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6月26日(土)(後)

6月26日(土)(後)



あたしの部屋を見回して龍太が言った。


「花らしい部屋だな」


「そう?」


フリフリレースとか苦手なので、あたしの部屋は結構シンプルだ。


白い壁紙にカーテンとベッドカバーは水色に青の縞模様。


壁には、映画「バード」のポスターと、お父さんがウィーンに出張に行った時に買ってきてくれたクリムトの「生命の樹」の複製画だけ。


後、勉強机の前のボードには家族や友人の大切なスナップ写真や絵はがき等がごちゃごちゃ貼ってある。


今度、龍太にも写真もらおう。


家具はベッドと勉強机と本棚と洋服箪笥。


「これ、何?」


部屋の隅に置いてあるCDプレイヤーの隣に積んであるCDを見ていた龍太が、黒い楽器ケースを指差して聞いた。


「アルトサックス」


「へえ、聞かせろよ」


「でも、ずっと練習してないから、間違えるよ」


「いいから」


「じゃあ、ちょっとだけ」


楽器を組み立てるとストラップを首に掛ける。


龍太は興味深そうに、あたしのやってることをじっと見ている。


曲は一番最後に練習した曲。


ポール・デスモンド作曲の『テイクファイブ』。


…………


あまり大きなミスはしないで演奏できたと思う。


ピアノの伴奏がないので、テンポが途中で狂った気もするが。


龍太がずっと見つめているからすごく緊張した。


吹き終わると拍手してくれた。


「すげえな」


「小5から初めて、去年まで習ってたの」


「何で止めたんだ?」


「習ってた先生が引っ越しちゃって。来年あたりから新しい先生探して、またやろうかなって思ってる」


「絶対やれよ」


「え?どうして」


「これ吹いてる時の花、メチャエロいから」


「なっ、何言ってるのよ、馬鹿龍太!!!」


もう絶対に龍太になんか聞かせてあげないと、あたしが喚いていると、階段の下から香代が呼んでいる声がした。


「お姉ちゃん達、ケーキは何がいいの?」


龍太が下で皆と一緒に食べると言うので、一緒に降りていった。


あたしは嫌だったんだけどね。


だって、お母さんに、


「あなた達、仲いいのねー」


とか、からかわれるし。


おまけにサクソフォーンに纏わるお父さんとお母さんの思い出話とか聞かされて、ものすごく恥ずかしかった。


あたしと香代はもう既に何度も聞いている話だけど。


お母さんは学生の頃、アルトサックスを習ってたことがあって、今でも少しだけ吹ける。


ちなみにあたしの楽器はお母さんのお下がりだ。


ある時、友達の結婚式でお母さんがサックスを演奏したことがあったそうだ。


その頃、お母さんは既にもうお父さんと付き合ってたんだけど、サックスを吹くお母さんを見てお父さんは結婚を決意したとか。


「あの時、お母さんがすごくセクシーに見えてなあ。誰にも渡したくないって思った」


キャー、お父さん!!!


そんな恥ずかしいことを家族以外の人に言わないでよ。


ああ、もう、穴があったら入りたい。


そして、龍太がとどめを刺しやがった。


「確かに。さっきはいつも子供に見える藤本さんが女に見えました」


もう、死ぬ!!!!!


折角のケーキもゆっくりと味わうことができなかった。


龍太の分もちゃんと食べたけど。




「ご馳走様でした」


「また、遊びにいらっしゃいね」


「おう、夏になったら昼にバーベキューでもやろう」


「黒澤さん、お姉ちゃんをよろしくね」


そんな家族の台詞に見送られて龍太が帰った後、あたしはまた質問攻めにあっていた。


「ちょっと、花。一体どうやってあんないい男射止めたの?!」


「びっくりしたよね。お姉ちゃんって、今まで全然彼氏なんていなかったのに。急にあんな格好いい人連れてくるんだもん」


「あたしは何にもしてないよ。向こうから付き合ってくれって言ってきたの!!!」


嘘じゃないもんね。


最初は恋愛感情はなかったんだけどさ。


「流石私達の娘よねぇ」


流石って何よ、お母さん。


お父さんも質問してくる。


「花は先輩って紹介していたけど、黒澤君は何年生なんだ?」


「2年生だよ」


「ふーん。それにしては随分しっかりした子だな。剣道やってるせいか、最近の高校生にしては珍しく礼儀正しいしな。彼は勉強はできるのか?」


「うん、すごいよ。期末テストの結果、学年で5番だったんだって」


「うわー、お姉ちゃんの彼氏、欠点ないじゃん!!!」


「花は彼のどこが好きになったの?」


お母さんはあたしに真面目に質問しているから、恥ずかしいけどちゃんと答えた。


「えっと、優しいところ、かな。大事にしてくれるって言うか。後、一緒にいると安心する」


「そっか、それが一番だね。いい人見つけたね、花。大切にしなさいね」


「うん」


だけど、それでおしまいじゃなかった。


寝る前にベッドに横になって本を読んでると、お母さんが部屋に入ってきた。


「何?どうしたの?」


「ちょっと、香代にはまだ聞かせたくない話だから」


「何よ?」


「あなた、黒澤君とする時、ちゃんと避妊してもらってる?お父さんが心配だから確認しに行けって」


する時?!!!


する時って何する時?


何なんだ、うちの親はー!!!!!!


「…そんなことしてないから大丈夫だよ」


「いつかはする様になるでしょ。だから、その時はちゃんとしてもらうのよ。傷つくのは女の子なんだから」


「はいはい」


あることを思いついて、おやすみと言って、部屋を出て行こうとするお母さんを呼び止めた。


「ねえ。もし今度、また龍太を家に連れてきても、そんなこと絶対に彼には言わないでよ。じゃないと、もう連れて来ないからね」


「お父さんにはあなたがそう言ってたって伝えておくわ」


はぁー、もう疲れた。


だけど、眠る前に龍太にメールを出した。


「To :黒澤龍太


Sub :ケーキ


今日はありがとう。あたしと二人だけの時ももっと笑って話してね。おやすみなさい」


うわっ、びっくりした。


直ぐに返事が着た。


「From :黒澤龍太


Sub :RE ケーキ


ご馳走様。また聞かせろよ」


エロ馬鹿龍太。


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