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8月14日(土)(中)

8月14日(土)(中)



「何かお手伝いさせてください」


「あら、ありがとう。じゃあ、お父さんのおつまみ、リビングに持って行ってくれるかしら?」


枝豆、冷奴、小ナスの漬物、キュウリと蛸の和え物など、4、5種類のおつまみのお皿とお箸を載せたトレーを持って、リビングに行く。


リビングのソファには龍太がお父さんと座ってテレビを観ていた。


お父さんはビールを飲んでいる。


あたしが入っていくと、二人共あたしを見た。


ああ、やっぱり、龍太ってお父さんに似てるんじゃん。


龍太の方が体は一回り大きいけど。


無表情で怖い感じがそっくり。


「おじゃましています。藤本花です。どうぞよろしく」


あたしがトレーをソファの前のテーブルに置いて挨拶すると、お父さんが言った。


「こちらこそ、よろしく。ゆっくりしていってください」


それから誰も何も言わずにテレビを観ているので、さっさとおつまみをテーブルに置いて退散した。


何か可笑しい。


無口なとことかそっくりじゃん。


龍太が年取ったらあんな感じになるのかな?


台所に戻って、お母さんに他に手伝うことはないか尋ねた。


「じゃあ、レタスの水切ってから、ちぎってこのボウルに入れてくれる?」


「はい。すっごくいい匂いですね」


蓋をした大きな黒い鍋では何かがグツグツ煮えている。


「今日は久し振りに家族全員揃うから、パエリアにしたのよ」


お父さんとは逆にお母さんはおしゃべりで、料理をしながら色々話しかけてくる。


「でも、藤本さんのお母さんからお電話あった時は、本当にびっくりしたわぁ」


「すみません。母が電話なんかするから、ご迷惑かけちゃって」


「いいえ、全然迷惑じゃないわよ。うち女の子いないし、藤本さんに来てもらってとても嬉しいの。あの子達とは一緒におしゃべりしたり、お料理なんてできないでしょう?ただ龍太が真剣にお付き合いしている女の子がいるなんて、全然知らなかったから驚いちゃったの。ほら、あの子、全然そういうこと話してくれないから」


