8月26日(木)
8月26日(木)
夜中にうなされてた様で自分の声で目が覚めた。
よく覚えてないけど、何か凄く怖いものに追いかけられる夢を見てた。
目が覚めてからも心臓がドキドキしていて、怖くて枕元のランプを点けた。
部屋に誰も変な人がいないか見回す。
人の声が聞きたくなって、ラジオをつけて深夜放送をずっと聴いていた。
朝まで眠れなかった。
龍太のことを思った。
あたしは龍太が好き、龍太のことを信じてる、と何度も何度も頭の中で繰り返した。
だけど、龍太は絶対そんなことはしないと言い切れない自分がいる。
それが恐ろしかった。
前に元カノに乱暴なキスをしているのを見たことがある。
教室じゃなかったら、あのまま襲ってしまいそうな雰囲気だった。
初めてキスされた時も龍太は凄く強引で、あたしが嫌だと泣いても放してくれなかった。
でも、それはその時だけで、それからはずっと優しくてあたしが嫌なことは絶対にしない。
だけど、あたしには優しくても、もし過去に女の子を襲ってたりしたら?
やっぱり許せないよ。
聞いてみようか?
でも何て聞けばいいんだろ?
朝、いつもの様に駅で龍太を待つ。
「おはよう、龍太」
「……はよ」
龍太の顔をじっと見つめてしまう。
「何?」
「ううん、何でもない」
普段どおりにしゃべろうとしても何かぎこちなくなってしまう。
結局、殆ど会話をせずに学校に着いてしまった。
お昼休み、落ち着かないあたしを見て龍太が言った。
「何かあったのか?」
「う、ううん、何もないよ」
鋭い目でじっと見られて、慌てて視線を逸らした。
龍太はそれ以上何も聞いてこなかった。
「き、今日はもう教室に戻ろうかな」
お弁当箱をしまって立ち上がろうとしたら、手を引っ張られ座らせられた。
「まだ30分もあるぞ」
大きな手。
この手で押さえつけられたら、抵抗なんてできっこない。
肩を掴まれ、引き寄せられた。
……怖い!!!
こんな大男に襲われたら、相手が一人だってどうにもならないよ。
気が付いたら、龍太を押しのけて立ち上がっていた。
「あたし、用事があるから」
言い捨ててドアに向かい、階段を駆け下りた。
やだ。
どうしちゃったんだろ、あたし?
……怖かった。
もう龍太と二人きりになりたくない?
落ち着いて。
自分の気持ちを整理しなくちゃ。
夜、自分の部屋に戻ってから考えた。
駄目だ。
やっぱり、怖い。
どうしてか分からないけど、龍太ともう会いたくない。
直接会って話しても、電話で話しても、絶対に説明を求められるだろう。
だから、卑怯なあたしはメールを送った。
「To:黒澤龍太
Sub :ごめんなさい
ごめんなさい。少しの間、一緒に登校できません。お昼も一緒に食べられない。今は理由を言えないけど、気持ちの整理がついたらちゃんと説明します」
少しの間ってどのくらいなんだろう?
暫くすると返事が着た。
「From:黒澤龍太
Sub :RE ごめんなさい
別れたいってことか?」
やっぱり、そうなるよね。
何て答えたらいいんだろう?
あたしは龍太と別れたいの?
頭の中がゴチャゴチャで分かんない。
返信できなかった。