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8月22日(日)

8月22日(日)



今日も朝からいい天気だ。


お昼には龍太の家族が来る。


朝食を食べてから、お父さんと香代は買い物に行った。


「香代、駅前のケーキ屋で注文してあるケーキを取りに行くのを忘れないように、お父さんに言って頂戴」


「はーい。いってきまーす」


肉はお父さん達が買ってくるので、その他の料理をお母さんと準備した。


トマトとモッツァレッラ・チーズを薄くスライスしてお皿に並べて、刻んだバジルを乗せて、オリーブオイルをかけた。


それから、フルーツサラダを作る。


大きなボールにオレンジジュースとコワントローを少々入れて、小さくカットした果物を入れていく。


桃、杏、洋梨、林檎にバナナ。


メロンとすいかはスプーンで丸くくり抜いた。


出来上がった料理を冷蔵庫に入れた。


お母さんはオーブンでキッシュとベイクド・ポテトを作っている。


ポテトをオーブンから出し終わった頃、お父さん達が帰ってきた。


二人がちゃんと忘れずに買ってきたケーキを冷蔵庫にしまった。


もう、冷蔵庫の中に場所がないじゃん。


お母さんが準備しておいた漬け汁の中に牛肉を食べやすい大きさに切って漬けていく。


ソーセージはピーマンと一緒に串に刺す。




準備は大体出来たので、部屋に戻って着替えた。


日焼け止め、塗った方がいいよね。


色褪せたジーンズのショートパンツに薄いグレーのタンクトップを着た。


そして、龍太にもらったペンダントを首に巻く。


髪は昨日みたいに後ろでねじって、紫色の大きなバンスクリップで留めた。


隣の香代の部屋を覗いてみると、一生懸命おしゃれしている様子。


「あっ、お姉ちゃん。どっちがいいかなぁ?」


「縞々のワンピースの方が可愛いよ。髪はポニーテールにしたら?」


着替えながら香代が言った。


「お姉ちゃん、やってくれる?」


香代の後ろに回りながら聞く。


「日焼け止め塗った?」


「塗った方がいいかな?こんだけ焼けてたら必要ないと思うけど」


「そうだね。真っ黒だね」


香代は田舎では、いつも外で遊んでいた様で真っ黒に日焼けしている。


「ほら、できたよ」


「ありがと」




準備のできた香代と下に降りていくと、お母さんが、


「私も着替えてくるから、庭のテーブルにお皿とか並べておいて頂戴」


と台所を出て行きながら言った。


庭に出ると、既にお父さんはバーベキューの炭をおこしている所だった。


暑いので、敷石の上に風呂の水を撒いた。


日除けも濡らしたけど、直ぐに乾いてしまう。


庭にあるテーブルだと小さすぎるので、香代と二人でいつもは台所にある朝食用の丸いテーブルを出してくっつけた。


椅子も足りないので台所のを出した。


テーブルの下に蚊取り線香を焚く。


お皿とコップ、ナイフとフォークをテーブルに並べる。


香代が可愛いすいかの柄の紙ナプキンをそれぞれのコップに挿した。


うちは家は小さいんだけど、何故か木が沢山植わったちゃんとした庭がある。


両親が家を探してた時に、子供の為には大きな庭がいいと思ってここに決めたらしい。


確かにもっと小さい頃はよく庭で遊んだけど、最近は滅多に庭に出ることはない。


お父さんは庭仕事が好きで、家にいる時は結構庭に出て色々やっている。


あたしは花の種類とかあまり分からないけど、うちの庭では春から秋まで色とりどりの花が咲く。


百日紅は毎年この時期に満開になる。


後、あたしが知っているのは、向日葵、かんな、むくげ、鶏頭、マリーゴールド。


これは菊の一種かしら?


あっちのはゼラニウム。


朝顔は萎れてしまっている。


あれっ、何だろう、この可愛い形の花は?