「はい」


「でも、あの子、見かけはあんなで無愛想だけど優しい子なのよ。藤本さん、龍太をよろしく頼みます」


「えっと、あたしの方がとっても大事にしてもらってます。それから、あの、藤本さんじゃなくて花って呼んでください」


「あら、じゃあ、花ちゃんって呼ぶわね」


「はい」


「花ちゃん、テーブルセッティングお願いしていい?」


「あっ、はい」


「お皿はここね。コップはこっちの棚。フォークとナイフはそこの引き出しに入っているから」


あたしが人数分のフォークとナイフを出していると、


「ただいまー」


と大きな声がして、超イケメンの男の子が台所に入ってきた。


「おかえり。遅かったのね。花ちゃん、これが次男の雄二よ」


「うわぁ、兄貴、本当に彼女連れて来たんだー!!!」


へえ、目がぱっちりしてて、お母さんそっくり。


あっ、だけど、笑顔は龍太に似てる。


「ちょっと、雄二、失礼でしょ!!! ちゃんと挨拶しなさい」


「弟の雄二です。よろしく」


「あっ、こちらこそよろしく。藤本花です」


雄二君は流しでジャージャーと手を洗うと、タオルで手を拭いている。


「手伝うよ」


そう言ってお皿とその上に乗せたフォークとナイフをダイニングルームに運んでくれた。


あたしはコップを出すとトレーに乗せて、その後に続いた。


食器をテーブルに並べながら、雄二君が話しかけてくる。


「藤本さんって何か僕の思ってた兄貴の彼女のイメージと全然違う」


「そう?もっと大人っぽい女の人期待してた?」


「うーん、大人っぽいっつうか。もっと、きつい感じで自分の容貌に自信満々の女想像してた」


「ふーん。元カノがそうだったの?」


「いや、兄貴の彼女に今まで会ったことない。けど、一緒に遊びに行ったりした時、兄貴に迫ってくる女って皆そんな感じだったからさ」


「あー、今日も何か逆ナンされてたよ」


「へえ」


「でも、雄二君だってもてるでしょ?」


「いやー、そんなことないよ」


あれっ、照れちゃった。


可愛いじゃん。


「だって、バンドとかやってんでしょ? それって、すっごくもてそうじゃん」


「うん、まあね」


「雄二君は何やってるの?」


「僕はギター。他にボーカルとベースとドラムスがいる。僕だけ中学生で後の3人は高校生なんだ」


「へえ。バンドの名前なんていうの?」


「K3C1」


「何? スターウォーズのロボット見たいじゃん」


「皆でバンド名考えてたら面倒くさくなっちゃって、高校生3人に中学生1人だからK3C1にしよって言って決まった」


「今度観に行きたいな。ねえ、ベースの人が都合悪い時知らせてよ」


「ああ、兄貴から聞いた? 兄貴、すっごく嫌がるんだけど、もう5、6回助けてもらったことあるよ。ベースの奴、メチャ忙しいバイトやっててさ。急にシフト変えられたとか言って、来れないことがあるから」


「ふーん。龍太に観たいなって言ったら、絶対嫌だって言われちゃったから、今度内緒で教えてね」


「オッケー」


台所に戻りながらそんなことを話した。


「もう食べれるからお父さん達呼んで頂戴」


お母さんに言われた雄二君は、リビングに顔を突っ込んで、


「飯だよー!!!」


と叫んだ。


「花ちゃんの席はここね」


お母さんが椅子を引いてくれる。


皆がテーブルに着くと雄二君が大きなパエリヤ鍋を運んできた。


お母さんが皆のお皿に取り分けてくれる。


ホカホカの黄色いご飯に鶏肉、イカ、ムール貝、海老、赤と緑のピーマンが彩りよく混ざっている。


うわぁ、美味しそう!!!


「頂きまーす!!!」


雄二君とあたしの声が見事にハモる。


料理はとても美味しかった。


だけど、可笑しい。


食事中、話しているのはお母さんと雄二君だけで、お父さんと龍太は何か取ってくれとか言う他は何も言わずに食べている。


あたしが龍太と結婚したら、こんな風になるのかしら?


あたしの家では皆色々しゃべるので、食事は結構賑やかだ。


そういうのに馴れているので、ちょっと寂しいなと思った。


やっぱり、もう少し話して欲しいな。


だから、お母さんと雄二君とおしゃべりしながら、龍太にも時々話しかけた。


お父さんには流石に話しかけなかったけど。


「花ちゃんはどこでバイトしているの?」


「アイスクリーム屋です。XXXにあるフルータ・パラッゾっていうお店なんですけど」


「あ、そこ聞いたことある。クラスの女共がメチャ美味いって話してた」


店長がイタリアで修行した時の話をすると、皆とても面白がった。


お父さんも聞いてくれているので嬉しかった。


イタリア語もさっぱり分からない店長が引き起こした数々の失敗や事件はとても可笑しくて、あたしもお店で聞いた時は笑い過ぎて涙が出てしまった程だ。


「あたし、来週の金曜まで働いているので。もしよかったら食べに来てください」


すぐに雄二君が答えた。


「うん、友達誘ってみる。それとも、お母さん一緒に行く?」


「そうね。水曜日の午後、出かける用事があるから。その後、近くで待ち合わせて一緒に行きましょうか?」


「オッケー」


「だったら、お兄ちゃんも行かない?」


「俺は合宿」


「そうだったわ。残念ね」


何か考えていたお母さんがお父さんに話しかける。


「来週の水曜って、確かお父さんは夜勤だったわよね」


「……ああ」


「花ちゃんはバイト何時までなの?」


「5時までです」


「5時少し前にアイスクリーム食べに行って、その後、花ちゃんと一緒に食事するのってどうかしら?」


「賛成」


と雄二君。


「はい。家に帰ってから聞いてみますけど、多分大丈夫だと思います」


一応、龍太の方を見て確認する。


「いいでしょ?」


「ああ」


「あら、花ちゃんたら。お兄ちゃんは本当に幸せね、こんなにいい子が彼女で」


「そうだな」


えっ?


龍太の返事を聞いて、赤くなってしまった。


こいつって、時々すごく素直になるのよね。


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