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8月15日(日)

8月15日(日)



携帯のアラームの音で目を覚ますと、あたしは一人で知らないベッドにいた。


……あれ?


ああ、ここ龍太の家だ。


……え?!!


やだ、あたし、裸じゃん!!!!!


えっと、昨夜は龍太が部屋に来て、それから……


うわー!!!!!


昨夜、龍太にされたことを思い出し、恥ずかしくて堪らなくなりシーツに潜った。


だけど、色んな映像が目に浮かび、あの時に聞こえた音まで思い出してしまった。


ぎゃー、やだ、やだ、やだ!!!!!


もう、龍太の顔、恥ずかしくて見れないよ。


忘れろ、忘れろ、忘れるんだ。


あたし、いつの間にか眠っちゃったんだ。


龍太はいつ自分の部屋に戻ったんだろ?


あっ、そうだ。


早く起きなくちゃ。


龍太の両親と雄二君は7時半頃家を出ると言っていた。


慌てて服を着て、タオルを持って洗面所に行き、顔を洗って髪を梳かし歯を磨いた。


ダイニングを通ると、既にお父さんと雄二君は席についてコーヒーを飲んでいた。


「おはようございます」


「ああ、おはよう」


「おはよう」


台所に行き、お母さんに聞いた。


「おはようございます。何かお手伝いできることありますか?」


「おはよう、花ちゃん。まだ寝ててもよかったのに。よく眠れた?」


「はい。もうぐっすり」


「それじゃ、これテーブルに運んでくれる?」


「はい」


ベーコン・エッグとトマトサラダをテーブルに並べた。


お母さんがこんがり焼けたトーストが乗ったお皿をテーブルに置いた。


「花ちゃんは、朝はコーヒー、それとも紅茶?」


「あっ、紅茶です」


大きなマグカップに紅茶を注いでくれた。


「レモンとミルクはここにあるから、好きなの入れてね」


「はい、ありがとうございます」


レモンを一切れ、紅茶に浮かべる。


「いただきます」


雄二君はまだ眠いのか、今朝は大人しい。


お父さんは新聞を読んでいる。


「花ちゃんのバイトは何時からなの?」


「11時からです」


「だったら、少しゆっくりできるわね」


「はい。いったん家に戻ってから直接行きます」


「ここにいても全然構わないのよ。お兄ちゃんはどうせお昼まで起きてこないだろうし」


「はい。でも洗濯とか色々やることもありますので」


「偉いわね。やっぱり女の子はいいわあ」


「女じゃなくて悪かったな」


雄二君がちょっとムッとした顔で言った。


「でも、うちは女二人だから、お父さんは男の子が欲しかったって言っています」


「お母様はきっと女の子で良かったと思っていらっしゃるわよ」


そうかな?


もし男の子がいたら、一緒にどこどこに行けたのにとか、お父さんが言っているのは聞いたことがあるけど。


お母さんがそういうこと言ったのを聞いたことない。


「ごちそうさま」


食べ終わると既に7時を過ぎている。


「後片付けやっておきますから、どうぞお出かけの準備をしてきてください」


「あら、ありがとう。じゃ、悪いけど、ちょっと準備してくるわ」


龍太の家族を送り出してから、あたしも自分の洗濯物をまとめた。


龍太にメモを残して家を出た。


朝なのに涼しくない。


今年の夏は本当に暑い。


今日もまた暑くなりそうだ。


雲ひとつない空を見上げる。


家に着き、シャワーを浴びてから、窓を全部開けて洗濯をした。


本当なら外に干したいんだけど、夕立が来ても困るので乾燥機にかけた。




バイトに行くと、案の定、皆があたしをからかってくる。


「どうでしたか、初めてのお泊りデートは?」


煩いので、


「彼のお母さんと弟と仲良くなりました」


と答えた。


今日もとても忙しかった。


やっと5時になり、着替えてお店を出ると、龍太からメールが着た。


「駅で待ってる」


「了解」


と返事して、駅までの道を急いだ。


また逆ナンされてたりして。


駅の前の広場、龍太は昨日あたしが座っていた花壇の所にいた。


「お待たせ」


「おう」


やっぱり、顔合わすの照れくさいよ。


龍太は全然普段と変わらないから、ちょっと癪に障る。


「夕食、献立決めたの?」


「ハンバーグ。前に花が食いたいって言ってたろ?」


「うん」


あたしが今度作ってって言ったの覚えていてくれたんだ。


ハンバーグとご飯でしょ。


それから、何にしようかな?


