7月7日(水)
7月7日(水)
今日は七夕だ。
放課後真っ直ぐに家に帰りたくなくて、教室で時間を潰して、7時ちょっと過ぎに体育館に向かった。
以前1度だけ、龍太を待っていたことがある。
あの日も雨が降っていた。
あの時みたいに何人かの女の子が入り口で待っていた。
あたしを見ると小声でコソコソ話して感じ悪い。
話したこともない人を好きになって、毎日部活が終わるのを待ってるなんて、本当にご苦労なことだ。
あまり待つこともなく、部員達が出てきた。
部員達にもジロジロ見られて、居心地が悪い。
クラスの前田が出てきたので、声をかけた。
「おつかれ」
「黒澤先輩、部長と一緒に顧問の先生に捕まってるぜ。そんなにかからないと思うけど」
「うん」
更に15分程経って、龍太と何とか先輩が先生と一緒に出てきた。
あたしを見た龍太が立ち止まる。
一緒にいた何とか先輩も立ち止まった。
先生を見送った後、何とか先輩があたしに声をかけてきた。
「えっと、藤本さんだっけ。インターハイ予選に来てたよね」
「はい」
面倒くさそうに龍太が紹介してくれる。
「こいつ、部長の坂本」
「坂本隆です。よろしく」
「藤本花です。こちらこそ、よろしくお願いします」
あたしのことをニコニコしながら見ていた坂本先輩は言った。
「龍太って、見た目怖いし無愛想だけど、根は優しい奴だから」
「おい、余計なこと言うな」
「はい。とても優しいし、あたしのことすごく大事にしてくれます」
「なーんだ、良く分かってんじゃん。藤本さん、龍太のことよろしくね」
龍太は両手をズボンのポケットに入れてそっぽを向いている。
もしかして、照れてるの?
何か可愛い。
方向が違う坂本先輩と別れ、駅への道を龍太と歩く。
自分の傘は使わないで、龍太の傘に入れてもらう。
「龍太は願いごとしたの?」
「いや」
「どうして?」
月曜日から、校庭の隅に大きな笹の木が立てられている。
誰でも短冊を書いて提げられることになっていた。
あたしは朝、龍太と別れた後、校庭に戻って、家で準備してきた短冊を吊るしてきた。
龍太は、こんなこと馬鹿らしいと思ってるのかな?
「花が俺の分もしただろ?」
「え?!何で知ってんの?」
「…勘」
何で分かったんだろう?
あたしの願いを書いた銀色の短冊。
「龍太とずっと、ずっと一緒にいれますように」
龍太のための願いを書いた金色の短冊。
「龍太がインターハイで優勝しますように」
両方一緒に吊るしてきた。
「あたしが書いた願いごとも分かる?」
「ああ、大体な」
優しく見下ろしてくる龍太に胸がキュンとなる。
駅に入って傘を閉じた龍太に言った。
「手、繋ぎたい」
差し出された大きな手を取った。
大きな手を両手で持って、じっと見た。
龍太の手。
暖かい手。
硬い手のひら。
長い指。
短く切り揃えてある爪。
指の付け根にあるタコまで愛しく思ってしまうあたしは重症だ。
「…何してんの?」
「点検」
そう答えて龍太の手を握り直す。
ずっと、ずっと、あたしだけのものであって欲しい。