8月23日(月)
8月23日(月)
昨夜は興奮して中々眠れなかったので、眠い。
何故眠れなかったかというと、龍太の両親からもらったバッグの中にもう一つプレゼントがあったからだ。
夜、部屋に戻ってから、バッグの中に入っている丸めた紙を出したら、底に封筒が入ってた。
封筒の中にはカードと写真が3枚。
うわーん、すっごく可愛い!!!!!
白いベビー服着て芝生に座っている赤ちゃんの写真と、三輪車に乗っている3歳ぐらいの子供の写真と、七五三の写真だ。
これって、これって、龍太だよね?!!!
確かに女の子に間違われてたっていうのが分かる。
七五三の写真は、羽織りに袴で男の子らしい格好だけど。
あっ、ちょっと面影あるかな。
カードには、
「花ちゃん、
16歳のお誕生日おめでとう。
約束していた写真です。女の子みたいで可愛いでしょう?
恵理子」
とあった。
龍太のお母さん、恵理子さんっていうんだ。
急に宝物が沢山増えちゃった。
可愛い龍太君の写真をボードに貼った。
寝る前にもう一度ハートのネックレスを出して眺めた。
うちの高校はアクセサリー禁止されてないけど、失くしたり壊したりしちゃったら嫌だからして行かないことにした。
どうせ着けても、制服のブラウスの下になって見えないんだし。
今日から新学期だ。
目を擦りながら台所に下りてお弁当を作った。
お弁当作るの久し振りだ。
朝食を急いで食べて、時間より早く家を出た。
昨日、約束はしなかったけど、夏休み前みたいに一緒に登校できるんだよね。
駅には早目に着いてしまったので、龍太の家の方に向かった。
線路脇の道に曲がった時、遠くから龍太が歩いてくるのが見えた。
「龍太、おはよう!!」
龍太の所まで走って行くと、呆れた様に言った。
「駅で待ってりゃいいのに」
「うん。だけど早く会いたかったから」
そう言って見上げると、肩に手を置かれて唇にチュッとキスされた。
顔にカーッと血が上り、辺りをキョロキョロ見回してしまう。
周りには誰もいないけど、やっぱり外でキスするのは恥ずかしいよ。
「外ではキスしないで」
「屋上だって外だろ?」
「そ、そうだけど。屋上は誰にも見られないから」
「……」
「……手繋ぎたいな」
龍太はでかいスポーツバッグを担ぎ直して、あたしに手を差し出した。
龍太と手を繋いで歩く。
嬉しいな。
「……昨日は家に来てくれてありがとね。とっても楽しかった」
「こちらこそ。礼言っとけと親に言われた」
「うん、伝えとく。あっ、そうだ。龍太もお母さんに伝えといて、プレゼントありがとうございましたって」
「昨日自分で言ってたじゃん」
「もう一つのプレゼントって言ってくれれば分かるよ」
「……何だよ、それ?」
「へへッ、秘密」
顔がニヤけてしまう。
「何だよ、気味悪りいな」
「ねえ、龍太は今日からまた部活?」
「ああ」
「暑いのに大変だね」
「……」
「ねえ」
「ん?」
「龍太の誕生日っていつ?」
「……10月20日」
「天秤座?」
「知らねえ」
「天秤座と獅子座って相性いいのかなあ」
「……」
相変わらず無口な龍太だけど、一緒に登校するのがとても嬉しかった。
廊下で別れた。
「また、お昼ね」
「おう」
「おはよう」
「おはよう。久し振り」
教室に入ると、仲のいい何人かに挨拶しながら、麻子の席に行く。
「おはよう、麻子」
「おはよう、花」
「うわー、真っ黒だね。夏休み楽しかった?おばさん達、元気だった?」
「うん、皆元気だったよ。花は? 彼氏との初めての夏休みはどうだった?」
「楽しかったよ。だけど、家族ぐるみの付き合いになっちゃってさぁ」
「えっ、そうなの?」
「うん。今度詳しく話すね」
「あっ、そうだ。これ、誕生日プレゼント」
「ありがとう」
もらった包みを開けると、綺麗な水色のガラス玉がついたストラップだった。
「わー、可愛い!!! この青、すっごく綺麗」
「うん、海の色みたいでしょ? とんぼ玉って言うんだよ」
「どうもありがとう。大切にする」
さっそく鞄から携帯を出して自分が中学の頃に作ったビーズのストラップを外し、青いとんぼ玉のストラップを付けた。
お昼は久し振りに屋上に行った。
暑いので陰になっている所に座って龍太を待った。
少し待つと龍太が飲み物を持って現れた。
龍太と食べるお弁当。
何でこんなに美味しいんだろ。
「ほら、見て」
携帯を出して見せた。
「麻子にもらったの。とんぼ玉って言うんだって」
「海みたいな色だな」
「うん。そうでしょ!!! あたしもそう思ったんだ」
中2の夏に麻子と石垣島に行った話をした。
麻子は大事な親友だ。
「龍太」
「ん?」
「あの、ネックレスね。失くしたりしたら嫌だから、学校には着けて来ないことにした」
「そっか」
「あたしの一番の宝物だから」
「……」
龍太に肩を抱き寄せられる。
ゆっくりと口付けられた。
優しい、優しい龍太のキス。
胸が苦しくなる。
キスよりもっと凄いことだってしたのに、何でこんなにドキドキするんだろう?
龍太の首に腕を回し目を瞑って、あたしの全部でキスを感じた。
体の神経が全て唇に集中しちゃったみたい。
初めてあたしから龍太の唇を舐めちゃった。
だけど、すぐ龍太に主導権を取られてしまう。
熱くて激しいキス。
体が熱くなる。
我慢できない。
もっと、もっと龍太が欲しい。
頭がおかしくなる。
急に龍太があたしの肩を掴んで体を引き離したので、びっくりして目を開けた。
龍太はあたしの肩を持ったまま、屈んで触れるだけのキスをしてから、額をあたしの額にコツンとぶつけて掠れた声で言った。
「犯されてえのか?」
…………!!!!!!
「龍太の馬鹿ぁ!!!」
「花が押し付けてきたんだろうが」
あたしは龍太にしがみついて、自分の体を擦り付けていたらしい。
もう、恥ずかし過ぎる。
穴があったら入りたい。
俯いて泣きそうになっていると、頭をクシャと撫でられた。
「可愛い奴」
「……」
おずおずと見上げると龍太は嬉しそうに目を細めて笑った。
龍太はそんな顔すると、憎らしいくらい格好いいんだ。