8月10日(火)
8月10日(火)
今朝も龍太が迎えに来てくれた。
龍太は本当に朝が苦手らしい。
昨夜メールで「明日も8時に会える?」って出したら、「一日中眠かったから9時にしてくれ」って返ってきた。
今朝は、この前バイトの帰りに偶然見つけた神社に、龍太を連れて行った。
ビル街の中にある小さな神社。
何だか、そこだけ子供の頃に読んだ昔話の世界みたいで、懐かしい気持ちがしたんだ。
龍太は変な顔してたけど、お賽銭あげて、ちゃんとお参りした。
別に神とか信じている訳じゃないけど、龍太のためにお祈りしたくなったんだ。
龍太がもう傷つくことがありませんように。
絶対に幸せになりますように、と祈った。
龍太は相変わらず無口だけど、前よりも近づけた様な気がする。
昨日、龍太が話してくれたことはとても重たくて、消化するのに時間がかかりそうだけど。
あたしには理解できないこともある。
あたしだったら、いくら寂しくても、辛くても、好きな人を裏切ったりできないと思う。
好きな人が与えてくれない温もりを、他の人に求めることなんてできないと思う。
大人になったら、理解できる様になるのかな?
そして、やっぱり、龍太がそんなに好きだった女の人に嫉妬しちゃうよ。
「ねえ、龍太」
「ん?」
「あのさ、龍太はあたしに本気だって言ってくれたよね?」
「ああ」
「それって、あたしのために一生懸命になってくれるってこと?」
「……何して欲しいんだ?」
「違うの。あたしがして欲しいことをしてもらうんじゃなくて、龍太があたしのためにしたいことをして欲しいの」
「ガキの頃みてえに形振り構わずってのは無理だぞ」
「彼女にはそうしてたんだ」
「……相手がどう思うかなんて考えもしねえで、自分の気持ちを押し付けてた。今思うと振られて当然だよな」
「龍太、それ違うよ。だって、相手がどう思っているかなんて、その人じゃないんだから完全に分かりっこないじゃん。龍太は彼女を喜ばそうと色々してたんでしょ?彼女が龍太のことを本当に好きだったら、嬉しかったと思うよ。あたしだったら、嬉しいよ。もしあたしが望んでいることと違ったとしても、あたしのためにしてくれてるんだなって思ったら」
あー、もう、駄目なあたし。
また泣いちゃうよ。
以前はこんなに泣き虫じゃなかったのに。
どうしちゃったんだろ?
「あっ、次、あっち行って見よう?」
ワザとらしい明るい声を出して歩き出すと、龍太に後ろから抱き締められた。
やだ、涙が溢れちゃうじゃない。
昨日、龍太があたしのこと泣かせてばっかりって言ったから、泣きたくなかったのに。
「花」
「……ぐすっ……」
「ヤキモチ焼くな」
「………ひっく……」
「どうしたら信じられる?」
龍太のこと信じてるよ。
信じてるけど。
「……ヤキモチなんて!! ……ふぅ………焼きたく……ないのに……焼け……ちゃうんだ……もん!!!」
ハァーとため息をつく龍太。
面倒くさい女だと思ってるんでしょ?
自分でもそう思うよ。
自己嫌悪。
「おい、花」
「……」
後ろからあたしの肩を抱いていた龍太の右手が、あたしのお腹のお臍の下あたりに置かれる。
そして、耳元に囁かれた。
「おまえ、さっさと覚悟決めて抱かれろよ。ぐちゃぐちゃ考えることもできねえほど気持ち良くさせてやっから。俺がどれだけ惚れてるか体に刻み込んでやる」
「な、な、な、何てこと言うのよ、このエロ馬鹿龍太ー!!!!! 人が真面目に悩んでるって言うのに」
あたしを離して笑い出す龍太。
もう、泣き笑いになってしまう。
馬鹿龍太。
あー、もう馬鹿らしくなってきた。
そうだよね。
過去に嫉妬したってどうしようもないよね。
今、龍太と一緒にいるのはあたしだから。
あたしは絶対に龍太を振ったりしないから。
龍太があたしを嫌にならないかぎり、ずっと一緒だよね。
「バイト行くか?」
「うん」
「毎日、目と鼻赤くして行ったら何か言われるだろ?」
「えっ?そんなに赤い?」
「……」
「ねえ、龍太。あたしの顔、そんなに赤い?ねえ、龍太ってば!!」
「泣かなければ赤くなんねえよ」
「泣いたって分かっちゃうかなぁ?」
「もう泣くなよ」
「もう、真面目に聞いているのに!!」
「俺だって真面目だぞ」
「……泣き虫でごめんね」
クシャと頭を撫でられた。