5月20日(木)
5月20日(木)
お昼休みになると、あたしは昨日と同じ様にお弁当を持って屋上に向かった。
屋上の扉を開けると既に龍太が座っているのが見え、昨日のキスを思い出したあたしは急に回れ右して逃げ出したくなった。
だけど、お弁当袋を鉄製の扉にぶつけてしまい、その音で龍太はこっちを見る。
仕方がなく奴の方に歩いていく。
「こんにちは」
「…ああ」
いつもどおりの奴に何だかほっとする。
龍太の隣に腰を下ろし、奴の分のお弁当を渡す。
すると、龍太も自分の横に置いてあった紅茶のペットボトルをあたしに手渡してくれた。
「ありがとう」
あたしの分も買ってきてくれたんだ。
そんな小さなことが嬉しくて頬が緩む。
龍太が頂きますと言うのを待って、あたしもお弁当箱の蓋を開ける。
「頂きます」
黙って二人でお弁当を食べる。
龍太が座っている方、体の左側が何だか熱い。
ずっと、隣にいたい。
え…?
今、何思ったんだ、あたし?!!
「美味かった。ご馳走様」
何か胸が苦しくなって、龍太に聞こえないようにふーっと息を吐いた。
お弁当を食べ終わって、昨日から気になっていたことを聞く。
「龍太の携番とメルアド教えて」
「何で?」
嫌そうな顔をする奴を見てちょっと怯む。
でも、龍太の連絡先、知りたい。
「だって、普通、彼女だったら彼氏の連絡先知ってるでしょ」
「そうか?」
「そうだよ」
「…ほら」
それでも、ちゃんと教えてくれた。
「ねえ。龍太って元カノ殴ったことある?」
「何だよ、それ。誰が言ったんだ、そんなこと?」
「噂で聞いたの」
「酷えな。俺は女は殴んねえよ」
そうだよね。
やっぱり、噂は噂だよ。
「…後さあ」
「ん?」
うー、やっぱり聞き辛い。
でも、知りたい。
「えーと。あのさ、龍太って、学校でエッチしたことある?」
「…おまえ、キスの次は抱かれたいのか?誰か来ても知らねえぞ」
呆れた様にあたしを見る奴に赤面する。
「ちっ、ちがっ!!!あたしじゃなくて。元カノと」
「ねえよ。言っとくけど、俺、変な趣味はねえぞ」
「そんな意味で聞いたんじゃないよ」
「人のラブシーン覗く女だからな」
「だから、覗いてたんじゃないってば!!!」
よかった。
全部でたらめじゃん。
昼休みが終わっちゃう。
昨日みたいなキスして欲しいけど、自分からは恥ずかしくて絶対言えない。
あーあ、立ち上がっちゃった。
あたしも諦めて立ち上がる。
扉の手前で奴は立ち止まって振り向いた。
「キスしてもいいのか?」
「うん!」
うわー、あたしの馬鹿!!!
いかにも待っていましたって感じじゃん。
恥ずかしい。
「お子チャマのキスな」
からかう様に笑った奴は、あたしを扉に寄りかからせた。
そして、あたしの頭の両側に手をつくと屈んであたしに口付けた。
啄ばむような優しいキスに頭がぼーっとしてずり落ちそうになったあたしは、思わず龍太のシャツにしがみつく。
「戻るぞ」
一度あたしの頭をギュッと抱き締めた龍太が扉を開けた。
龍太と別れ、廊下を歩きながら考える。
はあー、なかなか動悸が治まんない。
龍太はキスが上手い。
こんなキスをあの教室の彼女にしてたら、絶対に彼女とは別れてなかったような気がする。
なんで、ワザと嫌われるようなことをしたんだろう?
夜、宿題しながら、龍太にメールした。
「To:黒澤龍太
Sub :好き嫌い?
明日もお弁当持って行くね。龍太の好物って何?苦手なものは?」
お風呂から出て部屋に戻るとメールが着ていた。
「From :黒澤龍太
Sub :RE 好き嫌い?
エビフライ。レンコン」
エビフライが好きで蓮根は嫌いって言うことなんだろうけど。
エビフライが好きなんて子供みたいで何か可愛い。
「じゃあ明日のおかずは、レンコンの揚げ物とレンコンの金平ね」
ってメールしたんだけど、返信なかったので、寝る前にもう一度、
「おやすみ」
ってメールした。