9月25日(土)(一)
昨夜は眠らずに龍太に何を話せばいいのかずっと考えていた。
まだあたしは龍太のことが怖いのだろうか?
もし、怖かったら別れた方がいいのだろうか?
今日は時間が経つのが遅い。
それでもやっとお昼になり、昼食をすましてから自分の部屋に戻って出かける準備をした。
こんな時にあんまりおしゃれしちゃ可笑しいよね。
結局、Tシャツみたいな素材のベージュの膝丈のワンピースを着ることにした。
すっごく楽なんだ、この服。
バスルームに服を持って入り、シャワーの後に水を浴びて活を入れる。
「よし!!!」
もうすぐ9月も終わりだっていうのに、今年はまだ結構暑い。
XX駅というのは、学校の側の駅だ。
公園は浩子達から由美子の話を聞いた場所だ。
土曜日のこの時間だったら子供が大勢いるんじゃないかしら?
時間きっかりに公園に着くと、龍太は既に来ていて、入り口の所で待っていた。
久し振りっていうのも白々しいし、どう挨拶しようか悩んでると、龍太は、
「あっちに行こうぜ」
と言って歩き出した。
後ろをついて行きながら、格好いいなと思ってしまう。
別れたくない。
あたしはやっぱり龍太が好きだ。
花壇がある所に来ると、龍太は立ち止まって振り向いた。
周りに人はいない。
「ここらでいいか」
「……うん」
「時間取らせねえから」
「うん」
暫く自分の足元を見ていた龍太は、あたしを真っ直ぐに見て話し始めた。
「別れようぜ」
…………!!!!!!
「こんなことやってても意味ねえだろ」
やっぱり、もう遅いんだね。
泣いちゃ駄目だ。
「ごめんなさい。ちゃんと説明するから」
「いや、その必要ねえよ」
「でも……」
「聞きたくねえ」
そうだね、今更だよね。
胸が苦しいよ。
「花のこと好きだった」
「……」
過去形なんだね。
「じゃな」
「……」
俯いたまま何も言えなかった。
去って行く龍太のこと引き止めなくちゃと思うんだけど、声が出ない。
足が動かない。
龍太が見えなくなって、初めて涙が出た。
花壇の前にしゃがみこんで泣いた。
通りがかりの女の人が声をかけてきたけど、
「放っといてください」
と言って泣き続けた。
龍太、嫌だよ。
あたし、龍太と別れたくないよ。
どうして、あたしの話聞いてくれないの?
もう一度、龍太と話したい。
やっと泣き止んだあたしは、水飲み場で顔をバシャバシャ洗った。
ハンカチで顔をゴシゴシ拭きながら思った。
龍太の家に行こう。
家に帰っていないかも知れないという考えは思い浮かばなかった。
あたしんちと龍太んちの近くの駅で電車を降りて、龍太の家に向かった。
玄関の前まで来て、龍太の両親がいるのではと思ったが、ブザーを押した。
誰もいないのかしら?
もしかして、あたしに別れを告げた後、新しい彼女の所に行ったんだろうか?
もう一度押してみる。
……お願い!!!
3度目に押そうとした時、ドアに誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
ドアを開けた龍太はあたしをびっくりした顔で見て、それから眉を顰めて顔を背けた。
シャワーを浴びていたのか、髪が濡れて首にタオルを引っかけている。
「何だよ?」
「話がしたいの」
「……聞きたくねえつったろ」
「それでも聞いて欲しい!!!」
必死なあたしが大きな声を出すと、龍太は心底嫌そうな顔をして、
「入れ」
と言った。
怯んじゃ駄目。
この機会逃したらもう2度とちゃんと話せることはないだろう。
「今誰もいねえけど。ここで話すか? 俺の部屋行くか?」
と聞かれたので、
「龍太の部屋」
と答えた。
部屋に入ると、龍太はあたしに椅子に座る様に促し、自分はベッドに腰を下ろした。
「……で?」
「理由を説明させて欲しい」
そして、あたしは由美子の話をした。
その話にショックを受けて、夜眠れなくなったこと。
龍太に触れられるのが恐ろしくなってしまったこと。
龍太にちゃんと説明しなくちゃと思いながら、怖くて連絡できなかったこと。
包み隠さず全部話した。
龍太のこと傷付けるの分かってたけど、龍太が段々不機嫌になるのが分かったけど、自分の気持ちを正直に話した。
だけど、龍太はずっと黙って聞いてくれた。
あたしが話し終わると、龍太はあたしを冷たい目で見て言った。
「俺のこと、女を強姦するような男だと思ってたんだ」
「そ、そんなこと思ってないよ!!! あたしのこと、とても大事にしてくれてたし。だけど、元カノに乱暴なことするの見ちゃったから」
「俺は女と無理矢理セックスしたことねえよ」
「うん」
「襲われたことならあるけど」
「えっ?」
「付き合ってた女が素っ裸になって飛び掛ってきやがった」
「それで、どうしたの?」
「やるしかねえだろ」
嫌だ!!!
何でそんなこと言うの?
あたしが傷付くって知ってるから?
「あ、だけど一回だけあった。例の女に別れ告げられた時、どうして俺じゃ駄目なんだって無理矢理押し倒しちまった」
嫌だよ。
そんな話、聞きたくないよ。
「精一杯愛情込めて抱いたのに、あいつ全然反応しなくて。すっげえ虚しかった」
「そんな話、聞きたくない!!!」
泣き出してしまった。
酷いよ、龍太。
あたしが悪かったんだって知ってるけど。
あたしのこと嫌いになっちゃったんだね。
ずっとあたしが泣いている間、龍太は黙って座っていた。
前は抱き締めたり、頭撫でたりしてくれたのに。
やっとあたしが泣き止むと、龍太は言った。
「そいつは異常だと思うし、肩持つ訳じゃねえけど。きっと、女の方にも隙があったんだぜ」
「……」
「おまえだって危機感ゼロじゃん。普通、彼氏でもない奴の部屋に二人きりで閉じ篭んねえだろ?」
涙がボロッと零れた。
龍太にとって、あたしはもう彼女じゃないんだね。
震える声で言った。
「……だけど、龍太はそんなことしないよね」
「分かんねえだろ。おまえ、襲われても文句言えねえよな」
龍太にならいいよ。
龍太を真っ直ぐ見て言った。
「いいよ。抱いて」