「お父さん、この白い花、何?」


お父さんは嬉しそうに側に来て、あたしが指差している花を見た。


「ああ、これはサギ草だよ。サギみたいな形してるだろう?」


「本当だ。可愛いね」


「お父さん、これは?」


今度は香代が尋ねる。


「これはリコリスだ。西洋彼岸花とも呼ばれているよ」


お父さんが大事に世話している花達。


これから時々見に来ようと思った。




約束の時間12時を5分程過ぎた頃、龍太とその家族が到着した。


お互いの家族を紹介した後、皆を庭に案内する。


飲み物を取りに台所に戻ったあたしについてきた香代が小声で言う。


「あの二人、兄弟揃って格好いいね」


「そうだね。ほら、これ持って」


「うん。ねえ、雄二君って彼女いるのかなぁ」


「いないみたいよ。ちょっと、ほら、これ」


「持ってっていいの?」


「うん、お願い」


香代に飲み物を持っていってもらい、あたしは冷蔵庫から肉を取り出した。


うわっ、物凄い量だ。


ソーセージとピーマン、牛肉とタマネギの串刺し。


庭に出てバーベキューの側にいるお父さんの所に運んだ。


お父さんにビールを持っていってから、もう一度台所に戻り、鉄板に乗せてあるホイルに包んだポテトも庭に運ぶ。


「お姉ちゃんは何飲む?」


「ぺリエ」


飲み物の入ったコップを受け取り、龍太の前に座った。


「似合う?」


自分の胸元を指差して聞くと、頷いた龍太は立ち上がって、


「手伝ってくる」


とお父さんの方に行ってしまった。


照れてるんだ。


可笑しい。


「あら、ちょっと見せて」


お母さんに言われた。


「可愛いじゃない。龍太君のプレゼント?」


「うん」


「まあ、だから……」


龍太のお母さんが何か言いかけた時、


「ほら、肉が焼けたぞー!!」


お父さんが大きなお皿に串刺しを乗せて持ってきた。


「わー美味しそう!!!」


香代と雄二君が歓声を上げた。


「他の料理持ってくるね」


あたしがそう言って家の方に歩いて行くと、ポテトの乗ったお皿をテーブルに置いた龍太もついてきた。


冷蔵庫からサラダを出してラップを外し、龍太に渡す。


「あ、ちょっと待って」


キッシュを型から出し、皿に乗せた。


「これも持ってって」


サワークリームを小さいボールに取って、ニンニクを一かけすりおろしたのと万能ねぎのみじん切りを混ぜ入れた。


ベイクド・ポテトに添えるクリームだ。




大量の肉とポテトはあっと言う間になくなり、本当にびっくりした。


育ち盛りの男の子の食欲は半端じゃない。


量が足りなかったんじゃないかと心配になったが、皆お腹一杯と言っていたので大丈夫みたいだ。


食事は楽しかった。


お客様モードになってる龍太はいつもみたいに無愛想ではなかったし、龍太のお父さんもインターン時代の話とかしてくれた。


やっぱり絶対似てるよ、この二人。


一番よくしゃべってるのは、勿論龍太のお母さんとうちのお母さんだった。


お母さんがケーキを食べに来ないかと隣の佐野さん一家に声をかけたので、おじさんとおばさんと敏子ちゃんが家に来ていっそう賑やかになった。


敏子ちゃんと香代は雄二君にくっついて、来年から行く予定のS中のことを色々聞いている。


雄二君があたしの後輩だと今日初めて知った。


中一の終わりに転校したらしい。


もしかして、龍太がN中で問題を起こしたせいで、雄二君はS中に転校したのかな?


雄二君に藤本さんって呼ぶのを止めてって言ったら、花さんて呼ぶねと言われた。


佐野さんがアメリカ旅行で買ってきたというポーカーゲームを持ってきて、大人達は部屋でポーカーを始めてしまった。


ポーカーって子供の頃、家族で温泉行った時に親に教わったことあるけど、あんまりよく覚えてない。


見ていても面白くなかったので、あたし達もトランプを持ってきて庭でババ抜きをした。


ババ抜きに飽きると神経衰弱をした。


木陰に大きなインド布の古いベッドカバーを広げて、その上に皆で座って遊んだ。


初めは龍太はかったりーとか言ってやりたがらなかったんだけど、無理やり参加させた。


そしたら、結構真面目に遊んじゃってるので可笑しかった。


負けたら本気で悔しがったりして。


龍太って結構負けず嫌いなんだよね。


とても、とても楽しかった。


お腹が痛くなるくらい沢山笑った。


お母さん達がケーキにロウソク点けて持って来るまで、ずっと遊んでいた。


皆でバースデーソングを歌ってくれて嬉しかった。


お母さんは龍太の両親にも、佐野さん達にもプレゼントはいらないって言ってあったみたいなんだけど、皆ちゃんとプレゼントを持ってきてくれてた。


龍太の両親と雄二君には、すっごく可愛いハンドバッグをもらった。


ビニール製の丸みのある小さな三角形で、赤紫と紺色のタータンチェック模様で、片方にロゴが入っていて手で持つ部分は黒いの。


雄二君が選んでくれたらしい。


佐野さんのおじさんとおばさんからは、お菓子のレシピ本。


綺麗な写真が沢山載っていて、簡単に作れるお菓子ばかりだそうだ。


お礼にクッキー焼かなくちゃ。


香代と敏子ちゃんからは、手作りのヘアゴムとシュシュだ。


あたしって幸せ者だと思った。


お父さんが皆と写真撮ってくれて、やっとあたしは不機嫌な顔していない龍太の写真を手に入れた。


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