコとドラッグと酒は飲ますなって」


「お母さんたら。飲む訳ないじゃん」


「2時間後ぐらいに出れば間に合うから、それまでゆっくりしてろよ」


「うん」


「何か食べるもの作ってくる」


そう言って龍太は下に下りていった。


ベッドをきちんとして、ベッドカバーをかけた。


その上に座って一人赤面していた。


あああ、やっぱり恥ずかしいよ。




階段を下りて台所に行った。


「いい匂い。何作ってるの?」


「にゅうめん」


「へえ。そんなの作れるんだ」


「うちもずっと母親が働いてたからな」


何か男の人が台所に立つ姿っていいな。


家でもお父さんの得意料理っていうのが何品かあるけど。


「龍太」


「ん?」


ああ、聞き辛い。


「……」


黙っていると、龍太が振り返って聞いた。


「どうした?」


「あ、あのさ、生理用品ってある?」


「……知らねえけど、トイレか風呂場の棚ん中探してみれば?」


「うん」


台所に戻ると、龍太が湯気の立つお鍋から2つのお椀ににゅうめんをよそっている所だった。


「あった?」


「うん」


「血出てんのか?」


龍太は心配そうな顔して聞いてくるけど、あたしは恥ずかしくて仕方がない。


「ううん。念のため」


「そっか」


にゅうめんはナスと油揚げが入っていてとても美味しかった。


「龍太って料理上手なんだね」


「こんなの誰だってできるだろ?」


「できないよ、絶対」


食べ終わって、後片付けも龍太は手伝わしてくれなかった。




龍太の部屋にバッグを取りに戻った。


龍太は戸棚から出した黒いTシャツを着て、グレーのスポーツジャケットを出して羽織ると、フードの付いた黒いジャケットをあたしに放ってきた。


「何?」


「そんだけじゃ寒いだろ?」


「あ、ありがとう」


龍太のジャケットは勿論あたしにはブカブカで、裾は腿まであるし袖は何回も折らなければならなかった。


そんなあたしを見て、龍太はニヤニヤしながら言った。


「お下がり着せられた幼稚園児みてえ」


「誰が幼稚園児だ!!」


本気になって怒るあたしに龍太は噴出し、


「うそ。すっげえ可愛い」


と言った。


龍太って結構あたしの前では笑ってくれる様になったよね?


あたしがいない所ではどうか知らないけど。


あんまり他の女の子の前では笑って欲しくないかな?


「ねえ、こんな普通の格好でライブ行くの?」


「いーだろ。舞台上がる訳じゃねえし」


「でも、あたしダサいって思われないかなぁ」


「いいじゃん、別に」


「嫌だよ」


「……じゃあ、そういう格好してみるか?」


「え?」


「俺がやってやる」


「ええーっ?」


バスルームに連れて行かれ、髪を濡らしてジェルでグシャグシャにされた。


「化粧品持ってるか?」


「マスカラと口紅だけ」


「じゃ、マスカラだけたっぷりつけとけ」


龍太は引き出しから丸いお菓子の缶を出して、中身をベッドの上にぶちまけた。


「何か選んどいて」


ベッドの上の様々なアクセを指差して龍太はドアに向かった。


「これって龍太の?!」


「中学ん頃、一時期集めてた」


「すごい、いっぱいあるね!!!」


龍太ってこんなの着けるんだ。


本当に意外性のある奴だよね。


何にしようか?


あんまりゴツイのは怖いから嫌だ。


げっ、骸骨かよ。


これは、蝙蝠?


「あっ、これ可愛い」


赤い石のはめ込まれた捩れてるシルバーのリング。


自分の指にして見るけど大き過ぎる。


駄目だ、親指でも緩い。


ペンダントの方が良さそうだ。


どれにしようかな?


「すごく綺麗」


黒い紐に繋がれた、シルバーのクロスで細かい模様がいっぱいあるやつを手に取る。


龍太が部屋に戻ってきて、ジェルで逆立てたパンクっぽいその頭を見てびっくりした。


ジーッと見てると、あたしの方を見て、


「見とれてんの?」


とか言ってくるから、


「自惚れないで」


って答えたんだけど。


本当にぶん殴りたいくらい格好いいよね、こいつ。


あたしが選んだペンダントを見て、


「いんじゃね? これも着けとけ」


と言って、耳に牛がしているみたいなリングを2個着けられた。


イヤーカフって言うんだって。


「穴開けなくていいから便利だろ?」


龍太は龍の形をした大きなのをしている。


更に皮と金属でできたチョーカーとリングを2、3個嵌めると、


「行こうぜ」


と言った。


出る前にバスルームの鏡に二人並んで映して噴出した。


髪形変えてアクセ着けただけなのに、二人共別人みたいだ。


横の龍太を見上げて笑った。


「不良パンクカップルの完成!!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