8月21日(土)(後)
8月21日(土)(後)
やっと龍太達が戻ってきた。
「そろそろ帰るか」
荷物をまとめて、皆で駅まで歩く。
龍太はあたしの隣を歩いているけど、ずっと何も言わない。
いつもはあたしが色々話しかけるんだけど。
駅にはまだ花火大会から帰る人が結構いて、電車も混んでいた。
電車に乗ると、龍太は一人分の席が空いているとこにあたしを引っ張っていって座るように促した。
「大丈夫だよ」
「疲れてんだろ」
「……ありがとう」
あたしが何も言わないから心配してくれたのかな?
家の近くの駅で降りると、一緒にいた剣道部の人達に龍太が言った。
「俺、こいつ送ってくから」
「じゃあ、また月曜日にね」
「おやすみ」
「バイバイ」
皆と別れ、龍太とあたしの家に向かった。
「ねえ」
「……ん」
「えっと……」
「何だよ?」
「あ、あのさ。龍太って何人ぐらいの女の人と付き合ったの?」
龍太は立ち止まってあたしの顔を見た。
「あいつ等に何か言われたのか?」
「……うん。だけど、そうじゃなくて、あたしが知りたいの」
「知ってどうなる?」
「……どうにもならないけど」
「今は花だけだっつったろ」
「うん。それは分かってるんだけど」
あたしの馬鹿。
何で涙が出てくるのよ。
「……よく分かってるんだけど、頭から離れないの。女の子見る度に龍太と付き合ってたんじゃないかって、色々想像しちゃって」
龍太はハァーと溜息をついた。
「あのな。俺のこと全然知らねえ癖に好きだとか言ってくる女がいただろ?」
「うん」
「ああいう女にわざと酷い奴を演じて見せてた。大概の女はすぐに別れようって言ってくるか、俺が別れるって言っても反対しねえ」
誘われれば付き合うけど、わざと嫌われる様にしてたってこと?
「どうして?」
「ムカつくから」
初恋の彼女がトラウマになって、女の子に告白されても本気だって信じられなかったってこと?
「ふうん。龍太って一目惚れって信じないの?」
「興味を持つってのはありかも知んねえけど、惚れることはねえだろ」
「……そうだね。だけど、龍太が演じてた酷い奴は、本当の龍太じゃないよね」
「そんなことにも気付かねえ女とばかり付き合ってた」
「……だけど、付き合ってたんだったら、その……キスとかもしてたんでしょ?」
「殆どしてねえよ。……セックスもな」
龍太はあたしを横目で見て言った。
殆どしてないって、まれにはしてたってことだよね。
やっぱり嫌だよ。
「好きでもない人とそんなことするの不潔だよ」
「……」
こんなこと言われても龍太だって困っちゃうよね?
過去はどうしようもできないんだし。
だけど、あたしの頭を撫でようとした龍太の手を振り払ってしまった。
「触らないで!!」
他の女に触れた汚い手であたしに触らないで。
悔し涙が溢れてくる。
龍太はじっと何も言わないで、あたしが泣き止むのを待っていた。
「……ごめんなさい」
家に着くまで何も話さなかった。
門の前で立ち止まったあたしに龍太がジーンズのポケットから出した小さい包みを差し出した。
「これ」
「……何?」
「家に入ってから開けろよ」
包みを受け取って龍太を見上げた。
「じゃな」
「龍太、ごめんね」
「いいから。さっさと家に入れよ」
「……うん。また明日」
「ああ」
あたしが触らないでなんて言ったから、手も握ってくれなかったし、キスもしてくれなかった。
それが気になるなんて、あたしってどんなに自分勝手な女なんだろう。
また泣きそうになって、慌てて家に入った。
「ただいま」
「おかえりなさい、遅かったのね」
リビングにはパジャマを着たお母さんが一人残っていた。
「うん。人が少なくなるまで剣道部の人達と海にいた」
「そう。早くお風呂に入って寝なさいね」
「うん。おやすみなさい」
よかった。
リビングは薄暗かったので、目が赤いのに気付かれなかったみたい。
急いで部屋にパジャマを取りに行き、シャワーを浴びて部屋に戻った。
何だろう?
龍太にもらった包みを持ってベッドに腰掛けた。
白い紙の袋を破くと、丸い小さなピンクのビロードの箱が出てきた。
これって……
ドキドキしながら蓋を開けると中には、すっごく可愛いペンダントが入っていた。
シルバーの小さなハート型で、ハートはちょっとねじれた形で真ん中にはピンクパールが入っている。
ハートの平らな部分と鎖を付ける部分にはキラキラする石が埋め込まれている。
まさかダイアモンドじゃないと思うけど。
とっても嬉しい!!!!!
さっそく着けて、衣装箪笥の鏡に映してみた。
ずっと着けていたいけど、壊れちゃったら困るから外して箱に入れた。
ベッドに入ってから龍太に電話をした。
「もしもし、龍太?」
「……ああ」
「ペンダントどうもありがとう。すっごく可愛くてとっても気に入りました」
「どういたしまして」
「……龍太、さっきはごめんね」
「ん。……おっ、ぎりぎりセーフじゃん」
「うん?」
「ハッピーバースディ、花」
時間を見ると零時3分前。
「……ありがとう。とっても嬉しい」
泣き虫花。
鼻を啜る音が聞こえちゃうじゃん。
「あたし、龍太のこと好きだからね」
わざと元気な声で言った。
「俺も、花のこと好きだからな」
「うん」
「ヤキモチ焼く必要なんかねえから」
「……うん」
「だから、さっさと抱かれろっつってんだろ」
「エロ馬鹿龍太!!」
笑いながら龍太が言った。
「おやすみ」
「……うん、おやすみなさい」
ペンダントの入った箱を枕の下に置いた。
良い夢が見れますように。