5月18日(火)
5月18日(火)
そして、今日、またまたあたしはとんでもないものを見てしまった。
放課後、学級委員が出なくちゃいけないらしい何とか委員会に出席させられ、やっと帰れると思って下駄箱から靴を出した時に聞こえてきた会話。
「彼女と別れたんでしょ、黒澤君。だったら私と付き合ってくれない?」
下駄箱で隠れて見えないけど、糞馬鹿龍太が告白されているらしい。
音を立てないように上履きをしまい、耳を澄ませた。
「別にいいけど」
うわー、すぐにOKしやがった。
「嬉しい!!私、ずっと黒澤君のことが好きだったの」
ふーん。
「えっ?黒澤君、こんな所で駄目だよ。あっ…」
げっ、下駄箱でラブシーンかよ!!!
ああ、もう、こっちが赤面しちゃう。
見つからないうちにさっさと帰ろう。
「おまえ、過去に男何人いた?」
耳に入った奴の声に立ち止まる。
うわっ、何それ?
彼女にする質問じゃねーだろ。
「え?」
「聞こえただろ。何人だよ?」
「え、えっと、3人…かな」
もしかして、彼女の過去の男に嫉妬しちゃってるの?
「で、その3人とはやった?」
「う、ううん。…えと。うん、1人とは」
彼女、泣きそうになってる。
何よこいつ、まさか処女じゃなきゃ嫌だとか?
処女食い散らしてるとか?
「じゃ、無理だな。今の話はなかったってことで」
「え?く、黒澤君?ごめんなさい!!!お願いだから…」
あーあ、泣いちゃったじゃない。
「いや、おまえ経験不足。俺を満足させられる訳ねえよ」
やっぱり、この男は最低だ。
許せない。
立ち去る奴を追いかけた。
ちくしょう、奴は足が速い。
そりゃ、あたしとはコンパスの長さが違うもんね。
やっと、校門で追いついた。
「おい、糞馬鹿龍太!!また女の子泣かせやがって、おまえ本当に最低だな」
「…ああ、覗き魔苺女か」
「あたしは覗き魔じゃない!!!偶々通りかかったら話が聞こえて。て言うか、あんな所で告白されてるあんたが悪い!!!それに今日のパンツは苺じゃない!!!!!」
ブッ!!!
あれ?こいつ、笑った。
ていうか、腹抱えて笑い転げてる。
こいつ、笑うと可愛いじゃん。
何か怒る気も失せて、笑っている奴を見ていた。
「…で、何か用?」
やっと笑いが治まった奴は、目じりの涙を拭きながら聞いてくる。
「彼女にもっと優しくしてやんなよ」
急に冷たい目になったこいつに怯みそうになる。
「余計なお世話だ」
「で、もっと笑った方がいいよ」
「もっと余計なお世話だ」
「でも、女の子泣かす男って格好悪いよ」
「ふん。あんなことぐらいで泣く方が悪いんだろ」
段々、奴の機嫌が悪くなってくる。
うわっ、こいつ、怒ると迫力あるよ。
正直言って、怖い。
けど、言いたいことは言ってやる。
「最初から嫌なら断ればいいじゃん。気のある振りしてから、あんなこと言うなんて酷いよ」
「俺のこと知らねえ癖に好きとか、あっちの方が可笑しいじゃねえか」
確かにあたしもそう思うけどさ。
でも、もうちょっと相手の気持ち考えてやればいいのに。
「あんたは女の子の気持ちを全然分かってない」
「そんなのお互い様だろ。おまえは人の気持ちが分かるのかよ?」
「そりゃ、あたしも女だから、女の子の気持ちは大体分かるよ」
「…だったら、教えろよ」
「え?」
「俺の彼女になって、どうやったらいいのか教えろよ」
ど、ど、どうしてそんな発想になるんだ、この馬鹿男は?!!!!
「そんなの無理だよ!!!」
「付き合ってる奴いんの?」
「い、いないけど」
「じゃ、決定」
行きかけた奴を慌てて大声で呼び止める。
「えー?!!!ちょ、ちょっと待って。あ、あ、あたし、あんたのこと何も知らないし」
「付き合ったら知るだろ」
「好きでもない人と付き合えないよ」
「好きになるかも知れないだろ?」
「ならないかも知れないよね」
「じゃあ、どっちかに好きな奴ができたら、即別れるってことで問題ねえよな」
「えっ?だ、だけど…」
「女との付き合い方を俺に教えるには、付き合っちまうのが手っ取り早いだろ?」
「そうかも知れないけど。あたし、やっぱり…」
「ふーん。やっぱ、気持ち分かるなんて嘘なんだ」
「う、嘘じゃないけど。教えるなんて」
「ほら見ろ。おまえだって口ばっかじゃん」
「そんなことない」
「いざという時には逃げるんだな」
「逃げたりしないよ!」
「偉そうなこと言ってた癖に、本当は自信ねえんだろ?」
「ある!!」
「よし」
…え?え?!え?!!ええー?!!!!!!!
何で、どうしてこうなるの?!!
あたしこいつと付き合うことになっちゃったの?!!
「じゃ、これからよろしく」
あたしの頭をポンッと叩き、行ってしまった糞馬鹿男。
うまく丸め込まれ、糞馬鹿龍太と付き合うことになってしまった。
好きでもない男と付き合うなんて。
自分で自分が信じらんない。
奴にはあんなこと言ったけど、あたしの恋愛経験なんて殆どゼロに近い。
男と付き合った経験なんかない。
でも、彼氏の理想像はある。
まあ、いっか。
どうせなら、あたしの理想にできるだけ近い彼氏を演じてもらおう。
変なことしたら、殴って即効別れてやる。
あーっ、もうこんなことしてる場合じゃない!!
早く帰らなくっちゃ!!!
今日は遅くなると思ったので、買い物とご飯を炊くのを香代に頼んでいるんだけど。