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7月3日(土)

7月3日(土)



朝ごはん食べたらすぐに準備を始めた。


だって、龍太に可愛いって思われたいじゃん。


初めてのデートなんだから。


服を着て、髪は何度も何度も結いなおして、やっと満足いく結果になった。


普段はお化粧はあまりしない。


化粧品もそんなに持ってないし、やり方もしらないし。


だけど、今日はちょっとだけ。


マスカラを付けて薄いピンクのグロスを塗ってみる。


まあ、こんな感じかな。


黒の布バッグには、お財布と携帯とハンカチ。


さっき窓から見た時は雨降ってなかったけれど、一応、折りたたみの傘も入れた。


後は時間が来るまで部屋の中をソワソワ歩き回っていた。


あー、もう、落ち着かない。


リビングに下りると、あたしを見て、テレビを観ていた香代が言った。


「うわあ。お姉ちゃん、化けたねー!!!」


「うるさい」


親は買い物に行っていてよかった。


もう、帰って来る筈だけど。


帰ってくる前にさっさと行ってしまおう。


いつもの様に駅で待ち合わせしている。


親が帰ってくる前に出ようとしたので、随分早めに着いてしまった。


まだ35分もあるじゃん。


だけど、他の所に行く気もなく、売店の横に立ってずっと待っていた。


何10回目かに時計を見てると声をかけられた。


「お待たせ」


…誰だ、こいつ?


目の前には、茶髪の軽そうな男の笑顔。


「誰、ですか?」


「君の彼氏」


じゃないだろー!!!!!


「だって、振られちゃったんでしょ。可愛そうに。慰めてあげるから俺と一緒に行こうよ」


そう言って、そのチャラ男をあたしの腕を掴んだ。


「行きません。ちょっと、離してよ!!!あたしの彼氏、怖いんだから、あんたなんてぶっ飛ばされるわよ」


救いを求める様に辺りを見回すけど、龍太の姿はない。


通行人は皆、見て見ぬ振り。


それとも、もしかして、こいつが彼氏で私達はじゃれあってるとでも思われているのだろうか?


早く来てよ、龍太。


チャラ男はヘラヘラ笑って、あたしの腕を離そうとしない。


あたしの頭の横の壁に手をついて、屈みこんできた。


奴の肩越しに見えた、龍太の姿。


龍太は辺りをグルッと見回して。


あたしと視線が合った。


ちょっと、あたしのこと見えてんだったら、さっさと助けてよ!!!


動かない龍太とあたしに唇を近づけてくるチャラ男に焦って、あたしは頭を思い切り振って、チャラ男の顔に頭突きを食らわせた。


龍太に向かって怒鳴る。


「龍太の馬鹿!!!!!ボンヤリ突っ立ってないで、さっさと助けなさいよ」


あたしの腕を掴んだまま、鼻を押さえて屈みこんでいたチャラ男が喚く。


「このアマ。優しくしてやりゃ、付け上がりやがって!!!」


うわぁ、殴られる、と目を瞑ったあたし。


だが、いつまでたっても、何も起こらない。


そっと目を開くと、振り上げられたチャラ男の腕を龍太が掴んでいた。


怖っ!!!


物凄い形相でチャラ男を睨み付けている。


「俺の彼女が何か?」


自分より頭一つでっかくて強そうな龍太に怯んだチャラ男は力を抜き。


龍太が腕を離すと走って行ってしまった。


「何やってんだ?」


呆れた様にあたしを見る龍太に当り散らす。


「あたしが襲われるのを何で黙って見ている訳?!!何ですぐに助けてくれないのよ!!!!!」


うわーん、と泣き出すあたしを困った様に見ている。


「…おい」


「…えっ、えっ、えっ……」


「花」


「……ひっく…」


「皆見てるぞ」


駅員が近寄ってきて、龍太に何か話してる。


「すいません、大丈夫です。ただの痴話喧嘩ですから」


痴話喧嘩じゃねーだろ?!!!!!


龍太はあたしを隠す様にして隅の方に連れて行った。


あたしが泣き止むまで、頭を撫でてくれる。


あたしの顔を見て笑った。


「パンダみてえ。便所で顔洗って来い」


マスカラが流れてグシャグシャの顔を洗った。


折角したお化粧が取れちゃった。


トイレを出て、龍太と一緒に電車に乗るけど、口きいてやんない。


あたしはまだ怒ってるんだから。


龍太はあたしの方をチラチラ見てるけど、何も言わない。


何か言えよ、馬鹿。


龍太はあたしの機嫌を取るようなことは絶対にしてくれない。


いいよ。


それなら、あんたが何か言うまで、あたしも口きかないから。


ファーストフード店で簡単な食事をしたんだけど、その間も黙りっぱなしだった。


初めてのデートなのに、最悪。


映画館に入る前にあたしを振り返った龍太が言った。


「いい加減、機嫌直せ」


「……」


「あんまりきれいに化けてるから分かんなかった」


あたしだって分からなかったってこと?


自分の彼女も見分けつかないのかよ、馬鹿龍太。


だけど、龍太を見上げて言ってしまう。


「あたしのこと綺麗って言ってくれたから、今回は許してあげる」


化けてるなんて言ったのは、聞かなかったことにしよう。


聞いたこともないタイトルの映画だったので、あんまり期待してなかったんだけど、結構面白かった。


イギリスのロックバンドのドキュメンタリーで最後は主人公が自殺しちゃう話なんだけど。


龍太も面白かったみたいで、映画の後、入った喫茶店で、


「ライブ、すげえ迫力だったな」


とか、


「最後の場面で流れてた歌、よかったな」


なんて言っていた。


聞いてみると、龍太はインディーズロックとか好きらしい。


「えー?!!!」


驚くあたしに龍太は嫌そうに顔を顰める。


「んだよ?」


「だって、イメージと全然違う」


「何だ、そのイメージって?」


「だから龍太のイメージは何か和楽器の演奏とか聞いてそうなの。尺八とか和太鼓とか」


「…アホか」


雨は降らなかったので、龍太と手を繋いで、街をぶらぶら歩いた。


学校行く時と違って何か照れくさい。


今日の龍太は、白いTシャツの上から茶色のストライプのシャツを羽織り、色あせたジーンズとスニーカーを穿いている。


龍太って、いつも髪の毛はクシャクシャだし、服装だってあまり構わない風なんだけど、おしゃれに見えるんだよね。


制服の時も、私服の時も。


格好良過ぎて、ムカつく。


道ですれ違う女の子が龍太のことをチラチラ見てる。


龍太はそんなの全然気付いてない様子なんだけど。


公園に行って、あまり人の通らない場所でベンチに座ってキスした。


だけど、ワンピの短い裾が気になって、学校の屋上でする時みたいに夢中になれなかった。


人が通るかも知れないし。


暗くなってきて、雨が降ってきたので、帰ることにした。


駅で別れるかと思ったのに、龍太は家の前まで送ってくれた。


龍太は傘を持って来てなかったので、いらないって言ったけど、あたしの傘を無理やり押し付けた。


バイバイって別れた後、龍太の、


「花」


って言う声に、家の方に歩き出したあたしは、振り返る。


「何?」


「今度、そんな格好したら」


「え?」


「時間に遅れて来いよ」


口を開けて立ち止まったままのあたしに手を振ってもう行けという仕草をする。


「濡れるから家入れ」


心配してくれてるの?


何かすっごく嬉しい。


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