「あとは、夏野菜のグリルとグリーンサラダでいいかな?」


「ああ」


「駅の近くのスーパーで買い物して帰ろうね」


「ん」


龍太と買い物するのは楽しかった。


あたしが半分払うって言ったんだけど、龍太はお母さんからお金もらったからいらないと言って払わせてくれなかった。


台所で一緒に料理していると、あたしの家で龍太が言ったことを思い出した。


「こうしてると、新婚みたいだね」


「……変なこと言うなよ。危ねえだろ」


たまねぎを刻んでいた龍太が顔を顰めて言った。


「だって、この前、龍太がそう言ったんじゃん」


「ふん」


照れてるの?


可笑しい!!!


「あたし、大人になったら龍太のお嫁さんになりたいなあ」


「いい加減にしねえと、ここで襲うぞ」


「もう、龍太の馬鹿!!!」


「そうだな、嫁さんの裸エプロンとかいいかも」


「な、な、何言い出すのよ?!! 龍太のスケベ!!!!!」


もう、やだ。


何でいつも、いつも、やらしいことばっか言って、あたしのことからかうのよ。




龍太の両親と雄二君は8時過ぎに帰ってきた。


龍太のハンバーグはとても美味しかった。


あたしのナスとズッキーニとトマトにハーブを散らしてオリーブオイルでグリルした料理も好評だった。


相変わらず食事中に話すのは、お母さんと雄二君だけだった。


お母さんと雄二君が龍太に話しかける。


「お兄ちゃん、お祖母ちゃんが、10月のお祖父ちゃんの7周忌には、絶対来る様に伝えてくれって言ってたわよ」


「10月9日だったよね?」


「そうよ」


「……多分、行けると思う」


「兄貴が来なくて、みっちゃんがっかりしてたよ」


「……」


雄二君があたしに説明してくれる。


「みっちゃんって、お祖母ちゃんと一緒に暮らしている僕より1才年下の従妹なんだけど。小さい頃から兄貴にベタ惚れで、大きくなったら龍兄のお嫁さんになるって、ずっと言ってたんだ。だけど、兄貴は全然その気なかったみたいだから、藤本さんは心配することないよ」


「へえ」


そんな子がいたんだ。


龍太と雄二君の従妹なら可愛い子なんだろうな。


龍太は知らん振りして食べている。


食事が終わって、あたし達が食事の準備したからお母さんが後片付けするって言ってくれた。


何か悪いのであたしが、


「大丈夫ですよ。あたし達でやりますから、どうぞゆっくりしててください」


と断ると、龍太が、


「花もバイトで疲れてんだろ。俺がやるから休んでろ」


と言ってくれた。


そんなあたし達をお母さんはニコニコ見ていた。


雄二君が兄貴を手伝ってくると言って台所に行った。


龍太も雄二君もいい奴だね。


龍太はあんなこと言ってたけど、龍太の家族だって仲良いじゃん。




寝る前にバスルームでもう一度シャワーを浴びて、歯を磨いて部屋に戻ると、ベッドに龍太が寝転がっていた。


「ここで何してるの?」


「……待ってた」


「そりゃまずいよ。まだ皆起きてるし。昨日みたいにもっと遅く……」


言いかけてハッと気付いて真っ赤になる。


龍太はベッドの横に立っているあたしをニヤニヤしながら見上げている。


「誘ってんの?」


「馬鹿、そんな訳ないでしょ!!!」


「おい、そんな大声出したら聞こえるぞ」


あー、もう龍太の馬鹿。


龍太はベッドから立ち上がり、あたしをそっと抱き締めた。


「明日の朝早いから」


「……うん」


髪と額に優しく口付けられた。


「いい子にしてろよ」


「龍太こそ。合宿頑張ってね」


唇と唇がそっと触れ合う。


何だか胸が詰まって泣きたくなった。


龍太のシャツに顔を埋める。


龍太の匂い。


安心する。


「……どうした?」


「離れたくない」


「んな可愛いこと言うな。押し倒したくなるだろ?」


「もう、どうして龍太は、いつもそういうことばっかり言うのよ」


「好きだから」


「……」


龍太が屈んで、もう一度あたしの唇を求めてくる。


今度は少しディープなキス。


頭がクラクラとなる様な甘い甘いキス。


龍太の首に両腕を回す。


龍太が好き。


大好き。


やっと唇が離れて、龍太を見上げて囁いた。


「好き」


「うん」


「早く帰ってきてね」


「可愛い奴」


チュッと音を立ててキスされた。


「……おやすみ」


「おやすみなさい」


龍太が部屋を出て行ってから、随分長い間ベッドに座ったまま、余韻に浸ってぼんやりしていた。


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