9月25日(土)(四)
「今日はおばさん達は?」
「親父とお袋は親戚の結婚式行ってる。雄二はバンドのライブがあるからリハーサル」
「へえ。ライブってどこでやるの? 龍太は行かないの?」
「お袋に心配だから、絶対迎えに行けって言われてる」
「ふーん」
「一緒に行くか?」
「いいの?」
「体は平気か?」
「……うん」
恥ずかしくなって俯いた。
「花んちの電話番号教えろ」
「えっ? どうして?」
「いいから」
あたしが番号を言うと、龍太は自分の携帯に打ち込んでいる。
そして家に電話し始めた。
終わったらちゃんと家まで送りますとか言ってる。
お母さんと話してんのかしら?
「OKだってさ。タバコとドラッグと酒は飲ますなって」
「お母さんたら。飲む訳ないじゃん」
「2時間後ぐらいに出れば間に合うから、それまでゆっくりしてろよ」
「うん」
「何か食べるもの作ってくる」
そう言って龍太は下に下りていった。
ベッドをきちんとして、ベッドカバーをかけた。
その上に座って一人赤面していた。
あああ、やっぱり恥ずかしいよ。
階段を下りて台所に行った。
「いい匂い。何作ってるの?」
「にゅうめん」
「へえ。そんなの作れるんだ」
「うちもずっと母親が働いてたからな」
何か男の人が台所に立つ姿っていいな。
家でもお父さんの得意料理っていうのが何品かあるけど。
「龍太」
「ん?」
ああ、聞き辛い。
「……」
黙っていると、龍太が振り返って聞いた。
「どうした?」
「あ、あのさ、生理用品ってある?」
「……知らねえけど、トイレか風呂場の棚ん中探してみれば?」
「うん」
台所に戻ると、龍太が湯気の立つお鍋から2つのお椀ににゅうめんをよそっている所だった。
「あった?」
「うん」
「血出てんのか?」
龍太は心配そうな顔して聞いてくるけど、あたしは恥ずかしくて仕方がない。
「ううん。念のため」
「そっか」
にゅうめんはナスと油揚げが入っていてとても美味しかった。
「龍太って料理上手なんだね」
「こんなの誰だってできるだろ?」
「できないよ、絶対」
食べ終わって、後片付けも龍太は手伝わしてくれなかった。
龍太の部屋にバッグを取りに戻った。
龍太は戸棚から出した黒いTシャツを着て、グレーのスポーツジャケットを出して羽織ると、フードの付いた黒いジャケットをあたしに放ってきた。
「何?」
「そんだけじゃ寒いだろ?」
「あ、ありがとう」
龍太のジャケットは勿論あたしにはブカブカで、裾は腿まであるし袖は何回も折らなければならなかった。
そんなあたしを見て、龍太はニヤニヤしながら言った。
「お下がり着せられた幼稚園児みてえ」
「誰が幼稚園児だ!!」
本気になって怒るあたしに龍太は噴出し、
「うそ。すっげえ可愛い」
と言った。
龍太って結構あたしの前では笑ってくれる様になったよね?
あたしがいない所ではどうか知らないけど。
あんまり他の女の子の前では笑って欲しくないかな?
「ねえ、こんな普通の格好でライブ行くの?」
「いーだろ。舞台上がる訳じゃねえし」
「でも、あたしダサいって思われないかなぁ」
「いいじゃん、別に」
「嫌だよ」
「……じゃあ、そういう格好してみるか?」
「え?」
「俺がやってやる」
「ええーっ?」
バスルームに連れて行かれ、髪を濡らしてジェルでグシャグシャにされた。
「化粧品持ってるか?」
「マスカラと口紅だけ」
「じゃ、マスカラだけたっぷりつけとけ」
龍太は引き出しから丸いお菓子の缶を出して、中身をベッドの上にぶちまけた。
「何か選んどいて」
ベッドの上の様々なアクセを指差して龍太はドアに向かった。
「これって龍太の?!」
「中学ん頃、一時期集めてた」
「すごい、いっぱいあるね!!!」
龍太ってこんなの着けるんだ。
本当に意外性のある奴だよね。
何にしようか?
あんまりゴツイのは怖いから嫌だ。
げっ、骸骨かよ。
これは、蝙蝠?
「あっ、これ可愛い」
赤い石のはめ込まれた捩れてるシルバーのリング。
自分の指にして見るけど大き過ぎる。
駄目だ、親指でも緩い。
ペンダントの方が良さそうだ。
どれにしようかな?
「すごく綺麗」
黒い紐に繋がれた、シルバーのクロスで細かい模様がいっぱいあるやつを手に取る。
龍太が部屋に戻ってきて、ジェルで逆立てたパンクっぽいその頭を見てびっくりした。
ジーッと見てると、あたしの方を見て、
「見とれてんの?」
とか言ってくるから、
「自惚れないで」
って答えたんだけど。
本当にぶん殴りたいくらい格好いいよね、こいつ。
あたしが選んだペンダントを見て、
「いんじゃね? これも着けとけ」
と言って、耳に牛がしているみたいなリングを2個着けられた。
イヤーカフって言うんだって。
「穴開けなくていいから便利だろ?」
龍太は龍の形をした大きなのをしている。
更に皮と金属でできたチョーカーとリングを2、3個嵌めると、
「行こうぜ」
と言った。
出る前にバスルームの鏡に二人並んで映して噴出した。
髪形変えてアクセ着けただけなのに、二人共別人みたいだ。
横の龍太を見上げて笑った。
「不良パンクカップルの完成!!」